時系列的には九十二話と九十三話の間の話です。
大体の事は読んでれば分かると思っていたのですが、疑問に思っている方がいたので今回の話を書きました。分かりづらかったようなのですみません。
僕が魔法少女となったニュゥべえについて分かったことを部屋でノートにまとめていた時、ふとグリーフシードリサイクル方法について疑問に思ったことをニュゥべえ尋ねた。
「そういえば、ほむらさんの報告によるとグリーフシードのリサイクルで魔女が一度もグリーフシードを落とさなかった事例がないんだけど、最初の時グリーフシードが貴重品みたいなこと言ってよね?」
グリーフシードから生まれた魔女は、その中心部にグリーフシードを保持している訳だから、当然倒せばそれを落とすだろうと僕は思っていた。
だが、旧べえや巴さんは魔女はグリーフシードを落とすことは少ないという言葉を思い出して、不思議に思ったのだ。
ある程度データが取れたので、猫耳ツインテールの少女の姿からマスコットの姿に戻ったニュゥべえが机の上に飛び乗って、僕に近寄る。
「ああ、それは魔女全体から見て、グリーフシードが希少という事だよ」
「ふうん。というと?」
「確かに魔女はグリーフシードから生まれるけれど、使い魔から成長を経て魔女に至るケースもある。というか、そっちの方が多いかな。使い魔まで倒す魔法少女はあまり居ないからね」
その言葉だけで、僕はニュゥべえの言いたいことが大体読めた。
グリーフシードから生まれた魔女は現状100%グリーフシードを落としたことと、ここでわざわざ使い魔から変化した魔女の話をニュゥべえが持ち出したということは、
「使い魔から成長した魔女はごく稀にしかグリーフシードを落とさない、ということかな?」
尋ねるような言い方をしたものの、それ以外の答えはないだろう。
ニュゥべえはにっこり笑って尻尾を左右に振った。
「正解だよ。使い魔から成長した魔女は体内にグリーフシードを保有していない。だから、人を食べてさらに時間を経ないとグリーフシードを生成しないんだ」
「一方、グリーフシードから……魔法少女から変異した魔女はソウルジェムがグリーフシードに変化するから必ずグリーフシードを落とす」
「それが倒されたグリーフシードからまた再び生まれた魔女にも、当然グリーフシードを落とすという訳さ。まあ、100%ってほどじゃないけど九割方はグリーフシードを出すだろうね」
なるほど。なら、最初に言っていた全体の魔女から見て、グリーフシードが希少だと発言は使い魔から成長した『ほとんどグリーフシードを落とさない魔女』を含めてのことか。
だったら、グリーフシードのリサイクル法を旧べえどもがあれだけ怒った理由も納得がいく。
まあ、もっともグリーフシードのリサイクル方法は複数の魔法少女が居て、初めて安全性が確立する方法だ。
なぜなら一人の魔法少女が行う場合だと、丁度よくソウルジェムの魔力が回復したと同時にグリーフシードの濁りを満たすことが難しいからだ。
ソウルジェムが完全に回復し切らないのに、魔女が孵化すれば安全策どころか自殺行為でしかない。
濁りを少しづつ吸わせて行くという方法もあるが、それも魔女が孵化するタイミングを計らなければいけない。ソウルジェムの秘密を知る魔法少女ならいざ知らず、普通の魔法少女なら孵化させようと思っている魔女以外とも戦うことになるだろう。
魔女の結界内でさらに新たに魔女が孵化したら、とてもじゃないが勝ち目がないはずだ。ただでさえ、グリーフシードは負の感情を吸って孵化しようとするのだから、細心の注意の元扱わなくてはならないだろう。
故に複数の魔法少女が少しづつ濁りを吸わせる方式の方が、孵化のタイミングを合わせることができるのだ。
濁りが多い方の魔法少女を優先的にして、濁りが少ない魔法少女は最後の方にしておけば仮に途中で魔女が孵化した場合でも、回復した魔法少女が積極的に戦い倒すことによって、戦闘後に出たグリーフシードで濁りを回復させることができる。
魔法少女が複数居て、なおかつお互いに信頼関係ができている巴さんたちだから可能だと言えるだろう。
しかし、同じことを考える魔法少女たちが居てもおかしくはないはずだ。
再び、ニュゥべえに質問すると彼女は思いがけない答えを返した。
「そういう事は考えられないようにソウルジェムを取り出した時に刷り込ませているんだ。ボクらを目の敵にしていたほむらでさえ、孵化寸前のソウルジェムをボクに回収させていただろう?」
「ソウルジェムって思考回路まで影響を及ぼしているんだ……。もしかして、巴さんや美樹さんがやたら
「個人差は当然あるけど、ある程度感情が
聞けば聞くほど嫌になるシステムだ。理に適ってるとは言えるだろうが。
あの聡い暁美まで僕に言われるまで思いつきもしなかったところを見ると、かなり精度のセーフティなのは予想は付いた。
それもそうか。仮にも武力を与えるのだから、首輪くらい付けるのは当然の話だ。
ニュゥべえの頬を指でつつく。さっき、お風呂に入れたばかりだから、もっちりとした弾力性がする。
当たり前の話だが、一緒に入浴した際にはこのマスコット形態をとってもらった。ニュゥべえは「せっかく人型になったんだから、背中を流してあげるよ!」と意気揚々と魔法少女姿で服を脱ぎ始めたので慌てて止めたのだ。その時に、偶然僕の手が彼女の胸に触れてしまい複雑な心境となった。
ちなみに言うと衣装の方は、僕があげたハンカチを魔力で変質させているだけなので着脱は可能なのだそうだ。むしろ、全裸の方が通常らしい。……勘弁してほしい。
「もう、政夫。あまりほっぺつつかないでよ」
そう言いつつも満更ではないようで、嬉しそうに尻尾を振っている。喜怒哀楽を全身で表してくれるので、人間相手より感情の読み取りが楽だ。
可愛い奴だと心から思う。だからこそ、僕の『計画』につき合わせていることに少しばかり罪悪感を抱いた。
明日、鹿目さんたちに紹介して、彼女たちとも仲良くさせてあげよう。
僕の汚らしい『計画』に加担させているのだから、せめて、罪滅ぼしに可能な限り、幸福を与えてあげたい。
「ごめんごめん。ニュゥべえがあんまり可愛いものだから、つい」
「そ、そう言われるとボクも悪い気はしないね」
照れたように耳をピコピコと動かす。最近、分かったことだが、ニュゥべえは照れると耳を動かす癖がある。
「にしても、ニュゥべえを観察対象として旧べえたちは回収しないものかね? 今や、魔法少女システムの集大成とも言える存在になったのに」
それを聞くとニュゥべえはいつもより少しだけ冷たい笑みを浮かべた。
「……かつての彼らならそうしたかもしれないね。でも、彼らは政夫に突きつけられた『何故、魔法少女システムなんてものまで作ってまで宇宙の寿命を延ばしているのか』という命題のおかげで歪み始めたんだ。精神疾患と言ってきた『感情』が自分たちにも存在するかもしれないと恐れているんだよ。だから、政夫やボクに近付いて来ない……『
それを聞いて僕もつられて嘲笑をこぼす。
「それは何とも、笑える話だね。感情のない『自称健常者』のインキュベーター様は随分と臆病なのか」
「政夫が言った事だよ。『そこまで必死に宇宙の寿命を延ばしている君らに感情がない訳がない』って」
二人で笑いながら、宇宙からやって来られた人間より高度な知的生命体様を扱き下ろして楽しんだ。嫌いな奴の陰口をたたいて盛り上がるのは、宇宙共通なのかもしれない。
「それじゃあ、お休み。ニュゥべえ」
「うん。お休み。政夫」
枕元で丸まるニュゥべえにお休みを言うと、目を瞑り、弛緩する。
ニュゥべえの手前、表には出さなかったが、ビルの屋上から飛び降りる時は死ぬほど怖かったのだ。
魔法少女のプロセスに必要なものが祈りだと確信に近いものを感じていたが、正直言って冷や汗ものだった。
空中に落下していくまで感じるあの感覚は心臓を握り潰さんばかりの恐ろしさ。
声を出さないように堪え、表情に怯えが出ないようにするのはかなりの精神的労力を要した。
僕がこの街で一番うまくなったのは間違いなくやせ我慢だ。
そのせいか、ベッドに入って数十秒だというのにもう意識が飛びそうなほど眠い。だが、その甲斐あって目的の第二段階は見事クリアできた。
明日から、最後の決め手となる第三段階に挑むとしよう。
~ニュゥべえ視点~
ボクは政夫が寝息を立て始めたのを確認すると、姿を人型に変えて、掛け布団の中に潜り込む。
起こさないように注意しながら、政夫の身体にゆっくりと抱きついた。
風呂上りで温かい温もりと、薄っすらと柑橘系のボディーソープの香りが漂う政夫の匂いがボクを迎え入れる。
これはいけない。思考が
パジャマ越し政夫の政夫の胸板に顔を押し付ける。
筋肉質ではないが、余計な脂肪も付いていない中肉中背の身体だ。
触れているだけで安堵感が溢れ出してくる。
「はぁ……」
決して
酩酊する意識の中で確信する。これこそが、『幸せ』という感情なのだろう。
素晴らしい。本当に素晴らしい……。
自分でも気付かない内に政夫の背中に手を回していた。
「う、うん……」
政夫の口から声が漏れた。驚いて手を離し、一瞬でベッドの中から退避して、反対側の壁に張り付く。
起きてしまったのだろうか……。
緊張しながら、政夫を見つめているとすぐにむにゃむにゃ言いながら寝返りを打っただけだった。
よかった。どうやら、目を覚ました訳ではないようだ。
ほっと安心するボクだったが、考えてみれば別に悪い事をしているのではない。
いつも、時折掛け布団の中に潜り込む事はやっていたし、それを政夫に咎められた事も一度だってない。
ただ、今のボクは人型で女の子の姿をしていて、そして、政夫に対して恋愛感情を持っているに過ぎない!
何だ。何一つ問題はないじゃないか。
納得をした後、再び政夫のベッドに侵入する。スカートの下から生えた尻尾を器用に動かして、掛け布団を持ち上げたまま、ゆっくりと潜っていく。
それに、ボクは別に野蛮な生殖行為に及ぼうとしているのではない。純粋に政夫の温もりをこの姿で感じたいだけだ。今日のボクの努力を
ほむらのように政夫の生殖器官を見て興奮する少女とは違うのだ。
政夫だって、第二次成長期に差し掛かる少年として、同年代くらいの姿のボクと共に就寝するのも嫌ではないだろう。
これはまさに利害の一致したwin-winな関係と言えるはず。
自分の行いの正当性を改めて確信したボクは政夫の身体にくっ付くように目を瞑る。
幸せだな~、そう思ってうとうとと眠りに就いていく。
「む……また髪の色が。今度は『金の赤』!?」
そう言えば、政夫は時々変な寝言を口に出すけど、どんな夢を見ているのだろう。
そんな事がぼんやりとした頭に浮かんだが、今はどうでもよかった。
一口キャラ紹介
名前 夕田政夫
年齢 十四歳
血液型 O型のRH-
星座 おとめ座
好きな食べ物 ハンバーグ
好きなヒーロー アンパンマン
概要 リアリストのような発言をするが実はかなりのロマンチスト。幼少時代のスイミーの事件が原因で人間不信に陥り、世の中に失望していたが、織莉子との出会いのおかげで『周囲の人間を大切する』という信念を得て、友達のために頑張る人間になった。
だが、同時に強い人間であろうと自己啓発の結果、他者を必要としない人間になってしまった。これは自分が心から大切にしていた母親やスイミーを失って絶望した昔の自分と決別したためである。
相手の心理を読み解き、詐術で周りを翻弄することが得意だが、実はそういった裏技じみた行動が嫌いだったりする。
人の汚い悪意の存在を強く感じながら育ったため、自分の事を「汚い人間」と認識している。そのため、まどかたちのような「純粋で綺麗な人間」を自分や汚い人間よりも上等な人間として見ている。
だから、そういった「純粋で綺麗な人間」を守るためなら、命すら簡単に掛けてしまう。
昔から、仮面ライダーやウルトラマンといった格好いい「戦うヒーロー」より、自分の顔をお腹を空かせている子供に食べさせるアンパンマンのような「与えるヒーロー」の方が好きだったのだが、織莉子の言葉もあり、他人に自分を削ってでも分け与えるような人間になってしまった。
一言で言い表すなら、『善人でありたかった少年』。