魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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今回の超番外編はもしも魔獣世界に政夫が居て、リボほむと出会っていたらという話です。


超番外編  反論の物語

 見滝原市という群馬県のとある街に越してきて早二週間。僕こと夕田政夫はこの変わった街にも慣れが生じてきた。

 最初こそは無駄にお洒落で機能性に欠けたデザインの街並みや、まず他の都市では見られないようなカラフルな色彩を放つ現地の人たちに圧倒され、内心では突っ込みの嵐だった。

 もはや、見滝原中の透明な教室の壁にも見慣れ、教室の壁を透明にするようによって発生する効果や作用について個人的に論文を書いているほどだ。

 タイトルは『常に監視されることによる人格成形について』。完成したら父さんにも読んでもらおうと思っている。

 学校ではコミュニティを広げることに尽力したおかげで同学年はもちろん、委員会や部活を通して一年や三年にも大勢の友達ができていた。

 順風満帆。むしろ、不安になるほど毎日充実している。

 ただ最近、一人の女の子となぜかよく顔を会わせることが多い。

 その女の子の名前は暁美ほむら。

 一週間違いで同じクラスへ転校してくるというまるで漫画のような出来事のせいもあり、ある種の因縁めいたものを感じてしまいそうだ。

 まあ、転校生という立場で、この街ではあまり見かけない黒髪だということもあり、僕も彼女にはシンパシーのようなものを持っているのは間違いない。

 驚くほど整った顔立ちをしているので、そこだけは少し距離を離してしまいそうになる。

 あからさまな美人は苦手だ。偏見かもしれないが、そういった顔の整った女の子はカースト制度を好み、いじめや迫害をしたがる傾向にある気がするからだ。

 僕が居た小学校ではそういうことがままあり、見た目は華のようでも中身は産業廃棄物のような美少女を腐るほど見てきた。

 そいつらが起こしそうになった胸糞悪い行いを何度か邪魔したことがあるから、余計に印象がよくない。

 もっとも、彼女は性格は悪くないようで、落ち着いた雰囲気のする子なので特に悪印象はなかった。

 

「ナァ~オ」

 

 僕の膝の上で喉を鳴らす子猫を撫でた。

 天気が良かったために近くの川の堤防で陽に当たりながら読書を楽しんでいたのだが、やたら人懐っこい黒い子猫がじゃれ付いて来たので読書を中断し、抱き上げていた。

 

「よしよし」

 

 色や大きさ、人懐っこいところも合わせて、僕が小学校時代にこっそり飼っていた子猫・スイミーによく似ている。

 スイミーを失ったあの事件がトラウマになり、しばらくは猫を見ると「あの光景」がフラッシュバックするようになっていたが、四年生の時にペットショップに通い詰めて無理やりトラウマを克服した。

 今もまったく思い出さない訳ではないが、吐き気や震えが止まらなくなるほど酷いものではなくなっていた。

 人間、努力すれば大抵のことは乗り切れるようだ。本来はそういった力づくのトラウマ克服はよくないのだけれど、いちいちゆっくりと直していくには時間が無さ過ぎた。

 この程度のことをいつまでも苦しんでいたら、前に進めやしない。

 目を瞑って腹を見せる子猫をくすぐりながら、ふと顔を上げると堤防の上から(くだん)の暁美さんがこちらを向いて歩み寄って来ていた。

 

「こんにちは、暁美さん。いい天気だね」

 

 苦手意識はあれども、嫌悪の感情は持っていないのでにこやかに会釈した。

 

「ええ。えっと夕田君で良かったかしら」

 

「うん。夕田政夫だよ。一応、クラスメイトなんだけど……僕って印象薄いかな?」

 

「……ごめんなさい。あまり人の顔を覚えるのが得意でなくて」

 

 申し訳なく頭を下げて謝る暁美さん。頭に付いているリボンがその際に軽く揺れた。

 そう。なぜか彼女は赤いリボンをカチューシャ(・・・・・)のように髪に巻いている。

 普通、リボンというものは髪を束ねるために使うものだと思うのだが、どうやら暁美さんの中では違うらしい。

 指摘するのも野暮だし、何よりお洒落として付けているなら気まずくなること受け合いだ。

 

「いやいや。地味な顔立ちだからね。仕方ないよ」

 

 とは言ってももう二週間も経っている上に、初めて話す訳でもないのでそろそろ覚えてもらいたいところだ。

 

「そう言ってもらえると助かるわ」

 

 暁美さんは小さく微笑んだ。

 もし、僕が美少女に弱い男なら舞い上がってしまうかもしれないが、生憎と地味で目立たない女の子が好みの僕は照れの一つもしなかった。

 しかしながら、彼女のその微笑が酷く(はかな)げで弱々しく見え、それが不思議と気になった。

 

「それで僕に何か用事でも?」

 

 暁美さんが寄って来た理由が分からないので尋ねると、彼女は子猫に視線を向けた。

 

「エイミーが随分貴方に懐いているようで驚いたわ」

 

 エイミーというのは多分、この子猫の名前だろう。

 まさか、見た目だけでなく名前まで似ているとは……。つくづく、変な縁だ。

 

「もしかして、君の猫? 首輪はしていないようだけど」

 

 そう聞くと、暁美さんは少し悲しげな表情をして視線を逸らした。

 

「私のじゃないわ。……友達が可愛がっていたってだけよ」

 

「そうなんだ」

 

 表情と言葉から察するに、その友達とは何かしらの形で会えなくなってしまったのだろうか。

 恐らくは死別と言ったところか。

 そう珍しくもない話だ。

 出会いがあれば、別れもある。それが生きていくということなのだから。

 僕は暁美さんに穏やかに笑いながら、気分を害さないそうに注意を払い、聞いてみた。

 いつもならここまで踏み入ることはしないのだが、ちょっとだけに気になっていた。

 

「大切な友達なんだね。どんな人?」

 

「……優しい子だったわ。私の最高の友達よ」

 

 遠くを見るようなその目はきっと、その子を映そうとしているのだろう。

 僅かに自慢するような笑みが混じったが、やはり彼女の顔には陰があった。

 そして過去形を多用しているところからして、もうすでに亡くなっているようだ。

 僕は膝元のエイミーを撫でながら、暁美さんを見つめた。

 ――良くない笑顔だ。

 それが暁美さんの笑い方に対する僕の感想だった。

 こういう笑い方をする人間を僕は何人か知っている。

 未来に対して何の希望も見出してない目は生きていたくない人間のものだ。

 「死にたい」ではなく、「生きていたくない」というのが肝だ。

 積極的に死への衝動がある訳ではないが、ふとした拍子に死へと転がり落ちてしまいそうになる危ない状態。

 この小学四年の時にこの笑い方をしたクラスメイトは翌日には電車の通過する踏み切り内にダイブしていた。

 このままでは十中八九、彼女も(ろく)な最期は迎えないだろう。

 

「行きたい? その子の傍に」

 

「えっ?」

 

 一瞬で現実に戻ってきた暁美さんは弾かれたように僕を見た。

 僕がそんなことを言い出したことよりも、自分の内心が見透かされそうになったことに対して驚いているようだった。

 暁美さんは髪に括りつけてある赤いリボンに触れながら、少しだけ震えた声で尋ね返してきた。

 

「……どうしてそんな事を聞くの?」

 

「いや、君の言い方がまるでそういう風に聞こえたから」

 

 友達のことを言われた時に急に触れだしたところから見て、その妙な巻き方のリボンもその友達とやらにもらったものなのだろう。道理で付け方がおかしい訳だ。

 間近で見れば見るほど、この子の心はガタガタだ。いつ均衡が崩れてもおかしくないほど不安定なバランスをしている。

 ()び付いた歯車を無理やり、動かしている機械のようでもある。 

 

「夕田君……貴方はもしも帰る場所もなくなって、大好きな人たちとも離れ離れになって、一人ぼっちで永遠に過ごさなきゃならなくなったらどう思う?」

 

 急に暁美さんが話題を変えた。

 僕の隣に腰を下ろして、じっくりと話をする用意を始めている。

 ……確かに僕から会話を続けたけれど、ここまで明確に『長話します』という態勢を取られるのはちょっと嫌だな。それだけ誰かに聞いて欲しかったことなのだろうけど。

 夕方までには終わってくれるといいなぁ、と思いながら暁美さんに返答する。

 

「随分と壮絶な仮定だね。ちょっと考えさせて」

 

 いきなり話を変えたとは言え、その質問が他界した友達のことであることくらいは察しが付いた。

 だから、自分が死んだ後に意識あることを仮定して、考えた上で答えなければならない。

 そうだな……。

 

 ――もしも、僕が死んだとしたら、きっと帰る場所など求めない。

 

 天国も極楽も輪廻転生も要らない。死ねば終わりでいい。一度しかないからこそ誰もが必死になって生きている

のだから。

 

 ――もしも、僕が死んだとしたら、きっと大好きな人たちと離れ離れになっても構わない。

 

 元より、人の出会いは一期一会だと考えているから、そこまで他人に執着したことはない。故に傍に居られる時間を大事にして過ごすようにしている。

 エイミーに視線を落とす。仰向けで不思議そうに首を傾げるエイミーにスイミーを重ねる。

 ……ちょっと目を離した隙に一生の別れになってしまうことなんて珍しくもないのだから。

 

 ――もしも、僕が死んだとしたら、きっと一人ぼっちで永遠を過ごすことになっても困らない。

 

 他人を生きるためには必要不可欠だが、精神的に必要かと言われたらそうでもない。

 何かを為すこともないなら一人もそれはそれでいい気がする。

 人間関係はあくまで生活するためのしがらみであり、前提条件が崩れたら孤独でもいいのではないだろうか。

 僕、社交的だけど、あんまり人付き合いが好きな訳ではないしな。正直に言うと一人で居る方が好きだ。

 ……あれ? おかしいな。そんなに困らないぞ。

 

「まあ、突然そうなったら悲しいけど、仕方ないって納得できればそれでもいいんじゃないかな?」

 

 意外とそれほど困らないような気がしてそう答えると、隣に座った暁美さんが見る見る内に怒りだし、大きな怒声を上げた。

 

「どうして、そう思えるの!? 本当に貴方、真面目に考えたの!?」

 

 僕の膝の上に居たエイミーがその声に驚き、膝の上から転げ落ちるように逃げ出してしまう。それを追いかける訳でもなく、見送ると暁美さんに顔を向けた。

 

「君、わりと激情家だね」

 

 ほむら。(ほむら)か。名は体を表すとはよく言ったものだ。

 危うい均衡に居る人間だと認識していたので、どれほど驚きはしなかった。

 むしろ、今までまともに生活できていたことにびっくりだ。

 とはいえ、勝手に質問して、答えたら激昂するとは何とも傍迷惑なお嬢さんだ。

 

「ふざけているの? そんな事になったら誰だって辛いに決まってる! 報われない! 死ぬよりも酷いわ!!」

 

 支離滅裂なその台詞は僕ではなく、自分に言っているようにも聞こえた。

 死ぬよりも酷い? 死後の世界のことを言っていたのではないのか?

 それにしても、最小限しか情報を提示しないくせに、自分の思い通りの答えが返ってこないと怒るのか……ワガママな子だな。

 この子の友達に同情しそうだ。

 

「まるで『不幸であるのが当然』みたいな口振りだ」

 

「当たり前じゃない。幸せである訳がない!」

 

「それは君個人の価値観だろう? 幸せじゃなくても必ずしも不幸とは限らない」

 

「……っ!?」

 

 熱気のこもった紫色の瞳を僕は冷静な視線で見返す。

 暁美さんの瞳に映った僕の顔は酷く冷ややかなだった。

 何でこんなに冷えた気持ちになるのだろうか。自分でも不思議なほど呆れたような感情が湧き上がってくる。

 別に暁美さんの友達のことを知っている訳ではない。けれど、彼女の口振りが自分の価値観しか認めないと言っているようで、どうにも気に入らなかった。

 

「暁美さんの友達の話を聞かせてくれない? もしも、それで君の言ってることの方が正しいと思ったら謝るから」

 

 

 

 暁美さんは最初こそ口ごもっていたものの、一つ息を吐くとゆっくりと語り始めた。

 絶望の振り撒く魔女。希望をもたらす魔法少女。エネルギーを求めて暗躍するインキュベーター。

 ソウルジェム。グリーフシード。最悪の魔女、ワルプルギスの夜。最強の魔法少女鹿目まどか。

 円環の理。魔獣。

 それらの単語を大真面目に淡々と話す暁美さんはとても嘘を吐いているようには見えなかった。

 日も落ちていき、夕焼けが川の水面をオレンジ色に染め上げる頃、ようやく暁美さんの話は終わった。

 

「これが私の友達の……まどかの物語よ。どう? 謝る気になったかしら?」

 

「うん。ごめん。謝るよ……ところで話は変わるんだけど僕の父親は精神科の医師をやっているんだ。良かったら紹介し……」

 

「貴方、私が頭のおかしい人間だと思っているでしょう!?」

 

 いや、だって……魔女とか魔法少女とか、(しま)いには神とか言い出すし。正直な感想を言えば、正常な思考回路を持っている人には見えない。

 暁美さんの言う『まどか』もただの空想上の存在なんじゃないかとさえ思えてきた。

 

「こ、心の病は本人の責任じゃないから」

 

「私は正常よ!」

 

「……酔っ払いは自分のことを『酔っている』とは言わないものだよ」

 

 可哀想な人を見る目で優しく諭すと、キッときつい目付きで睨まれてしまった。

 これは失言だったと後悔しつつ、暁美さんへの対応を考える。

 この手の症状の患者は対人関係に敏感になっていて、そこからのストレスが再発の引き金のひとつとなる場合がある。

 特に患者が苦手なのは、身近な人から「批判的ないい方をされる」「非難がましくいわれる」、あるいは「オロオロと心配されすぎる」ことの三つだ。

 重要なのは小さなことでも患者のよい面を見つけ、それを認めていることを言葉で表現することだ。困ったことについては、原因を探すのはひとまず脇に置いて、具体的な解決策を一緒に考える、というのがベターな接し方だろう。

 こほん、と一つ咳払いをして僕はできるだけ安心感を持たれるような穏やかな表情を浮かべる。

 

「ねえ。暁美さんは友達は居るかな? 『まどか』さん以外でね。あ、少しでも交流がある人なら友達としてカウントしてもらって構わないよ」

 

 具体的には『目に見えるタイプの友達』が居てくれるといいのだが。

 心中でそんなことを思いながら尋ねると、暁美さんはむっつりとした不機嫌な顔で言った。

 

「さっきから随分と失礼ね、貴方。ちゃんと居るわ。二人も」

 

「そっか。それは良かった」

 

 ……二人しかしないのか。ゼロよりは遥かにマシとは言え、少ないな。

 そして、この答えさえも真実かどうか分からないのが怖い。『まどか』の派系で『みどか』とか『むどか』とか架空の存在だったらどうしよう……。

 話せば話すほど心配になってくる女の子だ。こんなに不安な気持ちにさせられるのは初めて!

 

「あのさ、良かったら、僕とも友達になってくれないかな?」

 

 この子をこのままにさせておくのは危険だと僕の第六感が囁いている。というか、一応多少なりとも言葉を交わしたクラスメイトとして見捨てて置けなかった。

 

 暁美さんは怪訝(けげん)そうな目で僕を見つめて、尋ねる。

 

「……一体どういう話の流れでそうなったの?」

 

「こう、何ていうか、暁美さんて(頭の中が)ユニークだから、話していると(心配で)もっと一緒に話していたなって感じるんだ」

 

「何か、言葉の外に悪意を感じるのは私の気のせいかしら……」

 

 無駄な勘の鋭さを発揮する暁美さんに僕は今日最高の笑みを向けてこう言う。

 

「気のせいだよ。僕はただ君と友達になりたいだけだよ」

 

 放っといて自殺でもされた日には寝覚めが悪くて仕方ない。それにここで見放してしまったら、僕の目指す『優しい世界』からかけ離れてしまう。

 幸いなことに暁美さんは多少妄想癖があるようだが、学校での彼女を見る限り集団生活を送れる程度には協調性と社交性がある。

 これならば、薬物療法よりも心理社会的治療をしていけば症状が改善していくだろう。

 

「……まどかは……本当に居たのよ」

 

 僕がまったく『まどか』について信じていないことを感じ取ったようで、暁美さんは悲しげにそう呟く。

 しかし、僕はそこに関しては正直、それほど重要に感じては居なかった。

 なぜならば――。

 

「そうかもしれない。でも、もう(・・)居ないんだろう」

 

 そう。真実だろうが、妄想だろうが、世界にはもう『暁美さんの友達のまどか』という人物は存在していない。

 それだけは変わらない事実だ。

 

「……それは」

 

「『まどか』さんは概念になって、人としての彼女は今はもう居なくなってしまったんだよね? だったら、『まどか』さんに固執するべきじゃない」

 

 僕の言葉に暁美さんは激昂する。

 

「あの子を覚えているのは私だけなのよ!? そんな事できるわけが……」

 

「誰も忘れろなんて言っちゃいないよ。ただ必要以上に居なくなった人間を固執するなって話だよ。……それとも君は愛する人間を失って生きてる人間が自分一人だけだとでも思ってるの?」

 

「…………」

 

「あまり平凡な日常を舐めないでね? 君が言う非日常と違って『魔法』も『奇跡』もないし、『魔獣』も『魔女』も居ないけど、理不尽も悲劇も、絶望だって腐るほど転がってるんだよ?」

 

 大切な人を失っても歯を食いしばって生きている人は五万と居る。

 その上、こっちは絶望したくらい(・・・)では死なせてくれないのだ。僕らの心臓は希望がないだけじゃ止まってくれない。

 わざわざ命を絶つ行為をしなければ死ねない分、『魔法少女』とやらよりも遥かに悪質で辛くて苦しくて、そして何より馬鹿馬鹿しい。

 

「辛いのは日常だって同じだよ。皆、一度くらいは死にたいと思うほど絶望してるよ。でも、生きてる。生きることが楽しいからじゃない。それが生命に対する義務だからだ」

 

 僕は生きていることが必ずしも幸福であるとは思わない。

 死んだ方が絶対にマシだと思えるような悲惨としか形容できない人生を歩んだ人たちと言葉を交わしたことがあるし、実際にそのことが原因で死んだ人も知ってる。

 だけど、それが人生なのだ。

 

「大切な人とずっと一緒に居ることなんてできない。必ず別れがやってくる。それは理不尽だけど、同時に当然のことでもある。それを不幸と呼ぶのなら、その不幸は『人が、人として生きるために必要不可欠な不幸』だよ」

 

 それを排除したら人生など茶番だ。辛いことや苦しいことに塗り潰して「めでたしめでたし」なんて言うのはふざけてる。

 

「……なら、まどかのことはどうすればいいの!?」

 

 つかみ掛かるように僕の胸倉を両手で掴み、()し掛かるように僕へ寄る暁美さん。

 僕はそれにされるがままで、ただ彼女の顔を眺めた。

 道に迷った幼い子が切羽詰って、道を尋ねているような、そんな今にも泣き出しそうな顔だった。

 

「頭の片隅にでも置いておいて、時折思い出してあげればいい。ひたすら君が引きずり続けてもそれで『まどか』が何か得する訳じゃないんだろう?」

 

「…………」

 

 黙りこくったままで僕の胸倉を掴んでいる暁美さんの手を、上からそっと握った。

 

「話を聞く限り、『まどか』さんという人は、君が頑なに固執し続けることを望むような人間には思えなかったけど?」

 

 それからしばらく、両者共に見つめ合い、数分ほど間が空いた後に暁美さんは口を開いた。

 

「……そうね。まどかはそんな事は望まないわ」

 

 その言葉と共に僕の胸倉から手を離し、立ち上がる。

 暁美さんの瞳は沈む夕日が反射して輝いているせいか、彼女の決意が色になって表れているように見えた。

 あまりにも絵になる映像に見蕩れていると、彼女は未だに座ったままの僕に手を差し出した。

 

「夕田君……いえ、政夫。私と友達になってくれるかしら?」

 

「喜んで。よろしくね、暁美さん」

 

 いきなり、呼び捨てで名前を呼ばれるようになるとは思わなかったが、暁美さんが手を掴んで僕は微笑んだ。

 彼女の手のひらは少しひんやりしていて心地よく感じた。

 こうして、僕らは友達になった。

 

「ここまで私に踏み込んで来たのはまどか以外では貴方が初めてよ」

 

「それは光栄だね」

 

 どうやら『まどか』のという枕詞が彼女の口から聞こえなくなるまでには、しばらく時間が掛かりそうだ。

 

「あ、そうだ。最後に一つ言わせてもらっていい?」

 

 友達として一つだけどうしても言っておきたいことがあった。

 

「何かしら?」

 

 カチューシャのように巻き付けたリボンに指を差して指摘する。

 

「そのリボン、付け方おかしいと思うよ」

 

「え!?」

 

 




予想よりもちょっと長くなりました。
ちなみに本編より政夫がドライな人生観持っているのは、まどかたちに会わなかったからです。
本編の政夫もまた、彼女たちとの出会いで人として成長したという訳です。

え? IF世界の政夫は明るい? あの政夫は恋愛に現を抜かして、頭のネジが二三本飛んでいるので仕方ありません。

ちなみにアンケート上位の織莉子とニュゥべえの番外編も妄想していたりしました。
織莉子の場合は、魔法少女になり前に政夫と再開して、政夫の父が彼女の後見人になって同棲する、ありきたりなラブコメでした。
これに決まった場合、かなり甘い話になったと思います。

ニュゥべえに決まった場合はちょっと変化球なお話にするつもりでした。
内容はニュゥべえがパワードスーツ状に変身して政夫がそれを身に付けて、魔女と戦うちょっと変わった物語になっていたと思います。
タイトルは『孵卵器装甲インキュベイド』。
政夫が身体を張ってニュゥべえと共に直接戦う変身ヒーローもののような感じにする予定でした。
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