魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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第十三話 登校日和

「あれ?鹿目さん、どうしたの?こんなところで突っ立ってて」

 

「ティヒヒヒヒヒ」

 

「痛ッ!何!?何で小豆(あずき)投げてくるの!?意味分からないんだけど!ちょッ止めて」

 

「ティヒヒヒヒヒヒ」

「ティヒヒヒヒヒヒヒヒ」

「ティヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」

 

「うお!鹿目さんが増えた!?痛い!痛いって!!だから何で小豆投げてくるの!?」

 

「ティヒヒヒヒヒ」

「ティヒヒヒヒヒ」

「ティヒヒヒヒヒヒヒヒ」

「ティーヒッヒッヒッヒッヒ」

 

「やめて!やめてくれぇ!あと最後の鹿目さんだけ飛びぬけてテンション高くない!?」

 

 

 

 

 

ジリリリリ。ジリリリリ。

僕は昨日と同じように目覚まし時計の音で意識を覚醒した。

また悪夢か。暁美の話を聞いたせいか、やたら大勢の鹿目さんが出てきた。超怖かった。

携帯でもいじって気分を変えよう。

 

「あれ?メールだ。うわ……!」

 

画面にはメールが来たことを告げるアイコンが出ていて、受信メールが四十通ほど届いていた。

送り主はすべて巴さん。どうやら5分おきにメールをくれたらしい。どれだけ人に飢えてたんだ、あの人。

マナーモードかつバイブレーションを最弱にしていたせいで昨日はメールに気づかなかった。

とりあえず、全部見るのは手間なので、最後のメールだけ見てみよう。

 

『件名:何でメール返してくれないの?   

本文:私のこと嫌いになっちゃったの?私が頼りないから?駄目な先輩だから?ねえ、嫌いにならないでよ……私達、友達でしょ?そうよね?昨日、夕田君言ってくれたよね?お友達だって。お願いだから嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないで嫌いにならないできらいにならないできらいに……』

 

「うおわッ!」

 

あまりの狂気(ただよ)う文面に携帯を落としてしまった。

何これ……?怖すぎる。ヤンデレかよ、巴さん。ソウルジェム濁ってたりしたら、シャレじゃ済まない。

これはメールじゃなく、電話で話した方がいいな。

すぐさま僕は、巴さんに電話を掛けた。……ワンコールで繋がった。速い。

 

「もしもし。夕田です。とも・・・」

 

『夕田君!良かった……メール全然返ってこないから、嫌われたのかと思っちゃったわ。そんな訳ないのに、ごめんね?勝手に勘違(かんちが)いしちゃって』

 

あの、僕まだ何も言ってないんですけど。……この人、結構やばいな。

 

「……すみません。ちょっと携帯見てなくて」

 

『いいのよ。気にしないで。私と夕田君はお友達なんだから、ね?』

 

嬉しそうな声が僕に返ってくる。このテンションの落差が怖い。

支那モンに魔女の正体を明かされそうになった時も、友達になると言った瞬間にショックから一変して立ち直っていた。要するに『巴マミ』という人間はとてつもなく不安定なのだ。

 

「本当にすみませんでした。これからは気を付けます。それじゃあ」

 

『待って。もう切っちゃうの?もっとお喋りしましょうよ』

 

「何言ってるんですか。学校で会って直接話せばいいでしょう。長話してるとお金が掛かるし、遅刻してしまいますよ」

 

『そう……?そうよね。私ったら、浮かれちゃって。それじゃ学校でね』

 

ふー。巴さんと会話をするとひやひやする。いや、そんなことより早く着替えて、朝食を取って出かけないと本当に遅刻してしまう。

 

 

 

父さんと朝食を終えて僕は家を出ると、真っ直ぐ鹿目さん達がいる待ち合わせの場所に行く。

場所に着くと、ピンク、青、緑の三人の少女が待っていた。ただ昨日とは違い、和やかな雰囲気ではなかった。

美樹は腕組みをして仁王立ちして僕を睨(にら)み、鹿目さんも控(ひか)えめながらも怒った表情をしていた。まあ、十中八九、昨日の暁美の件だろう。何も知らない志筑さんがおろおろしているのがその証拠だ。

さて、何と言ったものだろうか。

 

 

 

 

「さあ、話してよ。昨日何があったのか」

 

待ち合わせの林道で僕は美樹と鹿目さんに問い詰められていた。と、言っても主に質問するのは美樹の方だ。

僕にわざわざ聞くということは支那モンには、まだ会っていないということか。

なぜだ?あの似非(えせ)マスコットなら、死んだところを見られたぐらいで、二人に会わなくなるほど可愛げがある奴じゃない。ということは・・・恐らく。

 

「志筑さんもいるこの場で?」

 

僕は、話以前に雰囲気についていけていない志筑さんの方を見て、わざと志筑さんにも聞こえるような声量で言った。

こう言っておけば、志筑さんは当然ながらこの話に興味を持つだろう。自分だけ仲間はずれにされているようなものなのだから。

 

「あの、先ほどから一体何の……お話ですか?」

 

僕の予想通り、志筑さんがおずおずと美樹に尋ねた。言外に自分にも教えろという思いが伝わってくる。

 

「あ、えっーと、その、何て言えば……ねえ、まどか」

 

「う、うん」

 

美樹は返答に困り、慌てふためいて鹿目さんに振る。だが、鹿目さんも頷くだけで何も言えない。

それはそうだろう。『魔法少女』や『魔女』がどうのこうのなんて話したら、ただの電波だ。加えて、まだ平穏を享受(きょうじゅ)している志筑さんを巻き込みたくないという思いもあるはずだ。

 

そして、ここで僕が助け舟を出す。

 

「実はねー、志筑さん。この一緒に登校するメンバーに一人加えたい子がいてさー」

 

「どういう事なんですか?」

 

美樹と鹿目さんは、僕の予想外の発言に「えっ?」という顔になっていたが、構わずに志筑さんとの会話を続ける。

 

「ほら。暁美さんだよ。あの子、人見知りなんだけど、ちょっといろいろあって仲良くなったんだ。・・・ねえ、暁美さん。そんなところに隠れていないでこっちに来なよ」

 

僕は、隠れて近くにいる『だろう』暁美に向けて言った。

すると、すぐに林側の方から、暁美が現れた。僕以外の三人は驚いていたが、僕は少しも驚かなかった。

やっぱりね。今までこっそりと鹿目さんを尾行していたのだろう。支那モンが鹿目さんに会うのを阻止していたのだ、恐らくは昨日僕と別れてからずっと。……超ストーカーだな。

 

「彼女、極度の恥ずかしがり屋でね。だから、志筑さんに受け入れてもらえるか分からなくて。ごめん、隠しごとなんかしちゃって。ほら、二人とも志筑さんに謝って」

 

美樹と鹿目さんに近づいて、二人にしか聞こえない声でぼそっと言う。

 

「君たちには何がなんだか分からないと思うけど、魔法少女のことを知られるよりはずっとマシだとは思わない?」

 

「うッ。それは……」

 

「分かった。政夫くんに合わせるよ」

 

二人とも、志筑さんに頭を下げて、今まで仲間はずれにしてしまったことを詫(わ)びた。

志筑さんは「お気になさらないでください」と、微笑みながら僕と二人を許してくれた。まあ、志筑さんを騙してしまった結果になるが仕方ないだろう。人を守るための嘘は美しい……ような気がする。

 

二人が志筑さんに謝っている間、暁美が僕に近づいてきた。

 

「……いつ気が付いたの?私がいる事に」

 

「いや。気付かなかったよ。ただいるだろうなと推測しただけ」

 

「またカマを掛けられたってわけね」

 

「でも、これで愛しの鹿目さんを合法的に見張ることができるだろ。僕に感謝してよ?」

 

「『愛しの』って、まるで私が同性愛者みたいじゃない」

 

「違うの!!?」

 

「違うわよ!!確かにまどかは大切な友達だけど、そんな目であの子を見てはいないわ!」

 

うわっ。魔女とか使い魔見たときよりも、驚いたわ。いや、でも嘘だろ?ただの友達のためにそこまでできるわけない。

しかも最初に出会った『鹿目まどか』と過ごした時間はたった一ヶ月。次の時間を合わせても『友達であった』時間は二ヶ月でしかない。

恋愛感情ならば、人間の性的本能と密接な関係だから、短い期間でも(はぐく)むことができるが、友情は時間をかけてゆっくりと育てなければ生まれない。

暁美が気付いていないだけで、鹿目さんへの感情は恋愛感情なのではないだろうか。

 

「貴方は私の事を何だと思っているのかしら」

 

「え?コミュ障の武装レズビアン……じょ、冗談だよ。許して。そんな顔で怒らないで。せっかくの美人が台無しだよ?」

 

暁美が僕のことを今にも殺しそうな表情で睨むので、平謝りして機嫌を取る。

実際、そこまで僕の言ったこと間違ってないと思うけどなー。

 

 

それから僕らは昨日のテレビ番組がどうとか、そんなありきたりな話をしながら、5人で学校に向かった。美樹や鹿目さんは暁美に警戒してろくに会話に入ってこなかったので、正確には僕と志筑さんが話し、それに時折、暁美が相槌(あいづち)を打つだけだった。

 


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