魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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番外編 ホストと天才バイオリニスト少年

「ショウさん。聞いてくださいよ。ここの病院食がですね・・・」

 

「その話はこの前も聞いたつーの。ま、元気そうで何よりだわ」

 

今、俺、魅月ショウは後輩のエイジの見舞いに見滝原にある病院に来ていた。

ちなみに後輩が入院している理由は「女に刺された」といういうかなりヤバイ理由だ。俺の『必要に応じて女に言うことを聞かせられる』という能力(※この話の前の番外編を参照)でぎりぎりのところを止められたもののエイジは入院を余儀(よぎ)なくされたのだ。

 

「それじゃ、俺はそろそろ帰るわ」

 

「え、マジっすか?もっと話しましょうよ。ここつまんねーんすよぉ」

 

「雑誌何冊か持ってきてやっただろ。それでも読んでろ」

 

生意気に個人病室なんか取るからだ、馬鹿。

そう言って俺はエイジの病室から出るが、そのまま帰るつもりはなかった。もう一人、見舞いをしてやらなきゃいけない奴がいるからだ。

 

俺は廊下を少し歩いたところにあるエイジとは別の個人病室に入る。

 

「オッス。坊主。元気してるか?」

 

「あ。ショウさん!来てくれたんですか」

 

俺が声を声をかけると、嬉しそうに顔をほころばせる少年。名前は上条恭介。テレビにも何度か出た事のある天才バイオリニスト少年だ。

普通なら俺みたいなホストなんかと接点は何一つないんだが、たまたま一人で暇そうにしていたこいつに話しかけたら何か知らんが(なつ)かれた。

 

「おう。それより指の方の調子はどうだ?」

 

恭介は交通事故のせいで左手に大怪我を負っちまったらしい。将来有望なバイオリニストなこいつから大切な手を取り上げるとは、神様って奴が本当にいるんだとしたらとことん性根が腐ってやがるんだろうな。

 

「・・・もう、治らないかもしれません。奇跡や魔法でもない限り・・・・・」

 

恭介は(うつむ)いて、そうこぼす。

その表情は諦めと共に悔しさが(にじ)んでいた。

 

奇跡や魔法か。魔法少女について知っちまった俺には、もうその言葉に希望を見ることはできそうにない。そんな物は果てしなく大きい代償と後悔しか生まないことを俺は身を持って知った。

だから、こいつに言わなくちゃならない。例え、伝わらないとしても。いや、伝わらないまま何も知らずに一生を終えた方が幸せなんだろうがな。

 

「恭介。いいか、よく聞け」

 

恭介は顔を上げて、俺の顔を見る。

こいつ、ホント素直な奴だよな。今時の中学生ってこんななのか?同居人の『あいつ』に見習わせたいぜ。

 

「女って馬鹿だからさ。男がちょっと困ってたりすると、大事なモン差し出してしてまでくっだらねぇ『願い事』なんかに使っちまうんだ。だからよ。女の前じゃ、そんな事は口に出すんじゃねぇぞ?」

 

「えっと、意味はよく分からないですけど・・・分かりました。女性の前ではこんな顔、絶対にしません!」

 

恭介は自分でも言った通り、やっぱり俺の言った意味はよく分かっていないみたいだ。まあ、当然だわな。

それでも、俺の言った事は守ってくれるだろうな。こいつ、素直だし。

 

その時、病室のドアが突然開いた。

それと同時に元気な女の子の声が飛び込んでくる。

 

「恭介ぇー。お見舞いに・・・って誰!?」

 

青い髪の活発そうな女の子。年は恭介と同じくらいだろう。

にしてもいきなり誰はねーだろ、普通。礼儀正しい恭介とは真逆だな。

 

「この元気ハツラツオロナミンCなお嬢ちゃんは恭介の彼女か?」

 

「いえ、ただの幼馴染です。・・・ちょっとさやか!ショウさんに失礼すぎるよ!」

 

恭介が幼馴染という言葉を発した瞬間、青髪のお嬢ちゃんはショックを受けたような表情をした。なるほどな。あっちの方は恭介に惚れてるわけか。

 

「まあまあ、俺は気にしてねぇよ。それから、恭介。彼女は別れたらそれで終わりだが、幼馴染との関係は一生変わらねぇんだから大事にしてやんな。んじゃ、俺はこの辺で帰るとするわ」

 

そう言って青髪のお嬢ちゃんの脇を通って、病室を出ようとする。

その時にお嬢ちゃんにそっと耳打ちした。

 

「うまくやんな。早くしないと他の()に取られちゃうぜ。あいつ、顔良いから」

 

「えっ!あ、いや・・・頑張ります」

 

顔を真っ赤にさせるお嬢ちゃん。いやー、初心(うぶ)だね~。

そうだ。紅いと言えばあいつに電話しなきゃな。

病室を出てると、俺は携帯を取り出して、電話をかける。

 

「もしもし。俺だ」

 

『え、ん、これ繋がってんのか。えーと、もしもし。誰だ?』

 

あたふたとしながらも、相手は電話に出た。

こいつはまだ携帯も使いこなせないのか。じーさんばーさんだって今は普通に使ってるぞ。

 

「俺だよ。ショウだ。てか、画面に名前表示されてんだろ?せっかく携帯買ってやったんだから使いこなせよ、杏子」

 

『仕方ねーだろ!携帯なんて初めて使うし。魔法少女同士ならテレパシー使えるから・・・』

 

「分かった分かった。んで、今日何食いたい?職場(クラブ)行く前に作ってやるから、俺の家で待ってろよ」

 

『・・・・・』

 

ん?なんだ杏子の奴。急に黙ったりして。リクエストする料理を考えてんのか?

 

『・・・・何でここまでしてくれんだ?あたしに優しくしたって何の得もねーぞ』

 

なんだ。そんな事か。

 

「あのな、杏子。言っただろ?俺はお前にできる限り協力するって」

 

俺は誓った。

妹と同じ犠牲者は出さないと。

 

『礼は言わないぞ』

 

「結構だよ。こちとら好きでやってんだから」

 

ぶつっと音がして、通話が切れる。まったく、可愛くない奴だ。

カレン。あいつはお前と違ってぶっきらぼうな奴だけど、やっぱりどっか似てるわ。

 


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