見滝原市を守る魔法少女たちは見事、一人も欠ける事なく『ワルプルギスの夜』を乗り越える事ができた。
しかし、彼女たちの顔には喜びの色が帯びる事はなかった。
何故ならば、彼女のたちと共にこの一ヶ月を過ごしてきた少年の姿はもうこの世に居ないからだ。
「政夫……」
ほむらがそっと彼の名を呟いて空を見上げた。
暗雲が立ち込めていた空は太陽の光が顔を出し、蒼く澄んだ景色が浮かんでいたが、彼女にはそれが酷く暗く映った。
夕田政夫はその黒い不完全なソウルジェムが消えてなくなるまで、友人のために尽力し、そして朽ち果てた。
ニュゥべえの特性を利用し、全てのインキュベーターの意識をニュゥべえの意識で上書きする事で、対ワルプルギスの夜用兵器『メーデーの朝』を生み出し、ワルプルギスの夜を倒す事に成功した。
だが、無常にも彼の残りの余命もその時に終わっていた。
魔法少女たちと一人の普通の女の子を残して、政夫はこの世を去った。
享年十四歳。人生と呼ぶにはあまりにも短すぎる命だった。
――そして、政夫が死んでから一年の時が流れた。
半壊した見滝原市はその傷を着実に癒していたが、七名の少女たちの心に付いた傷は未だ癒えて居なかった。
これは最悪の物語。生まれてはいけない命の、孵してはいけない卵のお話。
***
「やあ、久しぶりほむらさん。元気にしてた?」
「嘘……そんな……本当にあなたなの……――政夫」
暁美ほむらの前に現れたのは死んだはずの少年、夕田政夫。
一年前と同じ優しい声と穏やかな表情を湛えたその姿は紛れもなく彼だった。
「……本当に、本当にごめんなさい。政夫……私」
「いいんだよ、ほむらさん。僕は恨んでなんかないんだから。それよりも僕に手を貸してくれないかな?」
「ええ、もちろん。私にできる事だったら、何だって……!」
けれど、彼はかつての彼なら絶対に言わなかった事を口走る。
「本当? ありがとう。じゃあ、僕と一緒にこの街の魔法少女を殺してくれるかな」
帰って来た政夫はほむらと共に魔法少女を狩り始めた。
一人、また一人とソウルジェムを奪われ、物言わぬ抜け殻となっていく魔法少女たち。
***
「あなたは政夫くんじゃない。誰なの……あなたは!?」
「僕は夕田政夫だよ。正確にはニュゥべえがオリジナルの夕田政夫の魂の残り滓から復元した、記憶と性格を模写した完全な複製だけどね」
唯一の友を亡くした心を持った孵卵器は己の身を使い、最悪の卵を孵してしまっていた。
***
「ニュゥべえ! どこ!? どこに居るの?」
「探したって無駄だよ、まどかさん。ニュゥべえは僕の中だ。いや、もう僕がニュゥべえと言っても過言じゃない」
「何を、言ってるの……?」
「この身体はニュゥべえが自分の身体を素体にして作ったものなんだ。だから、ある意味、彼女は僕のお母さんだね」
「じゃあ、ニュゥべえはもう……」
「彼女の意識なら僕がもうとっくの昔に上書きしてしまったからね。死んだ、と言い換えてもいい」
記憶の中の彼とまったく同じ顔で笑うソレは何よりも冒涜に彼女の瞳に映った。
***
「政夫。もうこれ以上は……」
「駄目だよ。全員殺すんだ。じゃないと『ノイズ』が消えないからね」
「偽者野郎……てめえ、何企んでやがんだ……!」
「夕田政夫が幼い頃から望んだものさ」
「まー君が望んだもの……?」
「うん。『優しい世界』だよ」
政夫は語り始める。狂気のようなその夢を。
「全ての人間が持つ集合無意識に接続する事で僕は全人類を無意識下で制御する。自分でも自覚できないレベルで人間が善行を行うようにするんだ。戦争も、差別も、虐待も、虐めも起こらない優しい世界が完成する」
全人類を無意識下で支配し、世界から悲劇を駆逐しようとする政夫。
「じゃあ、何で皆を魔法少女を殺すだなんて……」
「ソウルジェムが発する魔力がノイズになって、僕が全人類の集合無意識の邪魔になるんだ。だから、可哀想だけど魔法少女たちには死んでもらうよ」
全世界に散らばるニュゥべえを全て、自分に上書きした政夫によって魔法少女が刈られてゆく。
***
「あなたは間違ってる。政夫くんならこんな事、絶対にしなかった」
「僕は夕田政夫にできなかった事をしているだけだよ? オリジナルの代わりにね」
「ほむら! アンタ、いつまでそんな偽者の言う事聞いてるつもりなの!? いい加減目を覚ましなよ!」
「黙りなさい! 私はもう二度と政夫を裏切ったりしないわ」
***
「最後に言い残す事はある?」
「アンタなんか、アンタなんか政夫じゃない……」
「ああ、そう。それじゃあね」
***
「これで、やっと優しい世界が始まるよ」
***
残酷で、理不尽な、魔法少女たちの最後の戦い。
夕田政夫が遣り残した『優しい世界』とは……。
『劇場版風 魔法少女まどか?ナノカ~復活の物語~』
嘘です。
かなり遅れましたが、エイプリルフールの嘘予告でした。
就職活動が立込んでいて、四月一日に投稿できなかったのが残念でなりません。もっと映画のPV風にしたかったのですが、時間が足りず雑になってしまいました。
申し訳ありません。
ちなみにこれは没案なので実際に書くつもりはありません。