魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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第十四話 お見舞いにGO

市立の中学校にそぐわぬハイレベルな授業を終えて、時間帯は飢えた生徒たちの食欲が支配する『昼休み』へと突入していた。

 

屋上では美樹の勝手な提案で昨日と同じく、僕らは屋上で昼食をとることになった。僕らというのは、僕、鹿目さん、美樹、巴さん、暁美、そして……。

 

『やあ。おはよう、皆。いや、もうこんにちわの時間だね』

 

疑うことを知らない純粋無垢な少女の命を石ころに変え、化け物にした挙句(あげく)、エネルギーにするという鬼畜の所業(しょぎょう)を行う、マスコット型宇宙人支那モンこと『インキュベーター』さんだ。

お食事どきにお前の顔なんか見たくもないんだよ。消えろ去れ!この腐れマスコットが!

 

ちなみに志筑さんは美樹が無理を言って(はず)してもらっていた。せっかく僕が仲を取り成してあげたのに無に(かえ)しやがって。食事時に仲間外れにするとか、結構傷ついたりするだろう、ましてや志筑さんは女の子なんだから。

間違いなく君らの絆に亀裂が入ったぞ。

 

「きゅ、キュウべえ!!」

 

「アンタ、転校生に殺されたんじゃなかったの!?」

 

鹿目さんと美樹は、当たり前のことながら支那モンが生きていることに派手に驚いていた。巴さんは苦笑いしながら、昨日あったことを二人に説明してくれた。

こうすることによって、僕が説明するよりも信憑(しんぴょう)性を持たせる。特に暁美と友達になったという(くだり)なんかは僕が言っても美樹は信じなかっただろう。

 

まあ、そんなのはどうでもいい。今はお昼の時間だ。

 

「さあ、皆。そんなケダモノなんかほっといて、ご飯食べようよ」

 

『ケダモノとは酷いね。ボクは政夫に嫌われるような事を何かしたかい?』

 

「僕にはしていないね。『僕には』」

 

こいつと話していると胸糞悪くなる。

こいつに取っては女の子の命など興味すらないのだろう。善悪以前の問題だ。価値観があまりにもかけ離れているせいで分かり合うことなんてありえない。

そんな存在に好意なんぞ向ける理由がない。暁美の方がはるかにマシだ。

 

 

「そうだ。私皆にお弁当作ってきたの。口に合わないかもしれないけど」

 

僕と支那モンのギスギスした会話をぶち破るように、巴さんは小脇に抱えていたものを屋上に備え付けてあったベンチに置いた。

……重箱だった。

8段くらいある馬鹿でかい重箱。『あれ?今日体育祭でしたっけ?』と問いたくなるような立派な重箱。

少なくても平日の特別でも何でもない日に持ってくる品物ではない。

 

「ちょっと作りすぎちゃったかしら。でも味には自信があるわよ?」

 

どや顔でそう語る巴さん。

よほど楽しみにしていたのが嫌でもひしひしと伝わってくる。

あの、すいません。僕、普通にお弁当持ってきてるんですけど。

 

皆自分のお弁当があったが、それは家で食べることにして、重箱を食べた。

当然ながら、食べきることができなかったので、巴さんが目を外した瞬間に支那モンの背中をこじ開けて残った料理をすべて突っ込んだ。支那モンはうめいていたが、巴さんを悲しませないために犠牲になってもらった。

そんな感じで僕らは比較的和やかに昼休みを過ごした。

 

 

 

 

放課後は僕と暁美の強い要望で、『魔法少女体験コース』はお休みしてもらうことした。

美樹は文句を言うと思ったが、意外にもあっさり受け入れてくれたのが驚きだ。何か用事でもあるのだろうか。絶対に反対すると思ったんだが。

 

暁美は巴さんと一緒に『魔女退治のコンビネーションを確かめるため』という名目で、魔女退治に行ってもらった。これで二人に何かしらの絆が生まれてくれれば、巴さんは鹿目さんや美樹を魔法少女に引き入れることをきっぱりと諦めてくれるかもしれない。

 

それにしても今日は僕は自由なわけだ。いやー、なんかすごい久しぶりな気がする。

クラスで一番仲良くなった中沢君を誘って遊びにでも行こうかな。

 

「あ。政夫。アンタ今日暇でしょ?ちょっとつき合ってよ」

 

「これから、上条君のお見舞いに行くんだよ。良かったら、政夫くんも一緒に行こうよ」

 

僕の自由は10秒で消えてしまった。

ここで断っても、何だかんだで一緒に行くことになる。今までのパターンからいってそうなるだろう。

美樹の押しの強さはもちろん、鹿目さんも誘ってるように見えて「当然行くよね?」って顔してるもん。絶対鹿目さんって、Sだよ。

 

 

 

「ほらね。結局連れてこられちゃったよ……」

 

僕はできる限りの抵抗を(こころ)みたが、予想通り彼女たちに連れられて病院まできてしまった。

そういえば、この病院は父さんが働いている職場でもあるわけだ。時間があったら、父さんに会いに行くのもいいかもしれない。

 

「政夫、ブツブツうるさい。男なんだから女々しい事言ってんじゃないわよ」

 

「さやかちゃんは男の子よりも男らしいもんね」

 

「ま、まどか~」

 

美樹が僕のぼやきに反応し、それに鹿目さんが微笑みながら、さらりと酷いことを言っていた。

……やはり鹿目さん、Sっ気があるだろう。まあ、イジられる対象が僕に向かなければどうでもいいけど。

病院の待合室まで来ると、美樹が僕と鹿目さんの方を向いた。

 

「それじゃ、私、恭介のお見舞いしてくるね」

 

「え?三人で行くんじゃないの?」

 

「政夫くん。ここは二人っきりにしてあげようよ。ね」

 

鹿目さんはそう言うが、だったら最初から連れてくんじゃねーよと思ってしまう。

これはもう『一緒にお見舞いしよう』じゃなく、『お見舞いに行く私の背中を見送れ!』だろう。何で僕が連れてこられたのか本気で意味が分からない。

 

『別にいいじゃないか。政夫はそこまで上条恭介に会いたかったわけじゃないんだろう?』

 

今まで何も言わず、ただ勝手に付いて来ていた支那モンが僕にそう言った。

確かにそうだけど、納得いかない。さらにこいつにたしなめられるような発言をされたせいで尚更(なおさら)納得がいかない。

 

「……そうだね。それじゃあ、僕は君をイジリ倒して時間を潰すとしようかな。鹿目さんもする?ストレス解消に持って来いだよ」

 

『やめてくれないか、政夫』

 

「可哀そうだよ、政夫くん」

 

支那モンの頬(ほほ)の両端を引っ張って弄(もてあそ)ぶと鹿目さんに怒られてしまった。

仕方ないので二人と一匹でしりとりをして暇を潰した。

父さんに会いに行こうかとも思ったが、父さんは暇じゃないだろうし、何より鹿目さんと支那モンから目を離すのは危険な気がした。

ふと思ったが支那モンの声も姿も周りの人は認識できないなら、僕らのしりとりはちぐはぐに聞こえるのだろうな。

 

それから、思ったよりすぐに美樹は戻ってきた。

 

「はあ……。よう、お待たせ」

 

「あれ?上条君、会えなかったの?」

 

「そうなの。何か今日は都合悪いみたいでさ。わざわざ来てやったのに、失礼しちゃうわよね」

 

嘘だろ。これだけ人の時間を無駄にさせといて会えませんでしたとか……。

何だろう、ものすごくやるせない。

 


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