魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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第十六話 病室にお邪魔します

それから5分くらいして、巴さんと暁美が到着した。

支那モンが僕がどれだけ危険なことをしていたのかチクったせいで、僕はその場にいた女の子全員にこっぴどく怒られた。

その場所で正座をさせられて四人に(しか)られたので、病院から出てきた人たちにくすくすと笑われてしまった。

驚いたことに一番僕を激しく怒ったのは巴さんではなく、暁美だった。それも怒った理由が鹿目さんを巻き込んだことではなく、僕が危険な行いをしたことに対してのものだった。

 

「聞いているの、政夫。貴方は一歩間違えれば、命を落とすところだったのよ!いつも冷静なくせに、どうしてこんな危険な事をしたの!」

 

「あ、暁美さん。政夫君も反省してる事だし、お説教はその辺でいいじゃない」

 

「良いわけないわ。巴マミ、貴女も魔法少女なら、普通の人間が孵化寸前のグリーフシードに触れる事がどれだけ危険な事か分かるでしょう!」

 

こいつにとって僕はそこまで重要な存在でもないだろうに、一体何を考えているのだろう。

小賢(こざか)しい似非(えせ)マスコットの台詞を使うなら『わけが分からないよ』と言ったところだ。

 

 

 

病院の前で30分ほど正座をされた後、念のために僕は身体に異常がないか、病院で調べてもらった。当然の(ごと)く、父さんにバレたが、『あんまり女の子たちに心配かけちゃ駄目だよ』と笑われただけですんだ。

どうやら、正座でお説教をくらっていたのが、知られてしまったようだ。看護師さんたちにまで「正座の子」と言われていたのが、すごい恥ずかしかった。

鹿目さんたちは、付き添うと言ってくれたが、僕は遠慮した。

 

検査の結果、といっても精密検査ではないので簡単なものなので、あまり時間はかからなかった。

せっかくなので美樹の幼馴染の上条君に会ってから帰ろうと思い、彼の病室を看護師さんに聞いて病室に向かった。

 

病室の扉の前まで来ると、ホスト風の格好をした顔立ちの整った男と出会った。

 

「お。恭介の友達か?」

 

人懐っこい表情を浮かべて僕に尋ねてきた。

外見に反して、凛とした目付きをしている。僕はいい人そうだなと思った。

 

「まだ彼とは友達ではないですけど、そうなりたいと思って会いにきました」

 

「ほお。友達じゃねーのか」

 

じいっと僕の目を探るように見つめてくる。相手がどんな人間か見定めている目だ。僕は何も後ろ暗いことなどないので逆に見つめ返す。

しばらくして、済まなさそうに笑った。

 

「悪いな。ガン飛ばしちまって。恭介の奴はちょっと前まで有名人だったから、時々嫌がらせや冷やかしに会いにくる奴がいるんだよ。坊主(ぼうず)は違うみたいだな」

 

やっぱりそんなところか。

なんでも『若き天才バイオリニスト』らしいからな。そういった理由のない誹謗(ひぼう)中傷をする人間も少なくないのだろう。

 

「いえ。気にしてませんよ。それより貴方は・・・上条君のお兄さんですか?」

 

「いや、違う違う。俺は魅月ショウ。恭介とは、ただの知り合いだよ。そんじゃ、邪魔しちまって悪かったな」

 

そう言うと魅月さんは背中越しに手のひらをひらひらと去っていった。

なんか格好良いな、あの人。ハードボイルドな渋さを感じる。

 

 

僕は病室の扉を軽くノックする。

 

「どうぞ。入ってきて構いませんよ」

 

部屋の主の許しを得ると室内に入室させてもらった。

 

「君は?」

 

「初めまして、上条君。僕は夕田政夫。君が入院している間に見滝原中に転校してきた者だよ。よろしく」

 

軽く頭を下げて挨拶する。人間関係は初対面の印象で決まると言っても過言ではない。

それが僕が暁美を未だに好きになれない理由の一つでもある。

 

「夕田君か。僕は上条恭介。よろしく。それで……」

 

『今日は何で僕の病室に?』って顔してるな。まあ、普通、何の接点もない人物が会いに来たらそうなるよね。

ここは、美樹の名前を使わせてもらうか。

 

「僕は美樹さんと友達になってね。今日も彼女、君にお見舞いに来たんだけど、会えなかったらしくてね。ちょうど僕は身体の調子が悪くて病院に検査に来てたものだから、美樹さんの代わりにお見舞いしようかと思って来たんだ」

 

「そうか。多分、リハビリしてた時だろうね。さやかには悪い事しちゃったな」

 

上条君はばつが悪そうに薄く笑った。

元気がないな。怪我人だからと言ってしまえば、それまでだが何か悩みを抱えているように見える。

 

「上条君、何か悩みでも抱えてる?良かったら、僕で良かったら聞くよ?」

 

「え?いや、悩みなんて、ないよ……」

 

「会ったばかりだけど。だからこそ、気兼(きが)ねなく話せたりするものだよ。僕、こう見えても人の話を聞くのうまいんだ」

 

「……不思議な人だね、夕田君は。これは、さやかにも言ってない事なんだけどね、僕の手は動かないんだ。先生にも言われたよ。現代の医学では無理だって」

 

上条君は右手で自分の顔をつかむように(おお)う。だが、吐き出す言葉は止まらない。むしろより一層、声を荒げて喋る。

 

「無理なんだ!もうバイオリンの演奏は!なのに、さやかは聴かせるんだ!僕に自分で弾けもしない曲を!嫌がらせのように毎日毎日!」

 

積もり積もった鬱憤(うっぷん)を言葉と共に泣きながら吐き出す。

きっと美樹、そしてあの魅月さんにすら言うことができなかったのだろう。

自分でも、それが仕方のないことであり、美樹への八つ当たりであることに気がついているから。

 

上条君の(なげ)きは最後の方には、すでに言葉ですらなくなっていた。獣の鳴き声のような慟哭(どうこく)。意味も理由もない抑《おさ》えきれないほど感情の発露《はつろ》。

それらをすべて聞いて、僕は上条君に言った。

 

「よく、頑張ったね」

 

「・・・え?」

 

「だって、そうだろう?今まで上条君は、誰にもそんな気持ち言わずに一人で頑張ってたんだろう?美樹さんを傷つけまいと、その言葉を自分の心にしまい込んでいたんだろう?それなら、労(ねぎら)われるべきだよ」

 

「でも、頑張ったって・・・・もうバイオリンも弾けない。僕にはもう何もないんだ・・・」

 

何を言っているのだろうか?この人は。

自分がバイオリンを弾くしか価値のない人間だとでも思い込んでいるのか?

恐らくは、周囲の人間は『頑張れ』と無責任な応援をし続けたのだろう。彼はその重圧に応(こた)えようとして追い詰められてしまった。

だとするなら、上条君の嘆きを聞くかぎりでは、もっとも上条君を追い詰めたのは美樹だ。

 

「上条君。それは違うよ。バイオリンが弾けなくなっても、上条君は上条君だ。何もないわけないよ。君は、バイオリンを弾くためだけの機械じゃないんだから」

 

上条君の目をはっきりと見つめて、僕の思ったことを言った。

上条君は驚いたように僕を見て、再び涙を流して泣き出した。

そして一言だけ僕に返したくれた。

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

それにならって僕も返した。

 

その後、好きな漫画やゲームの話で盛り上がった。

ギャルゲーの幼馴染ヒロインについて語った時に上条君は「実際は幼馴染はお互いに異性として見ない」と発言していた。

多分、僕のカンだと美樹は上条君に女性として好意を持っているだろう。

だが、上条君に届くことは永久になさそうだ。

 




ショウさんとの邂逅。これにより物語が繋がっていきます。

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