「でだ、バイオリン子さん」
僕がふざけて言うと、暁美はげんなりした表情になった。
「……そのネタいつまで引きずる気なの?」
冗談はさて置き、飛び出して行った美樹を見つけなくてはいけない。
自暴自棄には、……なってるだろうな。告白する、しないレベルどころの話じゃなかったし。
「二手に分かれて美樹さんを探そう。暁美さんは直接会うといろいろ面倒なことになると思うから、見つけたら僕に連絡して」
美樹もそこまで馬鹿じゃないとは思うけど、ひょっとしたら支那モンに
まあ、『願いごと』で上条君の想いをどうこうするほど下種なことはしないだろう。だが、念のために美樹の真意を確認しておかなければいけない。
「分かったわ。・・・・・それから政夫、さっきの話は本当なの?」
「さっきのって、何の話?」
急にそこで暁美は言葉を
顔を横に向けて、視線をさまよわせる。
「あの……あれよ。ほら、その……タイプが、どうとか……」
「ああ。上条君と話してた好きな女の子のタイプのこと?」
「そ、そう。三つ編みで眼鏡の子が……」
「好きだけど……。それがどうしたの?」
「……いえ、ただ聞いてみただけよ。本当にそれだけなのよ!」
暁美はいきなり怒ったように声を張り上げた。
意味が分からない。挙動不審すぎる。
ハッ!まさか暁美、お前……。
上条君の謎思考に脳を汚染されて、正気を奪われたのか!
なんてことだ。ドア越しに人を発狂させるとは……恐るべし、だな。上条君。
まるで現代に巣くう『クトゥルフ』だ。
そんなこんなで僕は病院から出ると、暁美と別れて、美樹を探しに行った。
そうだ。巴さんにも電話をかけて、一緒に探してもらおう。案外、巴さんの家に美樹がお邪魔しているかもしれないからな。
「もしもし、夕田ですけど」
『あら!夕田君じゃない!どうしたの?私に何か用事……ッも、もしかして遊びのお誘いかしら!!』
「残念ながら違います。美樹さんが失恋のショックでどこかに行ってしまいました。見つけたら、優しく保護してあげてください」
『・・・そうだったの。分かったわ。見つけたら連絡するわね。あと政夫君、その言い方だと美樹さんが逃げ出したペットみたいよ』
少し、いや、かなり残念そうな声音で巴さんは僕に突っ込みを入れてくれた。
そんなに遊びたかったのか。だったら今度、みんなでどこかに遊びに誘ってあげるべきかな。
まあ、それよりも今は美樹を探さなければ。
「ご協力ありがとうございます。それでは」
お礼を言って電話を切った。
巴さんのところにはいなかったか。じゃあ、鹿目さんのところはどうだろう。
彼女は美樹の親友だし、失恋の傷を
だが、僕は鹿目さんの電話番号も住所も知らない。クソッ、こんなことなら、聞いておけばよかった。
待てよ。
たしか暁美は
なら、多分住所を知っているはずだ。
僕は暁美に電話をかける。
「もしもし、暁美さん。美樹さん捜索中に悪いんだけど、鹿目さんの住所教えて」
『まどかの・・・?ああ。そういう事ね』
暁美は察しよく理解して、僕に鹿目さんの住所と、ついでに美樹の住所も教えてくれた。
……やはり知ってたのか。よく考えたら、こいつ僕の住所も勝手につきとめたんだったな。本物のストーカーだ。
電話を切って、まずは鹿目さんの家に向かう。
自分の家に帰ってる可能性もなくはないが、心にショックを受けた人間の心理なら一人にはなりたくはないはず。休日なので、親に相談している線もあるが、中学生の年頃ならそういったことは多分しないだろう。ましてや、失恋なんて気恥ずかしいことだ。親しい友人に相談するのが普通だろう。
鹿目さんの家の前についた。
思ったよりも大きい。鹿目さんて、実は結構な富裕層の人間なのか。
いや、そんなことは今はどうでもいい。僕は玄関についているインターホンのチャイムを押して、話しかけた。
「ごめんください。鹿目まどかさんのクラスメイトの夕田政夫という者です。鹿目まどかさんはご在宅でしょうか?」
『政夫くん?どうしたの?』
インターホンから返ってきた声は鹿目さん本人だった。
よかった。鹿目さんの親が出ていたら、説明が面倒だったからな。
「単刀直入に言うね。美樹さんが上条君に振られてちゃったみたいなんだ。それでショックを受けてどこかに走り去ってしまってね。探してるんだけど……鹿目さん何か知らない?」
『ええ!?さやかちゃんが!!それ本当?!』
その反応なら、鹿目さんのところにはいないみたいだな。
だが、鹿目さんなら僕よりも美樹のこと知っているだろう。無駄足にはならない。
「本当だよ。詳しい説明はできないけど。よかったら、美樹さんを探すのを……」
『うん!わかった。すぐ行くから、ちょっと待ってて』
僕が言い終わる前に鹿目さんはそう言って、インターホンを切ると十秒くらいで家から出てきた。
は、早い。
今回は前編、後編に分けてあるのでちょっと短めです。