魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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第二十一話 消えた馬鹿を追え!(後編)

「さやかちゃん、やっぱり家にはいなかったね」

 

鹿目さんはしょんぼりと肩を落とした。

あの後、念のため美樹の家まで二人で行ったが、美樹は戻って来ていなかった。

 

「というか鹿目さん、美樹さんの携帯に電話すればいいんじゃない?」

 

「あ!えへへ。よく考えたらそうだね。すっかり忘れたよ」

 

思い出したとばかりに鹿目さんは目を丸くした。

申し訳なさそうな笑みが、可愛(かわい)かったので許そう。僕も鹿目さんの勢いに押されて言えなかったのも悪かったしね。

 

「もしもし……あ、さやかちゃん、今どこにいるの?」

 

あっさり電話に出たな。いや、良いことなんだけど、ここまで時間かけて簡単に終わると何だか拍子抜けだ。

 

「え?何言ってるの、さやかちゃん。よく聞こえないよ?」

 

……何だか雲行きが怪しい。鹿目さんの顔が次第に曇(くも)っていく。

美樹が何て言っているのか、僕も聞かなくてはいけない気がする。

 

「鹿目さん、スピーカーホン・モードにしてくれないかな?」

 

鹿目さんは頷(うなず)くと、携帯を耳から離して、スピーカーホンのボタンを押した。

 

『まどか。私、今最低なことしようとしてる』

 

暗く沈(しず)んだ声が携帯から聞こえた。普段の無駄に明るい美樹とは思えない。

僕は嫌な予感をひしひしと感じた。背中にじんわりと汗が噴き出る。

 

『今、キュゥべえと一緒にいるの。願いごと、決まったんだ』

 

……ッ!

 

「美樹さん!今どこにいるッ?場所は!!」

 

『政夫もそこにいるんだ。ひょっとして探してくれてた?だったら、ごめんね。迷惑かけてさ』

 

「いいから、早く!場所を教えて!!」

 

『……病院の屋上だよ』

 

ちッ!灯台下暗しか。

エレベーターの方に向かったから、外に出たと勘違いしていた。

僕のミスだ。致命的すぎる。

だが、美樹の家から病院までそう遠くない。

 

「鹿目さん!僕は先に向かうから!」

 

「あっ、政夫くん!?」

 

急がなくちゃいけない。先ほど会話で「最低なことを『しようとしている』」と美樹は言った。

なら、まだ願いごと『叶えてはいない』ということだ。

まだ、間に合う。美樹が道を踏み外す前に止められる。

 

そして、電話じゃ駄目だ。

直(じか)に美樹に会わないと止められない。そこまで美樹は追い詰められている。

美樹はそこまで性根の腐った人間じゃないはずだ。

 

 

 

僕は病院まで戻ってきた。

運動会や体育祭以上に全力で走ったため、息切れしている。もともと僕は体育会系の人間じゃないんだ。

むしろ、一般的な中学生よりも体力はない。自発的に体を動かしたのなんて、小学三年生の時、半年だけ柔道を習っていたくらいだ。

 

病院の窓口の受付の人や看護師さんたちが奇異の目で僕を見るが、関係ない。

ぜいぜいと息を吐きながら、エレベーターの方を見る。

駄目だ。全部、すぐに来そうにない。上の方に留まっているものばかりだ。

 

階段を使うか?

この忌々(いまいま)しいほど大きい病院の長い階段を。

無茶だろう。ここまで走ってきただけで、僕は体力を使い果たしたと言っても過言じゃない。

下手をしたら、(のぼ)ってる内に、倒れるかもしれない。

ふうっと息を吐いて、整える。

 

「畜っ生!!」

 

僕は全力で階段を駆け上がった。

足を上下に動かさなくてはいけない分、走るのよりも辛い。

胃の中から、食べた物が出てきそうだ。

 

階段、

 

踊り場、

 

階段、

 

踊り場、

 

階段、

 

踊り場、

 

階段、

 

踊り場、

 

階段、

 

踊り場、

 

階段、

 

踊り場、

 

階段、

 

踊り場、

 

階段、

 

踊り場、

 

階段。

 

その繰り返し、わき腹と心臓がぎりぎりと痛む。吐き気が強まり、(のど)の辺りまでせり上がってくる。口の中になぜか鉄さびのような味が広がる。

 

幸いなことは駆け上がってる最中、人にぶつからなくてよかったことだ。

いや、皆が皆、エレベーターばかり使うから、現在進行形で僕が困っているのか。

 

ようやく、屋上(ゴール)に扉が見えた時には、僕は涙目になっていた。

屋上のドアノブをつかむと、回しながら、力の限り引っ張った。

 

「はぁ、はぁ、……ま……間に合ったのか?」

 

入り口から少し離れたところ、ちょうどドアからまっすぐ正面に美樹が見えた。

 

「……来たんだ。早かったね、政夫。まだ私は契約してないよ」

 

美樹がそう言った時、僕は安堵(あんど)のあまりその場に座り込みそうになった。

だが、まだだ。やらなくてはいけないことは、これからなのだから。

 

『どうしたんだい?政夫。そんなに慌てて』

 

腹の立つ支那モンを無視して、大きく深呼吸すると僕は美樹に向き合う。

 

「美樹さん。何を願うつもりだったの?」

 

「政夫には関係ないでしょ?」

 

「大有りだよ。友達のことだからね」

 

美樹と上条君。二人の友達である僕には見過ごせないことだ。

知らぬ存ぜずで、放っておいていい間柄じゃない。

 

「上条君が自分を好きになってくれるよう願おうとしてたんだろう?」

 

「……だったら何?別にいいでしょ?私の願いなんだから、何を願おうと私の勝手よ!」

 

見苦しい。ここまで浅はかな人間だったのか、美樹さやか。

僕は心の底から軽蔑した。

こんな人間をわずかながら信用していた自分が馬鹿だった。

僕の前にいるのは友人でも、知人でもない。

僕のもっとも嫌いな『下種な人間』がただ一人立っているだけだった。

 

「いいわけないだろう!人の想いをなんだと思ってるんだ!お前の勝手な願いで、上条君の人としての尊厳を踏みにじるな!」

 

「アンタには分からないでしょうね。人を本気で心から好きになった事がないから、そんな事が言えるのよ!」

 

その言葉で僕は切れた。

美樹に近づいて、胸倉をつかみ上げる。

 

「本気で人を心から好きになったやつが、自分の勝手な都合を好きな人に押し付けるわけないだろうがッ!!」

 

美樹の目を睨みつける。

美樹は僕から顔を(そむ)けるが、そんなことは許さない。

 

「目を()らすな!」

 

僕からも、現実からも、自分自身からも。

目を逸らすことは絶対に許さない。

 

「私だって……わかってるよ。こんな事したって何にもならない事ぐらい……」

 

「だったら!」

 

「でも、嫌なの!!受け入れられないんだよ!恭介が、私から離れて行っちゃうのが……嫌で、嫌でしかたがないの」

 

「なら、願いごとで上条君の心を手に入れるのか?無理やり想いを()じ曲げて、それでお前は上条君と一緒に生きていけるのか?何の罪悪感もわだかまりもなく、平気な顔で生きていけるのか?」

 

「分かんないよぉ!……だから、願えなかった。……だから、政夫が来るまで待ってた」

 

美樹はぼろぼろと涙をこぼす。

僕は安心した。

僕の前にいるこいつは、短い時間ではあったが、僕が知っている美樹さやかのままだった。

 

「じゃあ、止めろ!そんな気持ちで願いを叶えたって幸せになんかなれない」

 

「……分かったよ。だから、手、離して」

 

僕は美樹から手を離した。

美樹は服の(そで)で涙を(ぬぐ)った。それくらいなら、ハンカチ貸してやったのに。

 

『それで願いごとはどうするんだい?』

 

支那モンが口を出してきた。

僕は支那モンをつかむと、美樹の顔の前に持っていく。

 

「それより、支那モン君はちゃんと説明したの?『魔法少女になると魂がソウルジェムになって、ソウルジェムの方が本体になること』とか『ソウルジェムが濁りきると、魔女になってしまうこと』とかを」

 

あえて、自然な感じでそう聞いた。まるで何でもないことのように平然なトーンで。

 

「え!?何それ、どういう事……?」

 

『……何故、君がそんな事を知っているんだい?』

 

美樹は、言っていることが理解できないといった表情で呆然とした。

まあ、いきなりじゃそうなるだろうな。

 

「美樹さん。聞いての通り、魔法少女って君が考えてるよりもデメリットの方がはるかに多いよ?それでもなる?魔法少女に」

 

 




前編後編に分けるほど、じゃなかったかもしれません。
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