アタシは佐倉杏子。
いや、ショウが新しく戸籍を作ってくれたから、今は魅月杏子だ。
今の時刻は午前二時。普段ならとっくに寝ている時間だけど、アタシはどうにも寝付けなかった。
自分が寝転がっているベッドを見る。
これもショウがアタシにくれたものだ。元々はショウの妹が使っていた物らしいけど、かなり気に入っている。
そのショウはまだ帰ってきていない。帰りがここまで遅くなったのは今までになかった。
ショウは今日、「帰りが遅くなるから、早く寝とけ」とは言っていたけど、やっぱり心配だ。
家の前で待ってようか。
そんな事を考えていると、ショウが帰ってきた。
「うぇッ……!あの豚ババア、どんだけ男に飢えてたんだよ。俺を腹上死させる気かっつーの」
「お帰り。ショウ」
「杏子。お前まだ起きてたのかよ。もう寝ろよ、明後日から中学校に編入だろ?」
ショウはしょうがない奴だと、アタシの事を笑いながら頭をなでてくれた。
大きくて、優しい、大人の手。
いつもなら、恥ずかしさのあまり、「子供扱いすんな」と振り払うが今日はしたくなかった。
「……ショウ、女の人抱いてきたのか?」
アタシがそう言うと、ちょっとショウは困った顔をした。
ショウはホストのくせにモラルに厳しいとこがある。アタシは前にショウに何か恩返しができないかと、考えた時、ショウに身体を
ショウに会う前の一人ぼっちだった頃、アタシに近づいてくる大人はみんな身体目当てだったからだ。まあ、ホテルに連れ込もうとされた時は、軽く腕を
だから、アタシはそれなりに男に好かれる顔立ちをしてる事も知ってたし、それで少しはショウを
でも、ショウはそんなアタシを引っ叩いた。
『冗談でも、二度とそんな事を言うな』って。
その後、悲しそうな顔でアタシをぎゅっと抱きしめてくれた。
それ以来、アタシはショウにそういった事を話題を出した事はない。
「あー……あれだ。水商売やってりゃ身体売るくらいよくあるもんだぞ。女と違って、男の場合そこまで深刻なモンじゃねぇし……つーか、あのババアは何故か俺の力が効きづらいんだよな。図太いババアに使い魔以上に扱いが難しいぜ」
「アタシの戸籍の件の奴なんだろ?だから、ショウは好きでもない奴と……」
ショウは、はあっとため息を吐くと、アタシのおでこを指で弾いた。
「いたっ。何すんだよ」
「ガキが下らない事で悩んでんじゃねぇよ。お前くらいのガキはな、もっと楽しい事考えてりゃいいんだよ!分かったら、さっさと寝ろ」
ショウはそう言うと、風呂場に行ってしまった。
いつだってそうだ。ショウは優しい。アタシに心配させまいと、頑張ってる。
はっきり言って、アタシの親父なんかよりも、アタシを大事にしてくれてる。
そんなショウがアタシは好きだ。
『妹』としてじゃなく、『女』として。
絶対に口には出してやらないけど。
なんとなく、悔しい感じがしたのでアタシは自分のベッドじゃなく、ショウのベッドに
鼻から、ショウの
安心できる優しい匂いだ。でも同時に胸がドキドキする。
ショウがシャワーを浴びて戻ってくると、ショウのベッドで目をつぶって寝たふりをした。
「ん?あ……、しょうがねぇなー」
少し困ったような、でも優しい笑顔を浮かべた。
タオルで
濃い茶髪の髪がショウにはよく似合ってる。
慌てて、アタシは寝たふりをする。
「明日、頑張れよ」
ショウはアタシの頭を優しくなでた。すごく穏やかな笑みを浮かべてる。
やばい。顔が赤くなりそうだ。
だけど、ショウはすぐに横になって寝息を立て始めた。
すごく疲れてたんだな……。アタシのために。
う~……。
ショウがぐっすり寝ている事を確認する。
誰も周りにはいない事は分かっているのに、周囲を見回す。
よし。
こっそりと静かに。
アタシはショウのほっぺにキスをした。
自分でやってから、猛烈に恥ずかしくなって、顔を隠すように毛布に
は、恥ずかしい。
今夜はとてもじゃないけど、眠れそうにない。
ホントに番外編です。