「今日からこの学校に編入した、さく……じゃなかった魅月杏子だ。よろしく」
朝のホームルーム、僕のクラスにまた転校生が入ってきた。いや編入生か。
ちなみにスターリン君を引きずっていった男子達は、何かをやり遂げたような顔をして帰って来たが、スターリン君だけはあれ以来戻ってきていなかった。
怖かったので、彼があの後どうなったのか聞くのは止めておいた。
何にしても、人数が増えすぎだろう。なぜこのクラスなんだ?当初から、他のクラスよりも人数が少なかったのか?
『魅月』という名も気になる。
あの病院で会った魅月ショウさんの妹だろうか。それにしては顔が似ていないが。
それよりも、この編入については暁美が見てきた他の世界でもあったことなのかが気になる。
暁美に目を向けると、驚愕の表情を
その顔から察するに、これもイレギュラーというわけか。
ホームルームが終わると、クラスメイト、特に女子が魅月さんの
まず最初に田中さんが話を切り出す。
「魅月さんって、前はどこの学校だったの?」
「杏子でかまわねーよ。……中学校は色々あって行ってなかった」
「……もしかして家庭の事情ってやつ?」
続いて、川村さんが興味深深といったようすで聞いた。そういう込み入った事情に
だが、魅月さんは気を悪くしたようすもなく、適当に流す。
「まあ。そんなもんかな。でも今は……あー、うん。た、頼れる兄貴がいるからな」
「へえ。お兄さんいるんだ。どんな人?写真ある?」
「ああ。携帯に入ってる。えーと、ほらよ」
魅月さんは携帯を取り出し、操作して、カメラで撮ったであろう画像を見せた。
遠目からでは確認しづらいが、あの画像は魅月ショウさんだ。やはりあの人の妹さんだったのか。
「うわ~。カッコいい……」
「ホント、びっくりするぐらいイケメン!」
二人とも携帯のカメラ画像に見蕩れて、黄色い声を出した。お世辞ではなく、恐らく本心からの言葉だろう。
「そうだろー?なんせアタシの自慢の兄貴だからな」
そのようすに気をよくしたのか、魅月さんは胸を張って、クラスの女子に兄の画像を見せて回っていた。
それにしても驚くほど早くクラスに溶け込んでいる。はっきり言って、暁美の数百倍はコミュニケーション能力がある。
というか、暁美が今までいたポジションをあっさりと
もう、これで暁美に話しかけてくれる女子は鹿目さんか志筑さんぐらいしかいなくなったわけだ。哀れ、暁美。これに
そう思って暁美の席に近づくと、難しい顔で悩んでいた。
「どうしたの、暁美さん?ついにコミュニケーションの重要性を理解したの?」
「政夫。ちょっと顔を貸してもらえる?」
「嫌だよ。一時限目に遅れちゃうだろう?」
それに、ほむほむファンクラブの人達にこれ以上敵視されたくない。学校で敵を作らないようにしてるんだから、少しは気を使ってほしいものだ。
「いいから!」
だが、そんなこともお構いないしに、暁美は無理やり僕を引っ張って、教室から連れ出そうとする。
やめろぉー!学校生活だけは平穏に過ごしたいという僕の気持ちが分からないのかー!
必死で抵抗するが、全身筋肉痛の身体ではとても魔法少女の腕力には敵わず、僕はずるずると教室の扉へと引きずられて行く。
誰か!僕を助けてくれる人はいないのか!!
「転校生。アンタ、政夫をどこに連れて行く気?」
救いの声を上げてくれたのは何と、青い奴こと美樹さやかだった。
どうでもいいけど、その暁美のことを転校生と呼ぶくせはよしたほうがいいと思う。僕も転校してきた日は同じだし、魅月さんとも混同する
「……美樹さやか。貴女には関係ないわ、引っ込んでいてくれないかしら?」
「嫌よ。何でアンタにそんな事言われなくちゃいけないわけ?政夫は私の友達なんだよ!」
美樹は、暁美がつかんでいる僕の腕と反対の腕をつかんだ。
な、なにをする気だ?お前ら…・・・まさか。
「私は政夫に大切な話があるのよ!」
暁美が僕の左腕を廊下側に引っ張る。
「知らないわよ。そんな事!」
それに対抗して、美樹が僕の右腕を窓側に引っ張った。
僕は両サイドから引っ張られ、人間綱引き状態になった。俗にいう『大岡裁き』という奴だ。
「いだだだッ!!痛い!二人とも手を放して!」
ただでさえ身体が筋肉痛で
二人とも僕の言葉には耳を一切貸さず、力を
クラスの連中は面白そうに遠巻きに見ているか、完全に無視を決め込んでいるかのどちらかだ。
鹿目さんと志筑さんはどちらに味方すべきか、分からずに困った顔を浮かべるばかりで頼りにならない。この危機を唯一どうにかしてくれそうな中沢君は教室には居なかった。
「痛い痛い痛い……痛いっつってんだろうが!!」
僕は大声で怒鳴りつける。
声に驚いて、二人の力が弛んだ瞬間、手を思い切り振り払った。クラスメイトの視線が一斉に集まったが、そんなことは気にしてはいられなかった。
鈍い痛みがじんじんと肩に留まって鳴り止まない。あのままだったら、腕が外れていたかもしれない。
「え……あの」
「あの政夫、ごめん」
二人とも謝ってきたが、許すつもりは毛頭なかった。
こいつらは本当に自分の都合しか考えない。だから、人に迷惑をかけても心から反省することなど一生できないだろう。
両名ともに一度同じようなことをしたのに、まったく成長していない。
「鹿目さん……僕、保健室行って来るから、授業始まっちゃったら先生に言っといてくれない?」
暁美と美樹を無視して、鹿目さんに話しかけた。
「え……あ、私が付き添うよ。保健委員だし。仁美ちゃん、遅れちゃったら先生に」
「わかりましたわ。私から、先生に言っておきます」
鹿目さんは志筑さんにそういうと、僕の方にきた。
僕は鹿目さんに悪いからと遠慮したが、彼女は頑固にも食い下がったので仕方なく、お願いすることにした。
「わ、私も」
「お前は来るな。あと暁美も来なくていい」
「…………」
美樹と暁美が付いて来ようしてきたので、
何か言いたそうな目をしていたが僕の知ったことじゃない。
杏子ちゃんが見滝原中にやってきました。
やったね、まさちゃん。友達が増えるよ!