薄暗い倉庫の中に入ると鹿目さんと誰かの話し声が聞こえてきた。
これは本格的に危険かもしれないな。急ぐか。
僕は美樹を置いて鹿目さんの声が聞こえる方角に走った。
奥に行くと鹿目さんの後ろ姿が見えてきた。あのピンク色の髪は見間違えようがない。
そしてもう一人の声の正体も明らかになる。
「やっぱりお前は悪人だったんだな。暁美」
鉄面皮の社会不適合者、暁美ほむらが銃を鹿目さんに向けて立っていた。
「何の用?夕田政夫」
「お前なんかに用はないよ。この犯罪者」
暁美の持っている銃。最初はモデルガンだと思ったが違う。
火薬が炸裂したような独特の臭いが周囲を取り巻いている。恐らく、これがいわゆる硝煙の香りってやつだろう。
加えて、床に
こいつの持っている銃は間違いなく本物だ。
「ここはアメリカじゃなく、日本だよ。銃は持ってるだけで犯罪、まして実際に発砲なんてしちゃったらもう言い逃れなんてできやしないよ」
暁美は何一つ焦った様子を見せず、平然としている。
生権与奪が自分にある
どうする?一体この状況をどうする?
「ここに入る前に警察呼んでおいてよかったよ。転ばぬ先の杖ってやつだね」
無論。ハッタリだ。逃げられない以上相手に引いてもらうしかない。
僕はできるだけ余裕な振りをする。
「日本の警察は無能無能言われるけど実際そうでもないと僕は思うんだよ。あと二分もすれば着いちゃうんじゃないかな。このショッピングモール、近くに警察署あるし」
しかし、少しも焦る様子を見せない暁美。二分以内にここから逃げる逃走手段を持っているのか、それとも後先考えないほど自暴自棄なのか分からない。
どちらにしても、ここが正念場だ。下手に暴走して銃を乱射したら終わりだ。
「なあ、暁美。今なら引き返せるぞ。銃を捨ててくれ。警察にはいたずら電話だったってことにしておくからさ」
「なぜ?貴方は私のことがきらいなんでしょう?」
乗ってきたか。よし、ここでできるだけ親身なことを言う。
こいつだって、無難に済ませておければ、それに越したことはないはずなんだ。
「僕も君も転校してきたばかりでお互いのこともよく知らないけどさ。僕はせっかく君と同じクラスなったんだから、一緒に中学校を卒業したいんだ」
「・・・・・」
暁美は何も言わない。鹿目さんも僕の顔を不安そうな顔でじっと見つめている。
「だって、運命的じゃない?同じクラスに同じ日に転校してくるなんてさ。普通ないよ。だからさ、暁美さん。君のこと、もっと教えてくれないかな。君と友達になりたいんだ」
自分で言っておいて、何ほざいてるんだろうという気分になるがこの際致し方あるまい。
精神科医の父親のおかげで、精神が不安定な人間の扱いにはちょっとばかり自信がある。
僕は笑顔で手を広げて敵意がないことを示しながら、暁美に近づく。
片手をゆっくりと暁美に伸ばす。
暁美の手から銃を離させ、手を握りしめる。暁美は抵抗しなかった。いつも通りの無表情な顔が少し揺らいでいるように見えた。
「君に何があって、なぜこんなことをしたのかは知らない。でも僕達は友達だ。辛いことが合ったらいつでも頼ってよ」
自分でもこんなにうまくいくなんて思ってもみなかった。恐らく、暁美自身、こんな言葉をかけるような人間は周囲にはいなかったのだろう。
何にせよ、僕は生き残れた。今はそれでいい。
よし暁美をまるめ込めることに成功した。これで一件落着・・・。
「政夫!ちょっと避けて!」
「え?おあッ!?」
とっさに反射的に後ろに飛び
「政夫、まどか、こっち!」
声の方を見ると、美樹が暁美に消火器を噴射していた。
何やってんだお前ー!せっかくいい感じに暁美をまるめ込んで無理やり和解したのに。
僕の努力全部パーだよ。頭がパーの青髪さんのせいで。
しかたない。ここは鹿目さんを連れて逃げるか。
もう暁美との話し合いは無理だ。確実に僕に裏切られたと思ってるだろう。怒り狂って銃を発砲しない内に逃げるのが得策だ。
「鹿目さん、逃げるよ」
「う、うん」
鹿目さんを立たせて、僕らは美樹の方へ向かって走った。
美樹は消火器の中身を全て暁美にぶちまけた後、空になった消火器を暁美に投げつけた。良い子は絶対にまねしないでください。
それから、三人で出口に向かって逃げていると、美樹がいら立ったようすで喋る。
「何よあいつ。今度はコスプレで通り魔かよ!つーか何それ、ぬいぐるみじゃないよね?生き物?」
は?ぬいぐるみ?生き物?一体何の話をしているんだ?
鹿目さんの方を見る。彼女は何かを抱えるような
「わかんない。わかんないけど・・・この子、助けなきゃ」
この子?
確かに鹿目さんは腕に抱えている物を見るように下を向いて話しているが、当然そこには何もない。
このおかしな状況のせいで二人とも狂ったのか?なら、さっさとここを出て病院に連れて行かないと。
幸い、僕の父さんは精神科医だ。父さんなら、彼女たちをどうにかしてくれるだろう。
「あれ?非常口は?どこよここ」
「変だよ、ここ。どんどん道が変わっていく」
「・・・・・・」
最初は錯乱した二人の
僕はまっすぐ走って、さっきの暁美がいた場所に着いたのだ。来た道を戻っているのだからすでに非常口が見えてこないのはどう考えても妙だ。
鹿目さんが叫んだ。
「やだっ。何かいる!」
まだ、何かおかしなことが起きるのか?頼む。鹿目さんの見ている幻覚であってくれ。
そう祈って、鹿目さんが見ている方を向く。
本当に『何か』いた。
綿のような表面の球体にカイゼル
ポテトチップスのロゴにこんなのがいた気がする。取りあえずポテチおじさんと命名しておこう。
ポテチおじさんたちは僕たちの方へ取り囲むように近づいてくる。
「冗談・・・だよね。あたしたち、悪い夢でも見てるんだよね?ねぇ!」
怯えた目で必死に現実逃避を繰り返す美樹。
ポテチおじさんは、大きな
『悪夢は起きても覚めない』
何かの本で読んだフレーズを僕は思い出した。
これはもう助からないな。ここまで絶望的だと逆に冷静になってしまう。
せめて出口がどこかにあれば、僕が身体を張って二人を逃がすくらいはするのだが、出口がない以上、二人はどの道、助からない。寿命が1分かそこら延びるだけで怯える時間が増えるだけだろう。
その時、僕らの前にいたポテチおじさんが二、三体吹き飛んだ。
「危なかったわね。でももう大丈夫」
僕らの後ろから足音が聞こえてきた。
振り返ると、そこには金髪ドリルヘアーのお姉さんがいた。
手直しし始めて気付きましたが、本当に適当に書いていたんですね、私・・・。
びっくりするほど、主人公の性格がおざなり過ぎます。