魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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第三十二話 ファミレス裁判

「被告人暁美ほむら、何か申し開きはありませんか」

 

僕が暁美に慄然と告げた。

何やら物言いたげに僕を見るが、結局何も言わずに押し黙る暁美。

 

そうここは裁判所……ではもちろんなく、ファミレスの店内だ。もっと詳しく語るなら、前に暁美と一緒に入ったが何も頼まずに帰ったあのファミレスだ。

僕らはあの後、工場からこのファミレスにやって来ていた。工場の中でスターリン君や志筑さんを含む『魔女の口付け』に操られていた人たちは、目を覚ますと一様に首を(かし)げながら帰って行った。

 

「被告人って……。政夫くん、流石にそれはちょっと言いすぎじゃないかな?」

 

「そうだな。まあ、俺も詳しい事は知らねぇが、もうちょい穏便でもいいんじゃねぇか?」

 

傍聴席、じゃなかった。僕らのすぐ近く隣に座っている鹿目さんとショウさんは、暁美を擁護(ようご)するようなことを言うが僕はこの女を許す気はなかった。

 

暁美がこうやって人に擁護してもらえるのは、(ひとえ)に容姿が整っているからだ。誰が最初に考えたのかは知らないが『可愛いは正義』とはよく言ったものだ。

 

しかし、僕にはそんなものは通用しない。暁美が僕の好みのタイプではないからではない。

美少女だろうが、何だろうが裁かれないといけないことがある。

 

「……確かに僕も少し感情的になりすぎていたよ」

 

だが、まあここでこの怒りをぶちまけてしまうと僕の評価が(いちじる)しく下がってしまう。ましてショウさんとこうやって話し合いの場を設けるのはこれが初めてだ。ここで悪感情を持たれるのは『今後のこと』を考えるとあまり好ましくない。

 

だから、ここは許そう。寛大な心でっ・・・!

時には納得できない理不尽なことにも、妥協して人は進むのだ。

 

「ごめんね。被告(・・)

 

「……政夫。貴方、性格悪いって言われない?」

 

暁美が俯きして、僕を恨みのこもったような目で見上げる。

そんな目で僕を睨める立場か!この世界と限りなく近い並行世界を見てきたにも関わらず、ろくに優位に立てないくせに!

僕は多少イラっときたが、そこはさらりと受け流す。

 

「ほら、僕ってツンデレだから」

 

「初耳だわ。私にはいつデレるのかしら?」

 

あははははは。そんなもん一生来ねーよ!

お前が僕に対してやってきた仕打ちを思い出せ。

 

「さて、無駄話はこれくらいにして、そろそろ本題に入りましょうか」

 

僕は暁美との不毛な会話を断ち切り、ショウさんの方に顔を向けた。

ショウさんもこれから僕が言わんとしていることが想像できたのか、表情を引き締めた。

鹿目さんだけは会話の雰囲気に変わりようについて来れていないのか不思議そうな顔をしている。まあ、鹿目さんには取り合えず聞いていておいてもらえばそれでいいか。

 

「ショウさん。大前提として『魔法少女』についてどのくらい知っていますか?」

 

「そう来るって事はお前は俺よりも知識があるって事だな?」

 

探るような目でショウさんは僕を見る。

やれやれ、大人だけあってそう簡単に情報は漏らさないか。まだ警戒されているのだろう。ギャルゲーでいうなら攻略対象とのイベントをろくにこなさずに告白したようなものだ。

 

ならば、興味の引くような話題を提示すればいい。嫌でも本音と情報を引きずり出す。

 

「そうですね、多分知識だけならショウさん以上だと思います。例えば……そう、『魔法少女の殺し方』って知ってますか?」

 

「なッ、政夫!」

 

一早く反応したのは、僕の正面にいた暁美だった。

こいつにとっては看過できない話題だろう。いきなり意味もなく、弱点をさらすようなものだからな。

だからこそ価値がある。信用を勝ち得ることができる。

暁美に少しだけ黙っててもらえるようアイコンタクトを送った。暁美は納得したような様子は見られなかったが、しぶしぶながら引き下がってくれた。

 

「え?どういう事……?魔法少女の殺し方……?何を言ってるの政夫くん!?」

 

意味が分からないようで困惑する鹿目さん。ただ字面から剣呑な話であることは分かったらしく、表情から怯えが(にじ)み出している。

 

「……面白い話だな。続き、話してもらえるか?」

 

ショウさんの方は僕の予想通り食い付いてきた。興奮しているのを(さと)られまいと(つと)めて冷静な様子を保っているものの、それが返って興味を抱いているのが見て取れる。

なんせある意味で義妹の命に関わることだ。胸倉をつかんででも聞き出したいというのが本音だろう。

 

「いいでしょう。お話します。まず魔法少女には魔法を使うための『ソウルジェム』という魔力の源が存在しているのはご存知ですね?」

 

「ああ。それくらいは」

 

「魅月杏子さんから聞いたんですか?」

 

「そうだ……ちょっと待て。何で杏子が魔法少女だって事を知っているんだ?」

 

ショウさんは不信感を(あらわ)にして僕に詰め寄った。

ふむふむ。よほど魅月さんのことが大切と見える。彼女のことを本当に大事に思っているのだろう。

これなら、『魔法少女の秘密』を知っても魅月さんを拒絶したりしないはずだ。

 

「彼女が自分から教えてくれたんだよ。ねえ、暁美さん」

 

ここで僕は暁美に話のバトンを渡した。今まで黙っていてくれた彼女に発言を任せよう。

暁美は僕の方をじろっとわずかに睨んだ後、ショウさんの方へ向き直り、軽く会釈(えしゃく)をした。

 

「ここからは政夫に代わって、私がお話します。初めまして、暁美ほむらです。魅月ショウ……さんでよろしかったでしょうか?」

 

「ああ。呼びにくかったらショウでいいぞ。あと敬語も別にいらねぇよ。なんか政夫と違ってお前の敬語は違和感ある」

 

「そう。じゃあそうさせてもらうわ。それで魅月杏子の件だけれど、彼女とは今日学校で出会ったわ」

 

やはり、暁美はショウさんには過去から来たことはいうつもりがないらしく、魅月さん、いや、杏子さんとは今日初めて知り合ったことにするらしい。

無難な選択だ。暁美にとってはこれ以上自分の秘密を暴露する理由などないのだから。

 

暁美が屋上で杏子さんにあった経緯を伝え終わると、ショウさんは少し眉間(みけん)(しわ)を寄せていた。

 

「まずったなー。そっか、魔法少女って他にも大勢いるんだったな。魔女っつーか、グリーフシードの取り合いになっちまう。もっとよく考えて杏子を中学に入れるんだったぜ」

 

どうやら、ショウさんは杏子さんと巴さんたちが敵対している状況を知って、彼女を見滝原中学校に編入させたことを後悔しているようだった。

 

ここはフォローするべきところだな。

 

「でも、杏子さんはクラスにもうまく溶け込めていましたし、彼女を中学校に入れたこと自体は少しも間違いじゃありませんよ」

 

むしろ、少しでも杏子さんのためにそこまで行動したショウさんは本当に偉いと思う。血の繋がってもいない相手にそこまで思いやれる人間は少ないだろう。

 

「ありがとうな、政夫。それで……」

 

「分かっていますよ。最初の『魔法少女の殺し方』ですよね?ちゃんとお話ししますよ」

 

この場所で僕が聞きたかったことはショウさんが『魔法少女の秘密』を知っても杏子さんとうまくやっていけるかどうかだった。彼女が真実を知ったショウさんに拒絶され、魔女化する恐れがあったからここまで会話を長引かせたのだ。

 

だが、それは僕の杞憂(きゆう)だった。はっきり言って魅月杏子という人物はよく知らない。だけれど、ショウさんになら安心して話すことができる。

このことを杏子さんに教えるかどうかはショウさんに決めてもらおう。

 

 


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