「もう少しだけ一緒に……、ううん。これ以上夕田君の
「ええ、それじゃあ。今度会った時は格好いい巴さんを期待してますよ」
「もう……。そんなにからかわないでよ」
泣き止んだ巴さんは少し怒ったように僕を見て、屋上から立ち去った。ちょっと口が過ぎたかな。でも、本気で怒っていたというよりは、照れ隠しのようだったし、多分大丈夫だろう。
巴さんが教室に帰っていった後、
こいつ、さては隠れてどこかから見ていたな。鹿目さんだけじゃなく、僕にまでストーキング行為を働くとは、呆れたストーカーだ。
「……政夫、貴方は実は命を粗末にするのが好きなんじゃないの?」
いつも以上に
仮に僕がそんな自殺志願者だろうと、こいつには関係ないだろうになぜそんなに苛立っているんだ?ひょっとして、僕のことを心配しているのか?
いや、それはないな。暁美にとって大切なのは鹿目さんだけだ。
他の人間がどうなろうと、こいつにはどうでもいいことのはず。
「……い、いや……そう、でもないよ……」
「!貴方……」
どうやら暁美も気付いたようだ。
僕が震えていることに。
巴さんが居なくなる前は
手、足、身体の末端から中枢にかけて震えが止まらない。
怖くないわけなかった。
銃という最低限の知識さえあれば、どういった『結果』になるか目に見えている物は予想がつく分、魔女よりも恐ろしい。
「そう。貴方も……無理をしていたのね」
暁美の静かな問いに、言葉すら出せなかった僕は黙って
予想していた最悪の仮定が脳裏を
落ち着け。もう終わったんだ。
そう自分に言い聞かせるが、恐怖の警鐘は鳴り止まない。
そんな中、僕の手を誰かが取って、優しく握りしめた。
顔を上げると、暁美がいつの間にか僕の傍に近づいて来て、僕の手を握っていた。
「暁、美さん?」
「手を握られると、ふ、不思議と何故か安心するのよ。だから、ほら……」
急にしどろもどろに弁解を始める暁美。
一瞬、こいつが何をしているのか分からず、僕はポカンとしたが、すぐに不器用ながらも
「くっ、あはははははは!」
身体に溜まっていた恐怖が霧散するのを感じる。
今まで震えていたのが嘘みたいだ。
「あははははははははは!!」
「なッ、何で笑うのよ!納得いかないわ!」
最初は突然笑いだした僕に面食らっていた暁美だが、次第に腹が立ったのか、怒り出した。
それが、ますます僕の笑いを誘う。
「だ、だって、くふっ。可愛すぎるよ。暁美さん」
僕は笑いを
「か、可愛い?政夫。また私をからかっているでしょう!」
「からかってないよ。混じりけのない素直な感想だって」
今度は暁美は
今までが今までだったから、暁美への印象が百八十度変わってしまった。
どうしても意見が合わない知人から、実は面白おかしい知人にランクアップだ。
ようやく。
ようやく暁美のことがほんの少し好きになれそうだ。
暁美と一緒に屋上から教室に戻ろうとした時、僕はふと気付いて暁美に尋ねた。
「あれ?でも何で暁美さんがここにいるの?鹿目さんたちと登校してくる時間よりもかなり早い気がするんだけど」
僕は巴さんと誰にも邪魔されずに話すために、結構早い時間に登校してきた。
いつも林道で待ち合わせをしている時刻になったら、鹿目さんたちにもう学校に行っていることをメールで知らせるつもりでいた。
暁美はちょっと顔を曇らせながら答えた。
「それは……私も今日は一人で早く登校したのよ」
その表情は幼い子供が後ろめたいことを黙っている顔だった。
何をしたんだ?…………ハッ!まさか!!
『まどか。邪魔者は去ったわ。これからは女の子同士でしか味わえない事を教えてあげるわ』
『え!?何するの、ほむらちゃん?嫌だよ。そんな事やめてよぉ…・・・』
『ふふ。もう遅いわ。今夜は寝かせない』
『やっ……!女の子同士でそ、そんな事……。やめてぇ!!』
昨日、鹿目さんを家に送った時にレズビアンとして欲望に歯止めが効かず、送り狼と化してしまったのか!
しまった。あの時間帯なら家族もいるだろうと
クッ。すまない、鹿目さん。僕が暁美を信用したばかりに、取り返しのつかないことを!!
「……最近、政夫が何を考えているのか大体分かるようになったわ。でも安心して、“欠片も合っていないから!!”」
コミュ障の分際で生意気な。
僕はどこぞの主人公
「僕の考えが分かるかどうかは別にして、鹿目さんたちと一緒に登校しなかったのは何で?」
「美樹さやかと顔を合わせづらいのよ」
「上条君のことで何かあったんだね?」
そう言えば、昨日美樹に呼び出されたとか鹿目さんが言ってたな。
男を巡る三角関係。
暁美は憂鬱そうに髪をかき上げる。だが、いつもの無意味に誇らしげな『ファサッ!』という後ろにビックリマークを付けた軽快なものではなかった。
「……上条恭介の想いに応えてやってほしいと頼まれたわ。土下座までしてね」
「そりゃ思い切ったことするね。自分に決定的なトドメを刺してって言ってるようなものじゃないか」
いや、下手にチャンスがありそうな今の状況の方が美樹にとっては辛いのかもしれない。
だが、本当に美樹は上条君を諦め切れているのか
まあ、僕は美樹にちゃんと説明した上で説得したにも関わらず、あいつは魔法少女になったんだ。友達としての義理は果たした。
後はどうなろうと美樹の自業自得としか言いようがない。
教室に入ると、僕が登校してきた時よりも人数が増えていた。
中沢君もいたので、ノートを貸してもらい、受けられなかった授業の分を勉強する。
うわ。英語とか一日だけで結構授業進んでるな。でも、中沢君のノートはカラーペンなどできちんと色分けしてあり非常に見やすい。これなら、遅れも取り戻せる!
二十分ほどノートを書き写したりして復習していると、スターリン君が僕に声をかけて来た。
「おい、夕田。少し話があるんだが、いいか?」
「ああ。いいけど?」
「ちょっとトイレまで一緒に来てくれ」
スターリン君はいつになく真剣な顔で僕を連れて行く。
一体何の用だろう?
それにしても命に別状はないとはいえ、魔女の口付けを食らった翌日に普通に登校してくるとは、結構根性あるなあ。
トイレにはちょうど僕らの他には誰もいなかった。
ここで何の話があるというんだろう。僕はスターリン君の方を見るが、彼は後ろを向いたままだった。
「……魔法少女」
「!!」
スターリン君がぽつりと漏らした単語に僕は
なぜスターリン君がその言葉を知っている?いや、そもそも僕に言っている時点でバレているのか?
「俺が工場で気絶して目を覚ました時、お前そんな台詞を言ってたな。それでピーンと来た。お前は……俺と同類だって事にな」
「まさか……君」
知っていたのか。魔法少女のことを。魔女のことを。
一気に空気に緊張が走る。
スターリン君はおもむろに僕に紙袋を差し出す。
「クックック。多分、お前も気に入ると思うぜ。昨日、目を覚ましてもらった借りだ。受け取りな」
全てを見通したような目で僕に笑いかけるスターリン君。
君は一体どこまで知っているのだろうか。
黙って紙袋を受け取り、中の物を取り出した。
そこには……。
『魔法少女レイ~禁断の触手~』と書かれたパッケージのゲームソフトが入っていた。
スターリン君を見つめ直す。すると彼は晴れやかな笑顔でこう言い放った。
「クラスのみんなには内緒だぜ☆」
言葉ではなく、握った拳をスターリン君の右頬目掛けて振りぬいた。
僕の拳は逸れることなく綺麗に決まり、スターリン君は不浄なトイレの床に
「がぁはぁッ!!な、何をすんだ。夕田ぁ」
「その台詞、そっくりそのままお返しするよ!!」
意味が分からない。何がしたいんだ、この男。
R18指定のゲームを僕に渡してどうする気なんだよ。
「俺はただ、昨日工場内で気絶してた俺を起こして助けてくれた夕田が、魔法少女萌えだと思ったから、お礼としてお気に入りのエロゲーをプレゼントしただけなのに……」
『目を覚ましてもらった借り』って文字通りの意味かよ!てっきり『魔女の口付け』から解放してもらったことかと思って、ビックリして損した。
別にこいつは魔法少女のことを知ったわけでも何でもなかった。ただ単に僕が『魔法少女』というフレーズを口ずさんだ時にたまたまそれを聞いていただけだったわけだ。
「いらないよ!というか学校にエロゲーを持ってくるな!どういう神経してんだ、君は」
「そんな事言わずにちょっとやってみろって。マジエロいから。マジ
「やるかボケェェェェェェェェッ!!」
僕はトイレの床に寝転がったまま、エロゲーを勧めてくる馬鹿野郎にゲームの入った紙袋を投げつけた。
正直、主人公よりもスターリン君書いてた方が楽しいです。
ネタキャラはいるだけで場を盛り上げてくれます。