魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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さやか&杏子編
第三十七話 アグレッシブだよ!上条くん


「なあなあ、夕田。俺たちって友達だよな?」

 

「知らないよ」

 

僕が『魔法少女萌え』だと勘違いしたスターリン君は、同好の士を見つけたと言わんばかりに目をキラキラさせ、僕に構ってくる。

非常に鬱陶(うっとう)しい。どこかに行ってくれないだろうか。

慣れなれしくくっ付いてくるスターリン君を押し退けて、中沢君に借りていたノートを返した。

 

「ありがとうね。中沢君」

 

「ああ。写し終えたの?随分早かったね」

 

本当はまだ全部は写しきれていないが、今日の一時限目に英語があること考えると今返さざるを()ない。もうそろそろホームルームまで少し時間があるが、それでもギリギリまで借りるのは気が引ける。

取り合えず、重要そうなところだけざっと抜いて書き出したので、それほど困りはしないはずだ。

 

今まで特に気にしていなかったのだが、中沢君の席って暁美の隣なんだな。

可哀想な中沢君。こんな愛想のない女が隣とはついていない。息苦しくて授業中も息が詰まる思いなんじゃないか。

 

「何かしら、その目は」

 

暁美が僕に不機嫌そうな目を向けてくる。

いちいちこちらの顔を気にするな。いつものスルースキルはどこへやった。

 

「何でもないよ。そんなに怒らないで」

 

ドウドウと馬を落ち着ける要領で暁美をなだめていたら、教室の扉が開いて上条君が松葉杖を突きながら、教壇側の方から教室に入ってきた。

こちらに気がつくと嬉しそうな顔で寄ってくる。

 

「やあ、夕田君。おはよう。学校で会うのは初めてだね」

 

「おはよう、上条君。退院したんだね。元気そうで何よりだよ」

 

お互いに挨拶をしながら、僕は上条君の左手を眺める。

彼の左手は右手同様、松葉杖をちゃんと握り締めていた。

『動かない』と言われていたその手が、感覚もないと嘆いていた手が、しっかりと上条君の身体を支えるため使われていた。

 

「動くようになったんだね」

 

僕が上条君の左手を見ながら言うと、彼はとても嬉しそうな笑顔で話し始めた。

 

「そうなんだよ!凄いよね。本当に奇跡だよ。きっと神様がまだ僕にバイオリンを弾いてもいいって言ってくれてるんだよ」

 

上条君は(いと)おしそうに自分の手を見つめながら、実感のこもった口調で述べた。

きっと上条君は予想もしていないだろう。その左手のために幼馴染がどんな代償を払った、いや、払い続けるはめになったのかを。

当然と言ってしまえばそれまでだが、美樹は本当に報われないな。まあ、頼んでもいないのにそんなことをした美樹に非があるのだ。上条君に責められる要素は一つもない。

 

「おめでとう、上条君。ほら、暁美さんも」

 

こっそりとこの場から離れようとしていた暁美の腕をつかんで僕はエスケープを邪魔する。

何さりげなく、逃げようとしてんだお前は。

 

「……放して」

 

「逃げ出さないならいいよ」

 

僕は暁美の顔をじっと見る。

暁美は目を(そむ)け、そっぽを向く。

まるで今にも逃げ出したいと書かれているようだった。夏休みの宿題から逃げ出そうとする子供のみたいだ。

 

だが、ここで逃げるのはなしだ。そんな甘えは許さない。

僕は笑顔のままで暁美に上条君との対話を促す。

暁美は僕を恨みがましい目で見た後、しぶしぶながらも上条君と向き合った。

 

「……退院おめでとう。上条恭介……君」

 

「ありがとう、暁美さん。これは多分君のおかげでもあるんだ」

 

「私のおかげ……?」

 

「うん!君がお見舞いに来てくれてから、例え手が動かなくても頑張ろうと思えるようになったんだ。そうやって足のリハビリをしていたらいつの間にか手も元のように動くようになった。バイオリンだってまた弾けるくらいに。……本当に君は僕の女神様だよ」

 

……べた惚れだね、上条君。

それにしても女神様なんてキザな言い回し普通中学生が使うか?ひょっとしてショウさんの影響か何か。

その美形な顔立ちにはフィットしているからいいが、僕なら一生ネタにされる台詞だ。

 

そんな台詞を投げかけられた暁美の方は、あまり嬉しそうな顔は浮かべていない。というか引きつっている。

見てる分には面白いよなー、こういうの。絶対に当事者にはなりたくないけど。

 

 

「暁美さん」

 

スゥーと深呼吸をして一拍(いっぱく)空けた後、上条君は静かに、でも、はっきりと暁美にこう言った。

 

「今日、僕とデートして下さい」

 

突然の発言。暁美唖然。それも当然。

 

上条君の台詞により、教室と僕らの周囲の温度が切り離された。他のクラスメイトの話し声が妙に空々しく聞こえる。

暁美の隣に座っている中沢君にいたってはこちらを向いたまま硬直している。

その気持ち分かるよ、中沢君。完全な部外者なのにそんなことを聞かされればそうなるよ。

 

言われた本人の暁美でさえ、口を金魚の如く開閉していた。

文字通り、言葉を失っていらっしゃる。

面と向かって告白されたのは実はこれが初めてだったりするのかもしれない。

 

「駄目、かな?」

 

まったく返事をする気配を見せない暁美に、上条君は不安そうな顔で聞く。

 

「ほら、上条君返事待ってるよ。暁美さん」

 

取り合えず、僕は暁美の肩を揺すって返事を(うなが)した。

暁美は「どうすればいいの?」という声が聞こえそうな顔で僕に助けを求めるが、それに答える気は毛頭(もうとう)ない。上条君が勇気を出してデートに誘ったのだから、断るにしても暁美自身の言葉で言わなければ失礼だ。

僕が助け舟を出さないことを悟ったのか、暁美は上条君に向き直り、そして――――――。

 

「わかったわ」

 

意外にも肯定の返答をした。

 

へー。あれだけ嫌がっていたのにデートには行ってつもりなのか。実は上条君のことを気に入っていたのかもしれない。何にしても報われない同性愛に生きるよりは生産的だ。

 

「本当!?じゃあ放課後に一緒に帰ろうよ」

 

「わかったわ」

 

暁美の返事を聞くと上条君は嬉しそうに席に戻って行った。

青春してるな~。長い入院生活でまったく学園生活を送れていなかったのだから、これでつり合いが取れるだろう。

 

「それにしても君がOKするとは思わなかったよ」

 

僕は話しかけるが、なぜか暁美は無言だった。

 

「暁美さん?」

 

「なんで……」

 

「え?何?」

 

「何で咄嗟(とっさ)に『わかったわ』なんて言ってしまったのかしら」

 

 

え?

 

まさか、こいつ。

 

咄嗟(とっさ)って、デートを受けるつもりなかったの?」

 

暁美はごまかすように髪をかき上げる。

 

「……不用意に言葉が出るときって怖いわね」

 

こいつ、本当に酷いな。適当に言っただけかよ。

しかしまあ、これが美樹にとってどうなるかが気になるところだ。

本当に上条君のことを諦めているのか、それを試させてもらう良い機会と言える。

 

僕は透明な教室の壁の向こうの廊下から、鹿目さんや志筑さんと一緒に登校してきた美樹を見ながら、今後の未来に思い()せる。

 

 




「恭介はこんなこと言わない!」とおっしゃりたい上条恭介ファンの皆様。
本当にごめんなさい。

ですが、この物語の上条君は基本こんな感じなので、温かく見守ってください。

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