魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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第三十九話 妹想いのお兄さん

「どうしたもんだろうかな?」

 

喫茶店から出た僕は、通りを見渡すがすでに美樹の姿はどこにもなかった。

当然といえば、当然か。今、魔法少女になった美樹は暁美と同じくらい足が早い。その美樹が走って逃げたわけだから、視認できるほど近くにいるはずがない。

 

もっとも見つけたところで僕では美樹に追いつけるはずもない。

ここは美樹が行きそうな場所に目星をつけて先回りするべきだろう。

 

最初に思い浮かぶのは美樹の家。

だが、可能性は薄いと思う。

美樹の両親は共働きだと美樹自身が言っていた。今のあいつは誰かに慰めてもらいたいと考えているはずだ。誰もいない自宅はより一層孤独感をかき立てる。

美樹が強がっているのは、弱いメンタルを隠すためのもの。巴さん以上に孤独には弱いだろう。これまでのあいつを見れば一目同然だ。

 

と、すれば、だ。次に可能性があるのは鹿目さんの家。

しかし、これもこれでない気がする。美樹は鹿目さんの前だけでは格好を付けたがる。多分、頼れる親友を演じていたいのだろう。そういうところが逆に心配や迷惑をかけるのがあの馬鹿には分かっていない。

 

ふいにぽつりと僕の頬に何かが触れた。

上を見上げると、いつの間にか空は曇っていて、雨がぽつぽつと降り始めていた。

僕が風邪をひく前には美樹を見つけ出さないといけないな。

 

そう思った矢先、僕のズボンのポケットにしまってあった携帯が突然鳴り出した。

美樹ではないだろうな、と思いながらも、(わず)かに希望的観測をしつつ、通話ボタンを押して、携帯を耳に当てる。

 

『政夫!俺だ。魅月ショウだ!いきなりで悪いが、杏子を見てないか!?』

 

大音量の声が僕の耳から脳に送り込まれる。思わず、僕は携帯から耳を離してしまった。

しかし、気を取り直してすぐに声の主に返事を返す。

 

「残念ながら見てませんね。学校にも来てませんでしたし。それよりもショウさん、そんなに慌ててるってことは……」

 

『……ああ。昨日の夜にな。その、話したんだ。お前から教えてもらったことを。それで……口論になって……畜生!!俺が……!俺が!杏子に………』

 

ショウさんの声のトーンは暗く沈んでいた。話し方も鹿目さん並みにたどたどしい。電話の向こうにいるのは、あの頼りになる大人の代表のようなショウさんではなかった。

 

仕方ない。ここはショウさんを落ち着かせよう。

一呼吸置いた後、僕はショウさんに呼びかける。

 

「ショウさん」

 

『え?何だ?』

 

「好きです。結婚して下さい」

 

『…………………………………………は?』

 

少しの間、ショウさんが電話の向こうで硬直していたのが分かる沈黙があった。

ショウさんが今どんな顔をしているか、容易に想像できる。

 

「どうですか?落ち着きました?」

 

『……あ、ああ。今、本気で頭が真っ白になったぜ』

 

「今、どこに居ますか?取り合えず、合流しましょう。話はそれから、ということで」

 

『お、おう。今は………そうだな。昨日お前らと行ったファミレスの近くだ』

 

また、あのファミレスか……。もう僕、ブラックリストに載せられてる可能性があるから行きたくないのだが、(いた)し方あるまい。

 

「それじゃ、そのファミレスに入ってて下さい。僕もそこに行きます」

 

『……政夫、お前スゲーな』

 

急にショウさんが意味の分からないことを言ってきた。

 

「何がですか?」

 

僕が聞き返すと、ショウさんは恥ずかしそうに答える。

 

『いや、俺よりも(はる)かに年下なのにしっかりしてるからよ。何つーか、大人として立場がねぇ……』

 

「そう感じられるのは、ショウさんがまともな責任感を持つ大人の証拠ですよ。本当に駄目な大人はそんなことを考えたりしません。あの手の大人は、他人に責任を押し付けることに思考を巡らすことだけしかしませんから」

 

ショウさんが本当に無責任な大人なら、杏子さんが出て行った責任を僕に押し付けて(わめ)くこともできた。それをしなかったのは、ひとえにショウさんがまともな大人であるからだ。

僕は、父親が医者だから病院関係の後ろ暗い話をいくつか知っている。父さん(いわ)く、医者というのは腐った大人の宝庫だとか。

 

『本当にお前中学生かよ?』

 

「ピッチピチの十四歳ですよ。それじゃ、後はファミレスで話しましょう」

 

ショウさんとの通話を終えると、僕は携帯をポケットに押し込み、ファミレスに向かう。

当然、美樹のことを忘れたわけではないが、ショウさんの件の方が重大に思えたので、そちらを優先させる。

 

どこにいるか分からない美樹を(しらみ)潰しに探すよりも有意義だろう。

そもそも、自業自得の美樹にそこまで同情してるかと言えばNOだ。こんなことになることが分かっていたから、あれだけ必死に止めたのだ。それにも関わらず、魔法少女になったのはあいつの責任以外の何者でもない。

僕は、そう考えながら、ファミレスに向かった。

 

 

 

ファミレスに着いて、店内に入ると、ウェイトレスさんに警戒された表情で見られた。

やっぱり、ブラックリスト入りしてるのか僕。

軽くショックを受けつつも、ショウさんを見つけて、座席に座る。

 

「おお。来たか」

 

軽く手を上げて、僕の方を見たショウさん顔には、大きな(くま)ができていて、いつもは整えている髪型もボサボサだった。

見るからにくたびれた様子が読み取れる。

ひょっとして、昨日の夜からずっと杏子さんを探していたのか?

 

「ショウさん、いつから杏子さんのことを探していたんですか?」

 

「え?いつからって、杏子が家から出て行ってから探してるに決まってるだろ?」

 

当然そうに答える。むしろ、僕の質問の意図が分からないと言った顔をしている。

どれだけ妹想いなんだ、この人。

 

「食事とかは……」

 

「もちろん、食ってないぞ。昨日から杏子だって何も食べてないかもしれないんだから、俺だけ飯なんか食えるわけねぇよ」

 

……筋金入りの妹想いだ。

ここまで徹底してると、ため息すらでない。

 

 




政夫が酷いように思えますが、忠告したのに聞かなかったさやかにも問題があります。
ぶっちゃけ、そこまでさやかと親しいわけじゃないので・・・。

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