魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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第四十一話 これぞ文明の利器

ファミレスで結局何も食べられなかったまま、僕は何とも言えない思いで歩道を歩いている。

途中でショウさんがコンビニでビニール傘を二本買って来てくれた。僕はその内の一本を受け取って差す。これで雨に濡れずに済む。オムライスの恨みは水に流そう。

僕はお礼の言葉を述べつつ、ショウさんに尋ねた。

 

「昨日から杏子さんを探していたって言ってましたけど、どこら辺を探してたんですか?」

 

この答えによって、まずどこから探していくか、どこを重点的に探すべきなのかを考えなくてはいけない。

だが、ショウさんの答えは意外なものだった。

 

「ぶっちゃけると見滝原はあんまり探してない。ずっと風見野で探してたからな。見滝原に来たのは二時間前くらいだ」

 

一瞬、何故風見野で?と思ったが、そういえば杏子さんは自己紹介の時に風見野に住んでいるとか言っていた気がする。

自宅があるのが風見野なら、まずそこを探すのはある意味当然だ。

 

気を取り直して、僕はショウさんへの質問を変える。

 

「つまり、見滝原はそこまで探していないということですか?」

 

頬を軽く()きながら、ショウさんは少し言い辛そうに答えてくれた。

 

「まあ、そうだな。風見野をそこら中探し回ったが、杏子が見つからなかった。今も知り合いに手伝ってもらって風見野探してもらってんだが、ひょっとしたら見滝原に行ってるんじゃねぇかと思ってよ。あいつは昔、こっちに住んでたっつってたからな」

 

昔は見滝原に住んでた?

それは初耳だ。暁美には、そこまで詳しく教えてもらってなかった。

ならば、どこかに彼女の家、もしくはその跡地のような場所があるかもしれない。人間は、例えもう居場所がなくなっていたとしても、地元に戻ってきてしまう。帰省本能とでもいうのか。

自分が生まれ育った場所というものはそれほどまでに特別なものだ。まあ、僕はそうでもなかったけど。

 

「杏子さんが昔住んでいた場所のこと、何か聞いてませんか?」

 

僕がそう聞くと、ショウさんは両腕を組んで、難しい顔で考え込んだ。

杏子さんは、ショウさんにもあまり自分のことを語りたがらない人間なんだろうか。

僕自身は杏子さんのことをまったくと言っていいほど知らないので、ショウさんが知らないとなるとどうしようもない。

 

「あ!そういや、あいつ、教会に住んでたとかボソッと言ってたような気がするぞ」

 

「教会……ですか。では、彼女の父は神父さんか、牧師さんですね」

 

特徴的だな。これで検索範囲がグッと(せば)まる。

自分で言っといてなんだけど、牧師はプロテスタントだから結婚や妻帯者はありだけど、神父はカトリックでは妻帯者は不可じゃなかったか?

 

いや、確かカトリックの派生の東方正教会なら神父でも妻帯できたとか本で読んでことあるな。

そんなことを考えながら、僕は携帯を出して検索サイトに繋いだ。

 

「杏子さんの名字って、『魅月』になる前は何だったんですか?」

 

暁美に聞いたおかげで本当は知っているが、怪しまれないように一応聞いておく。

何で知ってるのか聞かれたら、暁美の事情を話さなくちゃいけなくなる。それは流石に駄目だろう。もしショウさんたちにも知られることになるとしても、僕が勝手に話して良いことじゃない。

 

「佐倉だ。佐倉杏子。それがどうしたんだ」

 

「いえね。ただネット世代の子は、知りたい情報をこうやって調べるんですよ」

 

検索欄に『見滝原』『教会』『佐倉』と入力して、検索を開始する。

すると、トップに出てきたのは、とある事件についてだった。

 

「一家焼身心中、ね」

 

恐らく、杏子さんだけは生き残ったんだろうな。魔法少女はソウルジェムが砕かれないかぎりは死なないらしいし。

それにしても、杏子さんはよくこれで魔女にならなかった。それともあるいは、家族を殺したのが…………止めよう。これは流石に邪推が過ぎる。

 

「佐倉一家って……これ杏子の家族のことじゃねぇか!!」

 

僕の携帯を無理やり取り上げると、ショウさんは声を荒げた。

自分が想像していたよりも杏子さんの境遇が悲惨なことに衝撃を受けているようだった。

 

確かに悲惨は悲惨だが、父さんの患者にはもっと悲惨な人生を歩んで心を壊した人を、僕は何人もいるのを知っている。実際に会って会話したこともある。そのおかげでそれほどショックは受けなかった。

聞いてるだけでこっちが死にたくなるようなあの人たちの壮絶な過去に比べると、幾分マシにすら思える。

 

「取り合えず、教会の跡地の場所は分かりました。行ってみましょう。もしかしたら、杏子さんがいるかもしれません」

 

「……何でお前は、そこまで平然としてられんだよ」

 

僕の淡白な物言いが(かん)に触ったのか、ショウさんが僕に突っ掛かってくる。本当に『(きょうこさん)』のことになると冷静でいられなくなるんだな。

それだけ、大切に思ってるってことは、伝わってくるがこう何度も興奮状態になられると(いささ)か面倒くさい。

 

まあ、僕が淡々としてるのも、また事実だ。

ぶっちゃけてしまうと僕は『魅月杏子』という人物をほとんど知らない。知ってることを挙げるとするなら、髪が紅いことと、社交性が暁美以上あることくらいのものだ。

これで感情移入しろと言われても、無理だ。面と向かって会話もしたことのない相手に同情できるほど、僕は博愛主義者じゃない。

 

 

とにかく、ショウさんを落ち着かせて、教会に行ってみなければ、話にならない。

 

「ショウさん。ここでそんな言い合いなんかしても何の解決にもなりません。本当に杏子さんを大切に思っているなら、今一番しなければならないことを忘れないでください」

 

「……お前って、わりと上から目線だよな。つーか、俺も変にムキになって悪かった。そうだな、教会に行こう。もし、杏子が居なくても杏子の気持ちに少しでも近づけるかもしれねぇ」

 

少し僕に対して思うところがあるみたいだったが、そこは大人の精神で納得してもらえた。これが美樹とかだったら、もっと面倒なことになっていただろう。

 

 

 

 

僕たちは携帯から見たマップに(のっと)って歩くと、少し街路から遠ざかると、大きな並木道を見つけた。

並木道は結構長く、雨が強くなっているせいで酷くうっとおしく感じられた。

そして、ショウさんも、僕も口数は少なく、会話と言えるほどの会話もないことも一つの要因だろう。ショウさんの方は完全に相槌(あいづち)を打つだけで、心ここに在らずといった風情(ふぜい)だった。

 

ようやく、並木道が終わると、教会が現れた。

教会の外装は、確かにやや朽ちてはいたが、屋根もちゃんと付いていて、思ったより原型を留めていた。

俄然(がぜん)、杏子さんがここに居る可能性も高くなってきた。

 

「この教会、それほど酷くはないですね……ってショウさん!?」

 

僕はショウさんに話を振ろうとしたが、ショウさんはそのまま無言で教会の中へと飛び込んで行った。

……本当に困った人だ。でも、好感は持てる。

血の繋がった家族を平然と殺す人間がいるこのご時世で、血も繋がらない家族のためにここまで必死になれる人間が一体どれくらいいるのだろう。

 

僕も続いて教会の中に入っていく。

 

「杏子!」

 

先に入ったショウさんは叫ぶように、杏子さんの名を呼んだ。

 

「ショ、ショウ!?何でここに!?」

 

探していた杏子さんは、やはりここに居た。

彼女は驚きを隠せずに戸惑った様子で顔だけでこちらを見ている。

杏子さんは紅い服に槍を構えて立っていた。だが、その槍を向けているのは僕らではない。

 

「……奇遇だね、美樹さん」

 

「……政夫」

 

やたら露出度の高い青い服装にマントを(まと)い、剣を握った美樹が杏子さんに向かい合うように立っていた。

 

 




本当はもっとストーリー変えようと思ったんですけど、後々のことを考えるとにじふぁんで書いてたのと変えすぎるのもよくないと思ったので、あんまり内容変わってないです。

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