魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

59 / 201
第四十九話 穏やかな学園生活

「ふわあぁ~、眠い……」

 

大きなあくびと共に僕は眠い目を(こす)り、起床する。

一昨日から昨日にかけて色々あり過ぎて疲れていたせいで、眠りが浅く、目覚まし時計が鳴る前に目を覚ましてしまった。

だが、それを理由に学校を休むのは気が引ける。

二度寝する気にもならなかったので、僕はパジャマから制服に着替えて自分の部屋を出た。

洗面所で顔を洗った後、リビングに向かう。

 

「おはよう、政夫。疲れているようだけど大丈夫かい?」

 

リビングにはすでに父さんが居て、朝食の用意をしてくれていた。

 

「おはよう。父さん」

 

父さんは僕より遅く起きてきたことが一度もない。ちゃんと睡眠を取っているのか不安になってくるほど、早起きだ。それでいて、常にしゃっきとしていて、疲れた様子など微塵(みじん)も感じさせない。

 

父さんの作ってくれたベーコンエッグとほうれん草のソテーをトーストに乗せて、端の方から(かじ)り付く。ベーコンの塩気と半熟気味の焼き加減の卵の黄身のまろやかさが合わさり、さらにその味をトーストが見事に引き立てている。うん、美味しい。

 

グラスに注いだオレンジジュースを飲みながら、今日の朝刊に目を通す。

大々的に書いてあるのは、政治家の汚職問題くらいで、自殺があったとかそういう記事は極端に小さく書かれている。

一昨日の工場の件も新聞に載ったが、本当に申し訳程度の小さな記事だった。あの程度のことは見滝原市では大した事件ではなかったらしい。

 

魔女だの、魔法少女だの、のせいで見落としそうになるが、僕にはこの街自体がどこか狂っているように思えてならない。

自殺事件が僕が前に住んでいた街と比べても極端に多いのにも関わらず、メディアがそれほど着目していないのだ。まるで『そんなことはこの街では珍しくありませんよ』とでも言いたげのように見える。

 

そんなことを考えながら朝食を食べていると、玄関のチャイムが鳴った。

父さんが玄関に向かっているのを横目で見つつ、噛み砕いたトーストを嚥下(えんげ)する。

誰だ、こんな朝っぱらから、人の家に訪ねてくるのは。新聞の押し売りとかじゃないだろうな。

 

「政夫、お友達が迎えに来てくれたみたいだよ」

 

「友達?」

 

誰が来たのか一瞬だけ疑問に思ったが、よく考えれば僕の家を知っている知人はまだ一人しかいない。

オレンジジュースを飲み干して、ティッシュで口を(ぬぐ)った。父さんに促され、玄関に行くとそこには予想通り暁美が立っていた。

 

「おはよう、暁美さん。君がちゃんと玄関から入ってくるところ初めて見たよ」

 

僕は若干の皮肉を込めた挨拶を送る。

これを(さかい)に僕の部屋の窓を入り口代わりにしなくなってくれるとありがたい。

 

「私だって、その程度の常識くらい持ち合わせているわ」

 

ファッサっと髪をかき上げて、暁美はいかにも心外そうな顔を僕に向けるが、まるで説得力がない。

というか前から思っていたが、そもそもどうやって僕の住所を特定したのだろう?

 

「で、今日はどういったご用件で?」

 

「見た通りよ。一緒に登校しようと思って貴方を迎えに来たの」

 

迎えに来た?一緒に登校?一体どういう風の吹き回しだ?

いまいち暁美の意図が分からなかったが、わざわざ来てくれたのを無碍(むげ)に断るのは悪いと思ったので、僕は承諾した。

 

「分かった。取り合えず、歯を磨いてくるから、五分ほど待ってて」

 

「ええ、ここで待たせてもらうわ」

 

 

 

 

 

 

「それで何で急に一緒に登校しようだなんて考えたの?」

 

歯を磨き終わった後、学生鞄を片手に僕は暁美と共に待ち合わせの場所へ向けて歩いている。

まだ朝早いせいで、僕ら以外に見滝原中の生徒は見かけない。

いつもよりかなり早い時間だから、ひょっとすると鹿目さんたちはまだ待ち合わせの場所に着いているか分からない。まあ、いつも僕が一番遅く到着するから、今回は待つ側になってもいいけど。

 

「理由は……その、あれよ。上条恭介の事よ」

 

「上条君のこと?……ああ」

 

妙に歯切れの暁美に聞き帰してしまったが、すぐに何を言いたいのか気付いた。

そうか。こいつもこいつで上条君を振ったことを気に病んでいるのか。

ずいぶんと優しくなった、いや、素直になったという方が適切だろう。一週間ほど前の暁美とはもう別人だ。

 

「大丈夫だよ。彼も完全に君のことを割り切れてはいなかったけど、そこまでナイーブにはなっていなかったよ」

 

「そう。良かったわ。……それで政夫はその事についてどう思ったの?」

 

どう思った?意味がよく分からない質問だ。

僕が、『暁美が上条君を振ったこと』に対してのどのような感想を持ったのかを述べろ、ということでいいのだろうか?

 

「上条君を振るなんて暁美さんはもったいないことしたな~、と思ったよ」

 

僕が素直に感想を述べると、暁美はなぜかガッカリしたような顔で肩を落とした。理解ができない。今のどこら辺に落ち込む要素があったのか教えてほしいところだ。

 

「……つまり、貴方は私と上条恭介が付き合ったとしても何も思わない、という訳ね」

 

平静を装うとしているが、明らかに暁美の声のトーンはいつもより低かった。多分、本人は常時ポーカーフェイスを保っているつもりなのだろうが、少しでも観察眼に長けた人間なら一目で分かるほどしょんぼりした表情をしている。

 

落ち込んでいる理由はさっぱり分からないが、暁美の発言には誤りがあったので訂正させてもらう。

 

「おかしなこと言わないでよ、暁美さん。暁美さんと上条君が付き合って、僕が何も思わないわけないだろう?」

 

「え?……それは本当!?」

 

一瞬で暁美の瞳に輝きが(とも)る。

ちょっと心配になるレベルのテンションの上下具合だ。美樹ほどではないが、躁鬱(そううつ)病の()があるんじゃないだろうか。

僅かに引いてしまったが、僕は真面目に答える。

 

「うん。もちろん、ちゃんと友達として祝福するに決まってるじゃないか!」

 

自分で言うのもなんだが、僕はそれなりに友達思いの人間だ。

ある程度親しい友達同士が付き合ったのなら、笑みをもってお祝いするだろう。身銭を削って、ささやかながらパーティを開くのもやさぶかじゃない。

 

「はぁー……」

 

だが、僕の答えを聞いた暁美は額に手をやり、深いため息を()いた。

おおよそ、ため息を吐きそうにない暁美が、だ。

 

なぜだ……。その反応は理不尽すぎやしないだろうか。

別に褒めてもらおうなんて思ってなかったが、ため息を吐かれるのは流石に傷つくぞ。

 

 

 

 

 

暁美と謎に満ちたやり取りをしながら歩いていると、いつの間にか待ち合わせの場所に到着していた。

一番乗りかと思ったが、そこにはすでに先客が待っていた。

 

「あら、政夫さんとほむらさん。おはようございます。ご機嫌いかかがですか?」

 

「おはよう、志筑さん。身体は大丈夫だったの?それと、機嫌は良いかと言われると、そんなに良くないと答えざるを得ないよ」

 

 

一体何時に起きているのか聞きたくなるほど早いな、志筑さん。

昨日は学校を大事を取って休んでいたくらいなので、もう少し身体を(いた)わった方がいいと思う。

 

「大丈夫です。昨日だって両親が心配するから休んだだけであって、身体には問題ありませんでしたから。むしろ、ほむらさんの方が体調が優れないようですけど」

 

心配そうな表情で志筑さんは暁美を見る。

先ほどの僕との会話から、暁美はどこか落ち込んだ雰囲気を(まと)ったまま、志筑さんに挨拶もせずに僕らより少し離れて、突っ立っていた。

 

「あー、そうだね。何かさっきから調子悪いみたいで。……暁美さーん、志筑さんに挨拶ぐらいしたらどう?」

 

「……それぐらい貴方に言われなくてもするわ。おはよう、志筑さん」

 

今度は不機嫌そうになる暁美。一体どうしたというのだろう。

『女心は秋の空』というが、仮にも空を(かん)するのなら広さの方もそれ相応にしてほしいものだ。

 

「ふふっ。お二人は仲が良いのですね。羨ましいですわ」

 

上品に口元を隠して志筑さんは笑うが、僕としては特に仲の良いコミュニケーションを取ったとは思えない。もしかすると、羨ましいという発言は、最近鹿目さんたちと妙な距離感ができてしまったことに対しての無意識の発露かもしれない。

 

そうこうしている内に、ちらほらと登校する生徒の影も見えてくる。

しばらく、志筑さんと会話をしていると鹿目さんと美樹が来た。今日は何事もなく平穏であるといいな。

 

 

 

 

 

午前の授業を終わり、昼食の時間になった。

今日も今日で早乙女先生の英語の授業は、どうでもいい彼氏との別れ話が大半を占めていた。この調子でやってて中間テストの範囲まで終わらせられるのか心配だ。

 

「政夫、屋上行こう。マミさんが待ってるよ」

 

美樹がお弁当を片手に持って、僕の席へやって来る。後ろには鹿目さんと暁美も一緒だ。ドラクエを彷彿(ほうふつ)とさせる行儀の良い一列に軽く苦笑した。

 

「そうだね。でも、もう二人だけメンバーを増えてもいい?」

 

「え、中沢とか星とか男子を連れてくるの?それはちょっとやだな」

 

僕も男子なんだけど、と突っ込みを入れたくなったが面倒なのでそのまま話を続ける。

 

「志筑さんと杏子さんの二人だよ」

 

「……ああー!」

 

むしろ、後者の杏子さんはともかく、志筑さんはいつもハブっていたことに気付いたようで、やってしまったと言わんばかりの顔になる。

今まで上条君のことで頭がいっぱいになっていたようだから、完璧に失念していたのだろう。鹿目さんも同じような様子だった。

 

「わ、私、仁美ちゃん誘ってくる」

 

鹿目さんが列から離脱して、志筑さんの席の方まで行く。

良かった。最近、魔法少女関連のせいで志筑さんが孤立することを危惧していたが、これで少しは持ちなすはずだ。

 

「じゃあ、杏子の方は私が誘うね」

 

「うん。頼んだよ」

 

美樹も杏子さんを誘いに離れていく。

杏子さんも、せっかく巴さんと仲直りができたのだから、食事を共に取った方が良いだろう。

 

「ちょっと政夫、これはどういう事?何時(いつ)の間にさやかと魅月杏子は仲良くなったの?いえ、そんな事よりも彼女を巴マミと会わせるのは危険だわ」

 

「それについては屋上に来れば分かるよ」

 

 

 

 

 

何時になく大勢で集まった屋上。

鹿目さん、志筑さん、美樹、巴さん、杏子さん、暁美。そして、僕。

男女比6:1。(まご)うことなく、ハーレム状態だ。実際、教室を出る際にスターリン君に物凄い形相で「ブルジョワジーが!ふざけんな!美少女独り占めしやがって!!フラグを共産化しろ、バッキャロォォォ!!」と叫ばれた。

 

「おっす、マミ」

 

「こんにちわ、杏子さん」

 

元々友人だったらしい二人は、仲良くベンチに腰掛けて、談笑し始めた。

それを見た暁美は唖然として固まっている。

 

「ど、どういう事?一昨日はかなり険悪な雰囲気だったのに」

 

無理もない。お互いに確執があったのを知っている暁美なら、(なお)のこと、この状況は簡単には受け入れがたいことのはずだしな。

 

「和解したんだよ、巴さんと杏子さんは。いいよね、こういうの。まさに『仲良きことは美しきかな』ってやつだよ」

 

「政夫、一体貴方どんな魔法を使ったの?」

 

魔法、ね。まさか本物の魔法少女にそんな台詞を()かれるとは思いもしなかった。

今目に映る景色は暁美にとっては魔法と呼ぶほど受け入れがたいものなのか。

ただほんの少しだけ歩み寄ってみれば、そう難しくなく起きる必然なのに……。

 

「僕は特別なことは何もしてないよ。ただきっかけを作っただけ」

 

巴さんが渡してくれた重箱の一段に入っているアスパラのベーコン巻きを頬張る。

うん。美味しい。このアスパラ新鮮でベーコンと相性バッチリだ。

毎回、巴さんが重箱でお弁当を作ってきてくれるので、自分でお弁当を作らずに済んでいる。最初こそ、遠慮したが巴さんの押しに負けて、昼食をご馳走になっている。いつかお礼しないといけないな。

 

「そう、取り合えず貴方のお陰という事は分かったわ」

 

「いや、全然分かっていないよね」

 

暁美は、まるで僕が何かしたから二人が和解したと思っているようだが、それは買い被りすぎだ。彼女たちがお互いに歩み寄ろうとして成功したから、和解できたのだ。僕は本当に何もしちゃいない。

 

「それよりも政夫、一番聞いておきたい事が残っているわ」

 

「何?」

 

暁美は真剣な顔付きで、僕の顔を睨むように見つめる。

何だ?そんなに重要なことなんてあったか?思考を巡らせてみるが、思い当たらない。

 

「何故貴方は魅月杏子の事を名前(・・)で呼んでいるのかしら?」

 

「はあ?」

 

暁美の質問に対して、自分でも驚くほど間抜けな声が出た。

 

 




今回は、物語の繋ぎ部分なのでそれほど進展しませんでした。
ほのぼの感を少しでも味わって頂けたのなら、嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。