魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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第五十話 本当の気持ちと向き合いました!

「だから、『魅月さん』だとショウさんも該当(がいとう)しちゃうし、昨日からずっとそう呼んでるからであって、別に他意はないよ」

 

「……本当にそれだけかしら?」

 

 急におかしなことを言い始めた暁美に僕は辟易(へきえき)しつつも、律儀に答える。だが、暁美は釈然としない表情のままだ。

 大体、僕が誰を名前で呼ぼうがどうでもいいだろうに。さっぱり理解できない。女心は複雑怪奇だ。

 

「魅月杏子は可愛らしい容姿をしているから、大抵の男なら誰でも好意を抱いてもおかしくないわ。大方、貴方だってそうなんじゃないの?」

 

 妙にとげとげしく発言する暁美。

 杏子さんに対して何か思うところがあったのだろうか。仮にあったとしても、いつも合理的な暁美が気に入らないからという理由でこんなことを言うとは考え(がた)い。

 

 ……ふむ。ひょっとすると暁美は、『可愛い』という表現にコンプレックスでも持っているのかもしれない。確かに暁美は可愛いというよりも綺麗と言った方が適切な顔立ちをしている。

 思い返せば、前に僕が暁美に可愛いと言った時も過剰な反応を示していた気がする。

 なるほど。繋がった!つまり、暁美は『可愛い女の子』と思われたいわけだな。女子中学生なんだから綺麗とか美しいよりも、可愛いと呼ばれたいのも頷ける。

 

 すべてを理解した僕は暁美に最上級の笑顔を持って、彼女の欲しているだろう言葉を送った。

 

「大丈夫。君だって十分可愛いよ」

 

「なっ……!何言い出すの貴方は!馬鹿なんじゃないの!?」

 

 暁美は急激に頬を紅く染め上げ、上擦った声で僕を罵倒する。こういう風に照れたところは、素直に可愛いと思う。まあ、『微笑ましい』という意味合いでの『可愛い』だが。

  

「何々?さっきから二人だけで話して。私らも混ぜてよ」

 

 美樹が軽いノリで話に加わってくる。

 私ら、というのだから、鹿目さんと志筑さんのことも入れてだろう。

 巴さんと杏子さんは(つも)る話があったのか、二人だけで盛り上がっていた。今までずっと仲違いしていた旧知の友達同士なら無理もない。彼女たちはそのままにしてあげるのが優しさだろう。

 

「いや、別に大したことは話してないよ。それよりごめんね、志筑さん。いきなり知らない人たちと、昼食食べるはめにしちゃって」

 

 僕は志筑さんに会話を振って、彼女の様子を観察する。

 多少強引だったが、放って置くと鹿目さんたちとの接点が薄くなってしまう。『魔女の口付け』が付いていたくらいだから、原因が友情かどうかは分からないがある程度ストレスが溜まっていたことは確かだ。

 

「大丈夫ですよ、政夫さん。私、こう見えても人見知りするタイプではないですから」

 

「そう?なら良かったよ」

 

 顔色は悪くないし、目も不自然に()らしたりしていない。気を使って嘘を吐いているわけではなさそうだ。少し安心した。

 

「政夫ってわりと女の子には優しいよね。あ、それとも仁美狙ってるとか?」

 

 悪戯っ子のような笑みを浮かべて美樹が僕に聞いてくる。女の子は本当に色恋沙汰(ざた)が好きだな。

 というか、お前つい昨日振られたばっかだろうが。よくそういう発言ができるな。下手をすれば自分の傷口抉るような話題だろう。

 

「えー!?政夫くんて、仁美ちゃんの事好きだったの?」

 

 鹿目さんは箸を持つ方の逆の手で口元を押さえて、ビックリしたような真似までしていた。

 温和で優しいけど、年相応におちゃめというか、少しSっ気があるんだよな鹿目さん。そんなところも含めて可愛らしいけど。

 

「鹿目さんまで乗ってくるとは……。あのね、志筑さんにはちょっと失礼だけど、僕の好きな女の子はもっと地味なタイプの女の子だよ。野に咲く一輪の花のような感じの」

 

「じゃあ、具体的にはどんな女の子がタイプなんですの?」

 

 三人ともぐいぐい来るなぁ。僕を(いじ)ることで三人の溝が埋まるなら、それで良いけどね。

 

「具体的には――――」

 

「三つ編みで眼鏡の女の子、だったわよね」

 

 志筑さんの質問に答えたのは僕ではなく、なぜか暁美だった。

 そういえば、病院で上条君と好きな女の子のタイプについて話してた後に、暁美には教えていたっけ。どうでもいいこと過ぎて忘れていた。

 

「何でほむらが知ってるの?」

 

「……ちょっと小耳に挟んだだけよ。それだけよ。ええ、本当にそれだけ」

 

 暁美はちょっと早口で何かを誤魔化すように喋る。まっすぐ人の目を見て話す暁美が珍しく目を泳がせていた。

 

「その様子……怪しいですわね」

 

「な、何がかしら、志筑さん」

 

 テンションの高い志筑さんが意地の悪い笑みを浮かべて、ずいっと暁美ににじり寄る。その様子が不気味だったせいもあり、ちょっと暁美は身を引いていた。

 

「ひょっとしてほむらさん…………」

 

 志筑さんが何かを言う前に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 やばい。今日はいつもより大人数のせいか、喋ってばかりで全然箸が進んでいなかった。急いで重箱の中身をかき込み、むせつつも片付けをする。

 僕ら二年生はともかく、三年の巴さんは今の時期に遅刻は洒落にならない。前期試験で行くのかは知らないが、教師からの評価が下がって良いことなどないのだから。

 

「はぐ、むぐ……ご馳走様でした。さあ、早くしないとまずいですよ。重箱は僕が洗っときましょうか?」

 

「平気よ、夕田君。それよりも教室に戻らないと。三年の教室は向こうだから、悪いけどもう行くわね。今日は楽しかったわ。杏子さんたちは……そうね、放課後でまた」

 

「おう。じゃあーな、マミ」

 

 重箱を回収すると巴さんは、駆け足で階段の方へ向かった。巴さんも巴さんで結構変わった気がする。前に比べて僕らに無理に取り繕っている感がなくなった。

 それに今の会話から察するに今日は杏子さんも含めて『魔女退治』をするのか。杏子さんとは完全に打ち解けたとみていいだろう。

 『魔女退治』か……。懸念事項があるとしたら、美樹や杏子さんもそうだが、巴さんが今まで正義のためにやってきた『魔女退治』が元同族狩りだと知って、それを平然と行えるのか心配なところだな。

  

 

 

 

 

 

~さやか視点~

 

「さやかさん、少しお時間をよろしいですか?」

 

 放課後、まどかと政夫と別れた後、ほむらや杏子と一緒にマミさんと合流して、魔女退治に向かおうとしていると思って教室を出ようとした時、ふいに仁美が私にそう言ってきた。

 

「え?うーん。でも……」

 

 親友だし、恭介の事で頭がいっぱいだった時はあんまり話せなかったから、仁美に付き合ってあげたいのはやまやまだが、今日は私に取って本格的に魔女退治に参加するからなるべくサボりたくはない。 どうすればいいか分からず、ちらっと横目でほむらたちを見る。

 

「行って来たら?巴マミには私から言っておくわ」

 

「そうだな。友達優先してやれよ。こっちは三人も魔法少女がいるんだから、さやか一人が来なくても平気だしな」

 

 二人とも素っ気なく私にそう言って、先に行ってしまう。

 昨日までの私なら、ほむらたちの態度に腹を立ててたと思うが、今は違う。ほむらの優しさや、杏子の過去を知った私には、二人が気を使って言ってくれた事が分かる。

 

「ごめーん。あと、ありがとう」

 

 二人の後ろ姿にそう言って、私は仁美に向き直る。

 

「いいよ、話。それじゃどこで話す?」

 

 

 

 仁美と一緒に来たのは、いつもまどかと仁美と私の三人でお喋りする行き付けのファーストフード店だった。適当に飲み物を買った後、席に仁美と向かい合って座った。

 ここに来るまで今まで見た事ないほど仁美は真剣な顔をしていて、話を振る雰囲気ではなかったのでどうしようか困惑していたが思い切って聞いてみた。

 

「それで…話って何?」

 

「恋の相談ですわ」

 

 一瞬、仁美の冗談かと思ったが、仁美はこんな真面目な顔して冗談を言うような人間ではない。それは親友の私が一番良く知ってる事だ。

 

「私ね、前からさやかさんやまどかさんに秘密にしてきたことがあるんです。ずっと前から……私……上条恭介君のこと、お慕いしてましたの」

 初耳だった。仁美が恭介の事を好きだったんだなんて、まったく知らなかった。そもそも、二人が話しているところも私は見た事なかったし。

 これが私が恭介に告白する前だったら、多分こんなに落ち着いた気持ちではいられなかったんだろうな。

 

「へぇー、そうだったんだ。全然気付かなかったわ。まさか仁美がねえ」

 

 思ったままの事をそのまま口に出すと、仁美は一気に複雑そうな顔になった。

 

「え、あの、さやかさんは上条君とは幼馴染でしたわね」

 

「うん。そうけど」

 

 Mサイズのコーラをストローで飲みながら、仁美に返事をする。私は恭介に振られたが、それで幼馴染という関係性は消えてなくならない。

 どうでもいい事だが、このコーラ氷の量がちょっと多すぎる気がする。ストローが氷に邪魔されて飲みずらい。

 

「本当にそれだけ?……私、決めたんですの。もう自分に嘘はつかないって。あなたはどうですか?さやかさん。あなた自身の本当の気持ちと向き合えますか?」

 

「え、どうしたの?仁美。何の話をしてるの?」

 

 時々、仁美はふざけてわけの分からない事を言うが、今回は輪をかけて分からない。もっとはっきりストレートに言ってほしい。

 

「あなたは私の大切なお友達ですわ。だから、抜け駆けも横取りするようなこともしたくないんですの。上条君のことを見つめていた時間は、私よりさやかさんの方が上ですわ。だから、あなたには私の先を越す権利があるべきです」

 

 ああ。そういう事か。私にとってはもう既に終わった事でも、仁美はまだそれを知らないんだ。

 決着がついた事を知ってるのは……政夫とほむらだけ。まどかにさえもまだ言ってなかった。

 

「仁美……」

 

 私が仁美に台詞を言う前に、仁美は宣言するように言い放った。

 

「私、明日の放課後に上条君に告白します。丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは後悔なさらないよう決めてください。上条君に気持ちを伝えるべきか――――」

 

「ごめん。私恭介にもう告白した」

 

 私がそう言った瞬間、空気が微妙になった。でも、これは私が悪いんじゃなくて、仁美が私の台詞を(さえぎ)ったせいで、私のせいじゃない……はず。うん、多分。

 

「……どういう事ですの?」

 

「昨日、色々あって恭介に告白したの」

 

「そ、それで結果は?」

 

「振られちゃった」

 

 苦笑いと一緒に自分でもあっさりするほど簡単にその言葉が出た。心も落ち着いていて、まるで大した事じゃないみたいだ。本当にすっきりとしている。

 今日だって、恭介の事はほとんど考えなかった。もう私の中では割り切りができているみたいだ。我ながら薄情な気もするけど、いつまでもずるずると引きずってて良いものでもない。

 

「何で、何でそんなに平然としてられるんですの?さやかさんは、ずっと上条君をお慕いしていたんじゃありませんか!」

 

 仁美はまるで自分の事のように怒ってくれてる。今回の事だって、私と親友だからこそ、こうやって面と向かって正々堂々と言ってくれた。

 心に余裕ができたから、こんな風に見れるんだろうな。ちょっと前の臆病な私だったら、仁美の事を恨んでいたかもしれない。

  

「う~ん。何でって言われてもね……。あえて言うなら、背中を押してくれた奴にこれ以上みっともない姿は見せたくなかったから、かな?」

 

 政夫の前で散々泣いたからか、恭介に振られた後も涙も出なかった。あれだけ言葉をかけてもらったら、情けないところなんか見せられない。

 

「その背中を押してくれた奴って、まどかさんじゃないですわよね?」

 

「うん。まどかじゃないよ」

 

 まどかだったら、あんなきつくて厳しい言葉絶対に言わない。まどかなら、優しい言葉で私を(はげ)まそうとして、私もそれに甘えて、結局何もせずに諦めてしまったかもしれない。

 

「とにかく、恭介に告白するのは仁美の自由だよ。まあ、好きな人がいるから無理って答えるだろうけど」

 

「え!?上条君にそんな相手が」

 

「大丈夫。振られるのもそんなに悪くないよ。もしそうなったら、まどかと私で慰めてあげるから」

 

 

 

 




何かさやかばかりをプッシュしている気がします。次はまどかをメインに据えた話にしたいです。じゃないとタイトル詐欺になってしまいますから。


……にしても、本当にデレる気ゼロだなこの主人公。
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