ロッキー。
この単語を聞いて大抵の人間は、何を思い浮かべるだろうか。
僕なら、「エイドリアーン!」と叫ぶボクサーか、ドラクエⅤのばくだんいわだ。
「はい、政夫くん。……どうしたの?政夫くんが買ってくれたお菓子なんだから一緒に食べようよ。おいしいよ、『ロッキー』」
僕の隣に並んで歩いている鹿目さんが箱から一本取り出して、ぱくりとそれを
鹿目さんが僕の方に差し出した赤い長方形の箱型のパッケージには『Rocky』と大きく表記されている。一瞬、僕の見間違いかと思ったがそうではなかった。
ロッキー……?ポッキーじゃなくて、ロッキー?
商品登録とか、大丈夫なのか、これ。訴訟大国日本で、まさかこんなことをする企業があるとは到底思えない……。き、きっとどこか明確な違いがあるはずだ。そうでなければ許されない。
「……じゃあ、一本もらうね」
紙でできた長方形の赤い箱の内側に収まった白地に赤で『Rocky』といくつも描かれた袋から、僕はすっと棒状のお菓子を引き抜く。そして、それを様々な角度から眺め回す。
真横から、斜めから、上から、真正面から、じっくりと目で
観察の結果から述べよう。
ポッキーだ、これぇぇぇェェェーーー!?
手を汚さないで食べれるように考案された、棒状のプレッツエルの三分の二だけをチョコレートでコーティングして、三分の一を持つ部分のあるチョコステック。
「てくてく歩きながら食べるチョコスナック」ということで大好評し、今ではどこのコンビニでも見られるポピュラーなお菓子、Pocky。
もはや、言い逃れはできない仕上がりだ。むしろ、ここまでポッキーそのものだと、ある種の潔ささえ感じられる。
まさか、見滝原でこんなパチモンが存在していたとは。
そこまで考えて、ふと僕はある疑問を抱いた。
なぜ鹿目さんはこのパチモン製品を平然と受け入れているのだろう、という疑問だ。
この疑問を納得させる答えは、僕の仮説の中でたった一つだけある。だが、この答えが正解だった場合、僕の中の常識が音をたてて崩れ去ることになるだろう。魔女や魔法少女など
しかし、僕は聞かなくてはならない!例え、自らの常識を危険にさらすことになろうとも、はっきりさせなければいけないことがあるからだ!
「鹿目さん……ポッキーって知ってるよね?」
質問というより、そうであってほしいという願いを込めた確認だった。
だが、そんな僕の懇願など知らない鹿目さんは首を僅かに傾げて一言言った。
「え?知らないよ?」
その瞬間、僕の中の常識が完膚なきまでに破壊されてしまった。
見滝原……流石は魔境と呼ばれる
前の中学の友達、
ここは、見滝原市は魔境だったのだ!!
人知を超越した場所に僕は今居るということが頭ではなく、心で理解できた。
むっさん、僕はようやく
僕は新たなる常識の
ガツッと鈍い音が口の奥でくぐもって響いた。歯に激痛が走り、脳にロッキーに対する形容詞が膨れ上がる。
耐え切れず、声になる。
「かっ……てえぇぇぇェェェ~~~!!?」
意味が分からない。ただ分かったことは、このロッキーというお菓子が信じられないくらいの硬度を誇っているということと、歯が欠けたかもしれないほどの痛みが口の中で
「ま、政夫くん、大丈夫?」
「つぅ…………何これ?」
落としかけたロッキーに目を落とすと、さらに信じられない情景が僕の目に飛び込んできた。
僕が
唖然とする僕に、心配して僕を覗き込むように見る鹿目さんは理解不能なことを言い出す。
「駄目だよ。ロッキーはちゃんとこうやって口に咥えて溶かさないと、歯が折れちゃうよ?」
歯が折れる?お菓子で?何それ怖い。
「ちょっと箱見せて」
ロッキーのパッケージには、注意書きとして『特殊な飴でコーティングされておりますので、咥えてよく柔らかくしてからお召し上がりください』とちゃんと明記していた。
「……ふ……ふふ、ふふふふ――――――」
なぜか暗い薄笑いが込み上げてくる。
そうか……。
Rock=岩。
つまり、Rockyという名前には『岩のように硬いお菓子』という意味が込められていたのか。
完敗だ。僕の負けだ。
ポッキーのパチモンなんて言って悪かったよ。本当に恐れ入る。これはロッキーだ。まったく別のお菓子だ。
そういえば、Rockはスラングで『すごい』という意味も持っていたな。
「ふふ、鹿目さん。Rockだよ。このお菓子……」
「何言ってるの政夫くん!?大丈夫!?」
アニメで杏子がずっと加えてても一向に折れる気配がなかったお菓子の「Rocky」をネタにして書いてみました。映像を見る限りあのロッキー冗談抜きで硬いですよね~。
というか、この小説の最初のコンセプトこんな感じで政夫が見滝原市のものに突っ込みを入れる物語でした。
政夫は性格とか特になくて、常識をボロボロにされていくだけの狂言回しだったですが、どうして今の彼になってしまったんでしょう?
キャラが勝手に動き始めて、今の物語に変わっていってしまいました。