魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

69 / 201
第五十七話 最期の言葉

 状況は最悪と言っても過言ではない。

 部屋の床にぶちまけられた大量の支那モンの残骸を見るに、巴さんの精神状況は『かなりキている』。早急に見つけ出さないといけない。あるいは、もう取り返しの付かないところまで行っているかもしれない。

 

 ……他の魔法少女たちに連絡をすべきだろうか。そうすれば少なくても一人で探すよりも効率が良いはずだ。

 そう思い、ジャンパーのポケットから携帯を取り出した。暁美に電話をかけようとして、手が止まる。

 

 いや、この状況下で暁美を呼び出せば今ちょうどデート中の鹿目さんまで付いて来てしまう恐れがある。その場合、この支那モンが巴さんを見つけ出すことと引き換えに鹿目さんに契約を迫ってくるだろう。

 

 しかし、友達思いで意外に行動力のある鹿目さんがこのことに首を突っ込んでくるはずだ。暁美に巴さんのことを誤魔化して戻って来れるほどの話術も期待できない。

 逆に考えよう。暁美が一緒にいるから、鹿目さんはこの件に関わってこない。巴さんを(えさ)に鹿目さんが勧誘されない。そう考えれば、むしろこれは行幸。

 となると、美樹と杏子さんに手伝ってもらうか。だが、彼女たちは今風見野に居る。わざわざ呼び出しても時間がかかるだけ…………ん?

 

「支那モン君、一つ聞いてもいいかな?」

 

 はぐはぐと床に散らばった同胞の残骸を食す地球外生命体は、一時その動作を止めて僕の方に向き直る。

 

『ボクの名前はキュゥべえだよ。一体何が聞きたいんだい? 政夫』

 

「巴さんが今どこに居るか分かる?」

 

『分かるよ。魔法少女の反応なら、すぐに特定できるからね』

 

 思ったとおりだ。こいつは何匹も居る。それこそ、これだけ殺されても何の問題もないくらいに。けれど、いつも魔法少女に密着しているわけではない。

 にも(かかわ)らず、穢れを溜め込んだグリーフシードを回収する時にはいつも魔法少女の前に現れる。

 魔法少女を探知できる能力があるのは明白だ。

 

「なら、その場所を教えてくれない?」

 

『ボクがそれを教えて何のメリットがあるんだい? このままにして置けばマミが魔女になってくれるかもしれないのに』

 

 支那モンは当然のごとく、僕の頼みを突っぱねる。理解はしていたが、巴さんが魔女になることを心待ちにしているような物言いを聞くと、こいつを友達だと思っていた巴さんに同情するしかない。

 まあ、ここら辺は予想の範疇(はんちゅう)だ。逆に素直に教えてくれる方が、裏がありそうで怖い。

 

「そうだね。じゃあ取り引きと行こう。僕がなぜ魔法少女の秘密を知っていたか気にならない? 君が教えなかった情報をどこで手に入れたのか知りたくはない?」

 

 知りたいはずだ。必ず支那モンは食いついてくる。何せ、向こうは巴さんの居場所を教えるだけでいいのだ。交換条件としては破格と言っても過言じゃない。

 さあ、どう出る!

 

『それはつまりボクがマミの居場所を教えたら、君が魔法少女の秘密を知っている理由を教えるという事と考えて良いのかい?』

 

 支那モンはまるで、僕に言質を取るような言い方をしてくる。まさか、僕が「気にならないか」と言っただけで別に「教える」とは一言も言っていなかったなんて、子供じみた言い訳をするとでも思っているのだろうか。

 まったくもって心外だ。僕はいつだってフェアな男なのに。騙すことばかり考えているから、そんな思考しかできないのだ。

 

「最初からそう言っているだろう。でも巴さんが現在進行形で移動中かもしれないから、ナビゲート付きで頼むよ」

 

『……分かった。交渉成立だ。マミの居場所まで案内しよう』

 

 ほんの僅かな無言の間の後、支那モンは僕との取り引きを受諾(じゅだく)してくれた。もう少しごねられるかと思っていたが、あっさりと話がまとまった。

 多分、もう僕が巴さんの元に行ってもどうにもならないと踏んだのだろう。最悪すでに魔女になっている可能性も十分ある。

 

「ありがとう、キュゥべえ君。じゃあ、早速頼むよ」

 

 今の状況は大体こいつのせいだけど、今はそんなことを気にしている暇はない。利用できるなら、利用してやる。

 だが、僕はそんなことは顔に出さず、余裕の笑みを浮かべる。

 僕は受けた恩は必ず返す人間だ。かつて命を助けてくれた巴さんに報いるためにもここで引くわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

『ここだよ』

 

 図々しく、僕の肩に乗った支那モンがそう(つぶや)いた。

 支那モンのナビゲートで僕がやってきた場所は、ショッピングモール。より正確に言うなら、関係者以外立ち入り禁止されていた未改装のフロアだ。

 僕が転校初日に、突然走り出した鹿目さんを追って……いや、半ば強制的に美樹に連れて行かれた場所。そして、初めて巴さんと出会った場所でもある。

 それにしても、この場所はいつまでこのままなんだろうか。もう二週間も経っているのに未だに未改装のままだ。

 

「本当にこんなところに巴さんが居るの?」

 

『間違いなく、マミのソウルジェムの反応があるよ。それにボクは嘘は吐かない』

 

「必要最低限の真実も話さないけどね」

 

 肩に乗った支那モンがいい加減鬱陶(うっとう)しくなってきたので、床に降りてもらった。

 支那モンがここまで言い切っている以上、巴さんは恐らく近くに居るのだろう。ならば、こいつごと巴さんに狙撃される可能性も考慮しなければならない。

 

『政夫、約束どおり情報を教えてもらうよ』

 

「ああ、僕がどうして魔法少女の秘密を知っているかだったね」

 

 僕はフェアな人間だ。多分、暁美あたりならこいつとの約束など堂々と破り、木曜洋画劇場の主役のように支那モンの頭を弾くだろうが僕は違う。支那モンが元凶だろうが何だろうが、約束はきっちりと守る。

 

「暁美さんに聞いたから。以上」

 

 分かり易く、それでいて聞き取り易いように一言でまとめてあげた。

 支那モンは無言でガラス玉のような目で僕を見上げた後、尋ねてくる。

 

『……それだけなのかい?』

 

「それだけだよ。暁美さんが僕に話してくれたから知ってる。これ以上何とも言えないよ」

 

『どうして暁美ほむらが知っているかは……』

 

「さあ? それは約束の範疇じゃないからね。僕が答えるのは『魔法少女の秘密を知っている理由』だけだよ。――まさか騙されたとか、ホザかないよね?」

 

 足元に居る支那モンに向けて冷笑を浮かべる。

 僕は何一つ嘘は言っていない。全て真実だ。支那モンが期待していたほど情報量ではなかったというだけだ。それでも十分つり合いは取れているだろう。

 もはや、こんな奴に付き合っている理由はない。早く、巴さんを見つけないと。

 

 心底どうでもいいナマモノを後にして僕はフロアの奥へと進んで行く。

 そして。

 

「巴さん!」

 

 壁に寄りかかって、座っているパジャマ姿の巴さんを見つけた。

 膝を抱え込むようにして体育座りをしていた巴さんは、僕が声を掛けると俯いていた顔を上げてこちらを見つめる。その顔は暗い表情に包まれていたが、僕が現れたことへの驚きが見て取れた。

 

「夕田君……!? 何でここに……」

 

「探しましたから。ちょっとズルしましたけど」

 

 僕は巴さんの無事な姿を見て、内心安堵した。支那モンがまだ『ソウルジェムの反応』と言っていたので、魔女にはなっていないと思ったが、やはり自分の目で安否を確認しなければ安心はできなかった。

 

「それより、どうしてこんなところに居るんですか? 今日は僕、巴さんを遊びに誘おうかと思って家まで行ったのに……」

 

「駄目よ!!」

 

 僕の言葉を(さえぎ)るように巴さんは大声を上げた。

 壁に背中を擦り付けながら立ち上がり、巴さんは僕を拒絶する。そして、指輪をソウルジェムの形に変えて僕に突きつけるように見せた。

 

「見て! 私のソウルジェムはもうこんなに黒く(にご)ってる。多分、あと少しで私は魔女になるわ。理屈じゃなく感覚で解るの……」

 

 巴さんの言うとおり、黄色く輝いていたソウルジェムは前に学校の屋上で見た時よりもはるかに黒ずんでいた。

 きっとこんなところ来たのは、人気のないところを探してのことだろう。マンションの中で魔女になるよりは幾分マシだ。もっとも、すぐ傍にショッピングモールがあるのでベストな答えとは言い難いが。

 短時間で来られる人気の少ない場所を考えて来たんだろうが、うまく思考が回っていない。支那モンをあれだけ殺すほど精神状態だから仕方ないと言えば仕方ないか。

 

「そうですか。ただ何でそこまでソウルジェムが濁ったのか教えてもらえませんか? そのくらいなら時間あるでしょう。わざわざあなたを探し回った駄賃だと思って答えてくださいよ」

 

 さも、余裕そうな顔で巴さんにそう尋ねる。と同時に気付かれないように、少しずつ()り足で近づいて行く。

 普段だったら気付かれると思うが、今の冷静さを欠いた巴さんならば問題はないだろう。

 

「……夕田君。あなたは私に魔女になるその時まで魔法少女として生きていけばいい、そう言ってくれたわね」

 

「言いましたね」

 

「でも駄目だった。……私はもう魔法少女として生きていけない。改めて魔女を()の当たりにして、自分と同じだと思ってしまったわ。彼女たちを殺して、『正義』なんて名乗れない」

 

 泣きそうな顔で巴さんは悲しげに微笑んだ。その表情には『魔法少女』、いや、『巴マミ』にしか分からない思いが込められているのだろう。

 

「夕田君、あなたから杏子さんや暁美さんにはごめんなさいって伝えてもらえないかしら……」

 

 それが巴さんの最期のお願い。彼女らしい言葉だ。その台詞は僕に早く立ち去れという意味も含まれている。

 僕は巴さんのその想いを、優しさを、言葉を。

 

「嫌ですよ」

 

 ()んであげない。

 

 巴さんが喋っている内に少しずつ近づいていたので、それほど距離は離れていない。(ふところ)にしまってあった暁美からの(あず)かり物を取り出して、巴さんに一気に距離を詰める。

 

「なっ……!」

 

 巴さんの顔が驚愕の色に染まる。まさか僕が突っ込んでくるとは思わなかったのだろう。普通の感性なら、巴さんの意図を()んで涙ながらに立ち去るところだからだ。

 だが、僕は取り出した両端が鋭く(とが)ったソレをソウルジェムに思い切り押し当てる。

 

「伝えたかったら、自分で伝えてください」

 

「それは……グリーフシード!?」

 

 昨日の内に切り札として、暁美から受け取っておいて正解だった。念には念を入れといたおかげで本当に良かった。暁美には感謝しておかないといけない。

 巴さんのソウルジェムから、(よど)んだ濁りが吸い出され、元の美しい黄色の輝きを取り戻す。完全に、とまではいかなかったものの黒ずんだ部分がかなり減った。

 手元にあるグリーフシードはこれ以上穢れを吸い取ってくれないようで、奇怪な光を明滅させている。これで最悪の結末は避けられたな。

 

『そのグリーフシードは孵化(ふか)寸前だね』

 

 置いてきた支那モンが呼んでもいないのに颯爽と現れ、背中の(ふた)を開いてこちらに擦り寄ってくる。

 

『ボクが回収するよ』

 

「キュゥべえ、あなた……!」

 

 予想外の僕の行動に一時停止していた巴さんの顔が怒りに歪む。巴さんからすれば、どの面下げて自分の前に現れたって感じだろうからな。気持ちは分かる。

 僕は支那モンの背中の穴を一瞥(いちべつ)した後、無言で孵化寸前のグリーフシードを壁に思い切り突き刺した。

 

「ふん!」

 

『な!?』

 

「ええ!?」

 

 僕の咄嗟(とっさ)の奇行の支那モンも巴さんも、驚きの声を上げる。

 グリーフシードの光の明滅は激しくなる。まるで心臓の鼓動のようにも見えた。

 

『何をしているんだい、政夫!? そんなことをしたら、ここで魔女が(かえ)ってしまうんだよ!』

 

 叱責(しっせき)するように僕に向けて大きな声をあげる支那モンを無視して、巴さんの真正面に立ち、瞳の奥を見つめる。

 

「さて、巴さん。ここで魔女が出現すれば、ただの人間の僕は一溜まりもありません。――さあ、『正義の魔法少女』はか弱い一般人を救ってくれますか?」

 

「夕田君……あなた、まさか……」

 

 グリーフシードは一際大きく光ると、周りの空間が歪み、世界が塗り替えられた。




最後の方の政夫、何かもうギャグですね。一応構想ではかなりシリアスで緊迫した状況だったはずなんですけど。


宜しければ感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。