「あ、政夫くん、おはよう」
「政夫遅ーい。女の子を待たせるなんて最低だぞ」
「寝坊でもしてしまったのですか?政夫さん」
待ち合わせの場所に着くと、ピンク、水色、緑の三人が待っていた。
それだけなら、僕は謝罪と挨拶を彼女たちに送り、談笑でもしながら学校へ向かうんだが、もう一人、いや、もう一匹そこに僕を待っていた奴がいた。
『やあ、夕田政夫』
支那モン。
だが、その実態は宇宙からエネルギーを求めてやってきた地球外生命体だ。どんなに愛想を振りまいてきても決して油断してはいけない。
こいつの目的がエネルギーだということは分かっている。だが、『何がエネルギーに変換されているのか』までは言わなかった。
何より怪しいのは、『願い事』のことだ。
自分達ですらエネルギー不足で困っているのに、果たして魔法少女になる女の子の『願い事』を叶える余裕なんてものがあるだろうか?
エネルギー保存の法則がある以上、『願いを叶えるためのエネルギー』が
・・・まさか。
『願い事を叶えるためのエネルギー』すら願った少女に払わせているのか。
だとしたら・・・。
『お~い。政夫ー?聞いてる?』
思考に没頭している僕の頭の中に、突然美樹の声が
弾かれたような勢いで美樹を見る。彼女はいたずらが成功したと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
こいつ・・・今、僕に何をした?まさか、すでに魔法少女になったのか?
僕の脳裏を過(よ)ぎった考えを頭に響く鹿目さんの声が否定する。
『違うよ、政夫くん。キュゥべえが私たちの考えてることをテレパシーみたいな力で
考えただけで思考が繋がる?
だとしたら、最悪だ。このわけのわからない生き物に、自分の中身が覗(のぞ)かれていると思うだけで鳥肌が立つ。
『酷い言い様だね、政夫。そんなにボクのことが嫌いなのかい?』
これすらも筒抜けらしい。プライバシーを保護しようという概念はないのだろうか。ないんだろうなぁ、多分。
「お
志筑さんは一人だけ疑問符を浮かべていた。どうやら、彼女にはテレパシーが伝わっていないらしい。
それは良い事だと素直に思う。こんな頭をお互いに覗き合うような冒涜的な行為に混ざる必要などないだろう。
『ぼ、冒涜的って・・・。そう言われるとそうかも知れないね』
『政夫。ちょっとアンタ
僕はせめてもの抵抗として、テレパシー会話には参加せず、志筑さんと声を出して話すことにした。
「う~ん。僕にも分からないね。きっと僕らは目と目で語り合う間柄になったってことじゃないかな?」
「まあ!たった一日でそこまで急接近だなんて。でもいけませんわ、お三方。三人でなんて。それは禁断の、恋の形ですのよ~!!」
突然、志筑さんはバッグを落として、意味不明の台詞を発しながら、走り去ってしまった。
別に嘘も吐いてなければ、それほどおかしいことも言っていないのにどうしたのだろうか?
「あぁ…。今日の仁美ちゃん、何だかさやかちゃんみたいだよ」
なるほど、うまい事言うな、鹿目さん。確かにあの脳みそが沸(わ)いたような言動は、まさに美樹のようだ。
『つーかさ、あんた、のこのこ学校までついて来ちゃって良かったの?あんた、転校生に命狙われてるんじゃないの?』
『どうして?むしろ、学校の方が安全だと思うな。マミもいるし』
『マミさんは3年生だから、クラスちょっと遠いよ?』
学校に着いても、鹿目さんや美樹はテレパシーで支那モンと会話をしていた。
美樹は支那モンが暁美に襲われることを危惧(きぐ)しているようだが、僕としてはその地球外生命体の方がよっぽど恐ろしい。
なぜ二人とも平気でソレを信用してるんだ?重要な事項を説明しなかった理由を「聞かれなかったから」と平然と言い張るような生き物なんだぞ?確実に他にも何か重要なことを隠しているに決まってる。
そして何より、鹿目さん達が何も反応していない以上、僕が今考えているこの思考は鹿目さん達には届いていない。これはつまり支那モンが都合の悪い思考は繋がないようにしているという事だ。
『ご心配なく。話はちゃんと聞こえているわ。見守ってるから安心して。それにあの子だって、人前で襲ってくるようなマネはしないはずよ』
巴先輩の声までもが僕の頭に響く。
ですが先輩、僕の『話』は少しも聞こえてはいないのでしょうね。
それよりもテレパシーの圏内(けんない)が思った以上に広い。大体何メートルぐらいまでなら、カバーできるのだろうか?
そうこうしている間に暁美が教室に入ってきた。相変わらずムッツリとした無表情をしている。
あいつもあいつで信用ならないが、支那モンについて何らかの情報を知っている以上どうにかしてそれを聞き出さないといけない。僕の危険を少しでも減らすために。
その後、僕らは学生らしく英語の授業を受けてた。
なるほど。受動態はbe動詞+過去分詞となるわけか。
昨日も思ったけど、前の学校よりも若干授業のレベルが高いような気がする。ここ私立じゃないよね?むしろ市立だよね?
そんな風に授業を終え、昼食の時間となった。
僕は中沢君たち男子グループと一緒に食べようと思ったのだが、美樹にほとんど無理やり屋上に連行され、鹿目さんたちと昼食を食べることになった。せめてもの反抗として中沢君も誘ってみたのだが、美樹がどうしても駄目だと騒いだため諦めた。
それにしても魔法少女の話をするためとはいえ、「中沢は絶対来ちゃ駄目!」は酷すぎるだろ。中沢君、しょんぼりしてたぞ。
「ねえ、まどか。願い事、何か考えた?」
美樹が鹿目さんに切り出す。授業中ずっと上(うわ)の空だったのは、それについて考えていたのだろう。
数学の時間も教師に指名されて慌てていた。最終的に支那モンに答えを教えてもらい、事なきを得ていたが。
「ううん。さやかちゃんは?」
「私も全然。何だかなぁ。いっくらでも思いつくと思ったんだけどなぁ。政夫は何かある?」
急にこっちに話を振ってきた。こいつは僕にどう答えてほしいんだ?
「僕は関係ないだろ?それとも答えたら、それを美樹さんが叶えてくれるの?」
「えっ!?いや、それは・・・。ちょっと意見を聞きたかっただけだし」
「なら、僕はその『願い事』なんて物は、ない。というより気持ちが悪いよ」
自分が願っただけで願いが叶うなんてどう考えても普通じゃない。まるで自分の願望を勝手に汚されているみたいだ。
少なくても僕は自分の努力の介入していない結果なんていらない。
「き、気持ち悪いって・・・。あんたは願いとか夢とか叶ってもうれしくないの?」
美樹は僕の言っていることがまったく分からないよいったようすで聞いてくる。
「『叶った』じゃなくて『叶えてもらった』でしょ?そんな見っとも無い真似してまで、僕は願いなんて叶えてほしくないね。それじゃまるで
僕の言葉を鹿目さんも美樹も黙って聞いていてくれている。
その目は真剣そのものだった。ならば、僕も本心で答えるまでだ。
「僕はね、自分の夢も願いも自分で叶えてこその物だと思ってる。そうじゃなきゃとても胸を張れないよ」
『どうしてだい?結果が変わらなければ、過程なんてどうでもいいじゃないか』
今まで何も言葉を発しなかった支那モンが僕の意見に反論してきた。
その発言にこの生き物の本質が少し見えた気がする。
恐らくこいつは『エネルギーを集めるため』なら過程を選ばないのだろう。僕の中で支那モンの信用度がますます下がった。
だが、僕はこの生き物に人間として答える。
「人間は時には結果よりも過程を重視することがあるのさ。いわゆる『誇り』だよ」
もっともこれは僕の主観であり、他の人間には当てはまらないかもしれないが、それでも人間とは『そういうもの』であってほしいと思う。
確かに結果が全てだという人もいるが、人生においての結果は『死ぬこと』だ。生きている間にどんなものを手に入れても、死ぬ時にはみんな失ってしまう。生きてる間は皆過程でしかないのだから。
だからこそ、僕は、僕が少しでも納得できる生き方をしている。
『ふーん。ボクには理解できそうにないな』
「だろうね。僕もそんな君が理解できそうにないよ」
無表情の不気味なマスコットの見つめる。相変わらず、何を考えているのか分からない目をしていた。
しばらくにらめっこを続けていると、チャイムがなった。
どうやら昼休みが終わったようだ。