魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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まさかの一日での連続投稿。
今回も政夫出ません。番外編扱いでも良いレベル話ですね、これ。


第六十話 川原で稽古

~杏子視点~

 

 

「ほら、何やってんだ! 動きがトロくなってるぞ! 教会でアタシに()み付いてきた時の勢いを見せろ!」

 

 アタシは手に握った木刀を左斜めに振るう。

 

「くっ! ちょ、ちょっとタイム……!」

 

 さやかはそれを自分の木刀で受け止めようとして、足を必要以上に開いてしまう。そこをアタシは見逃すほど甘くはない。

 さやかの右足にアタシの足を引っ掛けて、内側から外側に払った。右足の靴が地面から離れて、さやかは当然バランスを崩してひっくり返る。

 仰向けに倒れたさやかの顔に木刀の先を突きつけて、アタシは頬を吊り上げた。

 

「これで二十三勝目だ」

 

「杏子ずるいよ。私、ちゃんとタイムって言ったのに……」

 

 さやかはアタシを睨みながら、不満そうに文句を言う。

 

「何言ってんだ馬鹿。少しでも強くなりたいからってアタシに稽古(けいこ)つけてって言ったのはアンタだろ。それに魔女との戦いにタイムなんてないんだよ」

 

 マミの事で頭を悩ませていたアタシの元に電話してきて、いきなり「稽古つけて!」とか言い出してきた時は何事かと思った。

 しかも、アタシの家が風見野にある事しか知らないのに駅前までに来て、「杏子の家どこ? 今駅前なんだけど」なんて言ってくるし。

 見滝原の教会でやりあった時はアタシも冷静じゃなかったけど、こいつは素で考えなしのヤツだ。信じられないくらい馬鹿だ。放っておくと間違いなく早死にするタイプだ。だからこそ、マミの件を後回しにしてさやかの稽古の手伝いをしている。

  

 ただ魔法少女になって行うと魔力が消費されるから、物置にしまっていた木刀を引っ張り出して近くの川原で稽古をする事になった。

 何で木刀が二本も物置にしまってあったかを聞くと、「男には中学生くらいの時はやんちゃしちまう生き物なんだぜ……」とどこか遠い目をしたので詳しく聞くのは止めといてやった。聞いてほしくない過去の一つくらいショウにだってあるんだと思う。

 

「でも、さっきからずっと木刀の打ち合いしてたんだから、流石にここら辺で休憩させてよ……」

 

「しっかたねーな。んじゃ、ちょっと早いけど休憩にしてやるよ」

 

「う~、杏子スパルタすぎる」

 

 文句言うなら他のヤツにやってもらえと思ったが、アタシ以外は遠距離武器ばかりだから無理だな。まあ、て言ってもアタシの得物は槍だから剣が得意ってわけじゃないけど。

 近くに置いてあったリュックから水筒を取り出して、中の冷えた麦茶をあおる。キンキンに冷えた麦茶は運動で体温の上がった身体に染み込んでくる。家を出る時ショウが持たせてくれてホント良かった。

 

「っぷはー!」

 

「あ! ずるっ! 私にもちょうだい」

 

 川原の斜面に仰向けで倒れていたさやかが、がばっと起き上がって水筒を奪おうとしてくる。飲み物すら自分で用意してこなかったらしい。こいつはマジでどうしようもないヤツだな。

 

「ずるくねーよ。何で自分で用意してきてないんだよ」

 

「いや~、思い立ったらすぐ行動が私の信念だからさ」

 

「じゃあ、その信念に(もと)づいて、そこで(かわ)いていけ」

 

「すいません調子こきました! (のど)カラカラなんです。飲ませてください」

 

 ったく。最初からそう言えばいいんだよ。

 呆れながら水筒をさやかに渡すと、直接水筒の飲み口を開けて逆さにしてグビグビと飲み始めた。……アタシがいうのも何だが、こいつ結構女捨ててるよな。

 

「ふ~。気分爽快! 魔法美少女さやかちゃん復活! 」

 

 テンション高く叫びながら、さやかは水筒片手に訳の分からないポーズをする。

 

「ほー。じゃあ稽古再開するか?」

 

「いや、……それはちょっと休ませて」

 

 アタシが木刀を自分の肩にトントンと当てて言うと、引きつった笑顔で首を振る。

 アタシもさやかに(なら)って斜面に寝そべる。背の低い草が背中を優しく包んでくれるおかげで思った以上に寝心地がいい。

 さやかに至ってはもう目をつぶって、今にも昼寝を始めそうだ。ホントこいつは自由気ままだ。

 

「なあ、さやか。お前がここまでする理由って何だ?」

 

 わざわざアタシに稽古を頼んできた時は魔女退治に参加できていない負い目かと思ったが、どうも見ているとそこまで切羽詰ってるようには思えない。

 

「ここまでって? 杏子に稽古つけてもらってる事?」

 

「ああ。魔女と戦いたいとでも思ってんのか? アンタだって魔女の正体知らないわけじゃないんだろ?」

 

「そうだね、私は魔法少女になる前に政夫から『魔法少女の秘密』教えてもらった上で魔法少女になったから……」

 

 は? こいつ今なんて言った? 

 秘密を知った上で魔法少女になった、だと?

 

「おい。魔法少女になった時の事、詳しく話せ」

 

「え……うん。別いいけど。私が魔法少女になろうと思ったのは幼馴染の――」

 

 

 

「――ってわけよ」

 

 さやかから話を聞き終えた後、アタシは頭を抱えた。

 馬鹿だ馬鹿だと思っていたがここまで馬鹿とは思いもしなかった。

 こいつの友達やってるヤツは仏様か何かか? 今更だから別に切れるつもりなんかないが、もしアタシがその時こいつの傍に居たらぶん殴っていた自信がある。

 

「さやか……」

 

「ん? 何?」

 

「アンタ、馬鹿だろ」

 

「うん。よく言われる」

 

 さやかはどこか自慢げに笑った。ここまで呆れを通り越して、尊敬の念すら()いてくる。

 馬鹿と天才は紙一重とか言われているから、ひょっとしたらこいつは天才なのかもしれない。絶対にまねしたくないけど。

 

「で、アンタの戦う理由って結局何なんだ? そのバイオリニストの坊やのためか?」

 

 意外にもさやかは首を振った。

 

「いや、恭介はもう完璧に振られて諦めた」

 

 ますますさやかの戦う理由が分からない。てっきり他の女に惚れた男のために健気にも陰で戦うのが、こいつの理由かと思ったけど違うみたいだ。

 

「じゃあ、何だよ?」

 

「恭介に振られる前にさ、迷惑かけちゃった奴が居るんだ」

 

 さやかはアタシから視線を外すと、静かな口調で語り始める。その横顔はいつものハイテンションな明るい笑顔とは違い、どこか憂いを含んだ大人びた笑顔だった。

 

「みっともないところ散々見せちゃってね。泣き喚くとこなんか二回もだよ? だから今度はそいつに……」

 

 そう言いながらさやかは起きて立ち上がり、

 

「カッコ良いとこ、見せたい! あなたのおかげで私はこんなに強くなれましたって、さ」

 

 身体ごと振り向いてアタシを見る。

 その顔にはふざけた軽いイメージのさやかはどこにもいなかった。一瞬、アタシが驚くほど真剣な表情をしていた。

 

「ま、今は全然駄目駄目だけどね」

 

 そう言ってまたいつもの明るい笑顔に戻る。

 でも、今ので分かった。こいつは行動こそ考えなしで、でたらめだけど、ふざけ半分なんかじゃない。

 どこまでも真面目に『魔法少女』をやるつもりなんだ。

 仕方ない。だったら、こっちも本気で付き合ってやろう。

 木刀を再び握って、起き上がるとさやかに声をかける。

 

「ほら、休憩終了だ。稽古再開するぞ」

 

「うん。大分休めたし、準備オッケーだよ」

 

「ところでその格好良いところ見せたい相手って誰だ?」

 

「えっ、それは……ねぇ、ほら、アレよアレ」

 

「結局男かよ。わりと不純な動機じゃねーか!」

 

 




すいません。杏子、さやかの方を書かないのもなんだったので書いてしまいまいした。

それと、イラスト投稿サイト『みてみん』にて、絵凪さんに何と二枚もイラストを描いて頂きました。
二枚とも、政夫と魔法少女のツーショットでよく描かれています。良かったら見てください。

しかし、パジャマまで徹底してるとは……。絵凪さん恐るべし。

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