魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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これが七十話目になるので特別に書き上げました。この話は超番外編の政夫が最初の世界に居たらというIFの物語の続きです。

本筋からそれて真に申し訳ありません。どうかご容赦を。


続・超番外編 もしもの恋

 胸が高鳴るこの気持ちを一体どんな言葉であらわせばいいのだろうか。

 

 ――幸せ? ああ、確かに幸せだ。好きな人がこんなにも近くにいる。ここまで満たされた思いをしたのはきっと今日が初めてだ。

 でも違う。その言葉ではまだ足りない。

 

 ――では、恋? そうだ。間違いなく僕は彼女に恋をしている。女の子と付き合ったことはあるが、正真正銘これが初恋だ。

 でも違う。非常に惜しいがこの言葉でも表しきれない。

 

 ――ならば、愛? 多分、今のこの気持ちに一番近いのはこの言葉だろう。彼女に何かしてあげたいと心の底から思う。笑っていてほしい。幸福でいてほしい。そして、許されるなら彼女に僕のことを好きになってもらいたい。

 

「えっと、あの……政夫、くん」

 

 黒く(つや)のある黒髪を三つ編みにした眼鏡の似合う素敵な美少女こと暁美ほむらさんは、僕の名前を呼んだ。

 その鈴の音のような可憐な声を聞いているだけで僕の幸福指数は軽く100を超える。生きていて良かったとすら思えた。

 このまま少しの間余韻(よいん)に浸っていたいが、僕の返事を待つほむらさんを待たせる訳にもいかない。

 

「何かな? ほむらさん」

 

 顔を崩さない程度に笑みを浮かべて尋ねた。ちゃんと意識しないと顔がにやけてしまいそうになる。

 

「今日は、その、わざわざ私に付き合ってもらってありがとうございました……」

 

 ほむらさんは下を向いて申し訳なそうにして僕の隣を歩く。

 もう四日も経ったのだから、もっとフランクに接してもらって一向に構わないというか、むしろウェルカム状態なのだがほむらさんは基本的にこんな調子だ。未だに敬語なのは流石に悲しい。

 ほむらさんがいつにも増して落ち込んでいるのは、今日の教室掃除の際に教卓にあった花瓶を割ってしまったことが原因だ。

 オロオロするほむらさんを(なだ)めて、割れた花瓶の破片を全て集めて捨てた後、早乙女先生への報告をしていたおかげでいつもよりも大分遅い下校になってしまった。けれど、そのおかげでこの幸福タイムを味わえるのだから余裕でお釣りが来るレベルだ。

 

「そんなに気を遣わなくてもいいよ。僕が好きで手伝った訳だし。友達なんだからさ」

 

 気遣いなどさせないようにいつも以上に軽い感じで言う。

 まあ、僕としてはもっとステディな関係になりたいが、無理にそういう関係に迫る気は毛頭ない。時間をかけてゆっくりと仲良くなれればそれでいい。

 

「でも、私がドジだったせいで政夫くんの時間を削らせてしまって……」

 

 しかし、ほむらさんの顔は晴れない。相変わらず、済まなさそうにするばかりだ。なぜこの子はこんなにも自分に自信がないのだろうか。クラスにまだなじめないながらもちゃんと頑張っているのに。

 

「別に僕は仕方なくほむらさんと居るわけじゃないよ。むしろ、ほむらさんと一緒に居たいと思うから今ここに居るんだ。そんな言い方しないでほしいよ」

 

 口に出すとかなり恥ずかしい発言だが、こうでも言わないとほむらさんは納得してくれない。女友達の一人でもできれば少しは変わるのだろうが、今のところほむらさんが学校で会話しているのは僕か担任の早乙女先生だけなのでその可能性は極めて低い。

 いつもは僕から話しかけないと置物のように黙って机に座っているか、小動物のように周囲の目を気にしてビクビクしているばかりだ。それすら、ほむらさんの魅力を引き立てるエッセンスになってしまうが、好きな子が悩んでいるならどうにかしてあげたいところだ。

 

 ほむらさんは立ち止まり僕の顔を上目遣いで見上げる。彼女の頬は紅潮していて、可愛らしさを最大限まで押し上げていた。

 

「…………私、そんな事言われたの……初めてです」

 

 僕の脳髄を『可愛らしさ』という名の電流が走った。心臓への血流が加速して、心拍数が1.5倍に跳ね上がる。

 なんだこの可愛らしい女の子は! 天使か君は! エンジェルだったのか!?

 ほむらさんを思い切り抱きしめたいという邪な欲求が鎌首(かまくび)をもたげるが、持てる全ての理性をフル稼働させ、どうにか肉体を制御する。

 

「……僕も、こういうこと人に言ったの初めてだよ」

 

 僕の(ほほ)が急激に熱くなり、自分の顔が真っ赤になっていることを自覚する。ほむらさんの顔を直視できなくなって、人差し指で頬をかきながら視線を泳がせる。

 だが、ほむらさんの可愛らしさは留まることを知らないらしく、恥ずかしそうにしながらも真面目な表情でキュッと僕の右手を握り締めてくれた。

 

 「いつも政夫くんは私の事気遣ってくれて、本当に優しいです……でも私はしてもらうばっかりで……。政夫くん、何か私にしてほしい事ありませんか?私のできる事なんか限られてますけど」

 

「し、してほしいこと!?」

 

 ほむらさんの上目遣いの表情と柔らかい手のひらの感触、そして何とも魅力的な台詞のおかげで邪な思考が脳裏を駆け巡る。

 駄目だ。落ち着け、夕田政夫。これはあくまでほむらさんが真面目に恩返しをしてくれようと言ってくれた言葉だ。意味を取り違えてはいけない。

 性的な意味などまったくもって含まれてはいないのだ。ほむらさんの純粋な思いをいやらしい思考で汚すなど言語道断だ。

 ――しかし。

 

「……な、なんでもいいの?」

 

 ちょっとくらいはそういうことを考えても罰は当たらないのではないだろうか。好きな女の子がこんなにも魅力的なことを言ってくれているのだ。考えるなという方が酷だ。

 

「はい。私にできる事なら何でも」

 

「じゃあさ、その……い、一回だけぎゅって抱きしめてもらってもいいかな?」

 

 僕は何を言ってるんだー!! 寝ぼけているのか!?

 自分で言っておいて、何て発言をしたんだと頭を(かか)えたくなった。つい封印している欲望が(のど)から這い出してしまった。

 僕がどれだけほむらさんのことを好きだろうと、ほむらさんからすれば出会って四日しか経っていない異性の友達でしかない。そんな相手が図々しくも抱擁をねだってきたら流石に引かれるに決まっている。

 

「…………」

 

 ほむらさんはとんでもない要求に言葉を失ったようで、瞳を大きく見開いて無言で僕を見つめている。

 当然の反応だ。むしろ、露骨に嫌な顔をされないだけでもほむらさんの優しさに感謝するべきだ。

 

 落ち着くんだ、僕。まだ何もかも終わった訳じゃない。冗談を言ったことにして誤魔化すんだ。

 硬直した表情筋を気合で動かして、瞬時に軽い感じの笑みを必死で作る。決して引きつらないように、口の端を上に吊り上げて同時に目を細める。

 よし、大丈夫。鏡がないので完璧かは確認できないが誤魔化しは十分に可能だろう。

 

「なーんちゃっ――」

 

 僕がほむらさんに笑いかけようとするその瞬間、身体に軽い衝撃を受けた。

 

 そして、現状を把握して精神に重度の衝撃を受けた。

 今、僕の身体にほむらさんが密着している。

 

「こ、こんな感じでいい、ですか……?」

 

 超近距離でほむらさんの真っ赤な顔が僕を真下から見上げている。彼女の両手は僕の背中に回され、学ランを優しくつかんでいた。

 あまりにも近すぎて、ほむらさんの髪の香りすら鼻腔に届いてくる。

 頭の中が漂白されていく。うまく思考が回らない。

 ただ僕の今の心境は例え思考が回っていたとしても、僕の語彙力(ごいりょく)では言い表すことはできないと思う。

 

「……ほむらさん」

 

「な、何ですか?」

 

「――君が好きです。僕と付き合ってください」

 

 僕の中の想いが爆発を起こした。

 「もっと時間をかけてゆっくり仲良くなって行こう」なんて思って考えていたけれど、もう無理だった。とてもじゃないけど抑えられない。

 せっかく積み上げた友達という関係に戻れなくても構わない。振られたとしても、絶対にこの想いは嘘にしたくはない。

 

「え……」

 

「絶対に幸せにします。どうか付き合ってください」

 

 戸惑った顔を間近で見つめながら、僕は彼女の華奢(きゃしゃ)で可憐な背に手を回した。

 きっと僕は十四年間の中で最も真剣で、最も余裕のない表情を浮かべていることだろう。実際、余裕なんて微塵もない。断られたら、確実に泣くと思う。

 

「……何で、私なんかがいいの?」

 

 この四日間ずっと敬語だったほむらさんが口調を変えた。恐らく、彼女自身気付いてはいない。それだけ僕の言葉が『暁美ほむら』の核心に届いたということだろうか。

 だったら僕も心の底からの声で話そう。

 

「一目見た時から好きだった。ほむらさんの見た目が好みだったから」

 

「私の見た目……?」

 

 自信のなさそうな顔つきになる。もっと内心的を褒めるような言葉が欲しかったのだろう。

 詰まるところ、「あなたの顔が好きです」と言ってるようなものだ。自分でも酷く不真面目で軟派な台詞と思う。

 

「うん。でも今はそれだけじゃない。君の奥ゆかしさが好きだ。優しいところが好き。恥ずかしがりやなところも好き。臆病なところも好きだ。自信がないところも好きだ。泣き虫なところだって好きだよ」

 

「臆病なところや、自信がないところは……欠点だよ」

 

「直したかったら直せばいいよ。でも、僕はほむらさんの良いところも悪いところも皆好きだよ」

 

「……私、もっと嫌なところいっぱいあるよ?」

 

「全部好きになるから安心して。どうしても直したいところがあるなら僕も手伝うし」

 

 ほむらさんのことなら、どんなことでも愛せる自信がある。彼女のことをもっと知りたい。ほむらさんには欠点にしか見えないことだって、僕にとっては美点になる。

 ……一応全部本音だが、もう告白というか拝み倒しみたいだな。

 

「私で……良かったら」

 

「それは僕と付き合ってくれる、と取っていいんだね?」

 

「うん……」

 

 目を逸らしてほむらさんは頷く。顔だけじゃなく、耳まで完全に真っ赤になっている。

 

「っっぃやったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁ!!」

 

 やった。やりました。告白してよかったぁ!

 脳内で鳴り響くファンファーレ。世界の全てが僕に祝福しているように感じられた。

 生まれてきて本当に良かった。小学校時代に二、三回本気で自殺したくなるようなことがあったけど、死ななくて良かった。

 

「政夫くん! は、恥ずかしいよ」

 

「ごめん、本当に嬉しくて。それじゃ改めて、これからよろしくね」

 

 密着状態から離れて、僕はほむらさんに挨拶する。

 

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

 

 それにほむらさんはぺこりと頭を下げて礼儀正しくお辞儀して返してくれた。微笑ましいその光景に思わず笑いがこぼれてしまう。

 

 

 

 

 下校時刻としては少し遅めだったとはいえ、告白した場所が学校から遠くない場所だったせいでクラスメイトの美樹とかいう青髪の女子に聞かれていたらしく、次の日にクラスで死ぬほどからかわれることになった。

 しかし、そのおかげでほむらさんがクラス女子との接点を持つようになったので結果オーライ……なんだろうか?




よし。これで本筋で政夫がどんな酷い仕打ちにあっても同情的にならずに住むぞ!

IFとはいえ、番外編でこれだけ幸せなら本筋で誰ともくっ付かず最終話近くで死んだとしても許されますよね?

追記

これは仮に死んだとしても読者の方々は許してくれますか? という意味であって作者の殺人予告ではないです。
生き残る可能性は一応あるので、必ず死ぬ訳ではない…………はずです。きっと。
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