魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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今回は時間がなかったのでかなり短いです。話もほとんど進んでおりません。


第六十四話 偽装と傷心

「ほむらさん、端的に聞くよ。……何がしたいんだお前」

 

 僕は今、この状況に酷く困惑していた。

 暁美が僕に向けて……正確には僕の後ろで身を(すく)ませている呉先輩に向けて、拳銃を突きつけている。

 ファミレスの前の人通りの多い歩道で、何の罪のない女の子を殺害しようとしているのだ。

 とてもじゃないが正気の沙汰とは思えない凶行。理解のする余地がまるで介在していない。

 

「……政夫。もう一度だけ言うわ。“そこを退きなさい”」

 

 意図を知るために暁美に問いかけたが、質問に答える気は少しもないようで、ただただ鋭い目付きで僕を睨み付けるのみだった。

 当然ながら、そんな意図不明の要求を飲むつもりはない。

 僅かに顔を後ろに向けて横目で一瞥する。呉先輩は僕の上着の(すそ)を掴んでガタガタ震えていた。暁美の気迫と銃に完全に怯えている様子だ。

 例え、どんな理由があるにしてもこんなに怯えている女の子を差し出すなんて絶対に間違っている。

 

「退く訳ないだろう。今の君は正気じゃない。とにかく、まずはその『モデルガン』を仕舞(しま)うんだ」

 

「その女は危険なのよ!」

 

 危険なのはお前だ。鏡を見て、ものを言え。

 まったく建設的な会話をしようとしない暁美にイライラしてくるが、ここで下手に刺激すれば銃の引き金を引きかねない。

 それにこんな人目に付くような場所で目立つようなことをしていたら人が寄ってきてしまう。現にこちらを凝視している人たちが、ちらほら見受けられる。

 誰もコスプレした痛い女の子が本物の銃なんて持っているとは考えていないだろうが、暁美が持っているのは紛れもない本物だ。これ以上騒ぎが大きくなれば、警察を呼ばれるかもしれない。まあ、そうなったところで暁美自身は大して困らないかもしれないが……。

 となると、目下一番危険なのは暁美が痺れを切らして、呉先輩に襲い掛かること。

 暁美が前に話してくれたことによると、暁美は自分に触れたもの以外の時間を止めることができるらしい。これを使えば僕が(かば)っていようが呉先輩は一瞬で『どうとでも』できるだろう。逆にまだ使っていないということはまだ辛うじて理性が残っているという証でもある。

 

 早急にこの場を収めなくてはならない。……仕方ない。多少の恥は覚悟するか。

 

「ほむらさん! 誤解なんだ!」

 

 僕は声を張り上げて、周囲の人間に見せ付けるように暁美に言う。

 

「僕が愛しているのは君だけだ!」

 

「なっ……!」

 

 突拍子のない僕の台詞に面食らったようで、暁美は口を開いて硬直した。誰しも自分が予想だにしないことに直面すると思考はフリーズする。その隙を僕は見逃さない。

 一瞬で距離を詰めて、銃を向ける暁美を思い切り抱きしめる。こうすれば、暁美は時間を止めても邪魔をすることができる。僕の上着の裾を握っていた呉先輩の手を引き離す結果になってしまったが、それを気にしている余裕はなかった。

 

「ま、政夫。一体何を……」

 

「ごめんね。恋人に勘違いさせちゃうなんて彼氏失格だよ」

 

「か、彼氏!?」

 

 そして、この状況を周囲の人たちには「コスプレ少女が痴話喧嘩していただけ」と印象付けることができる。路上での下らない恋愛のいざこざだと分かれば、まともな感性をした人間ならよほど下世話でもない限りは興味など失せるだろう。

 暁美の肩越しに周囲を見渡すと、近くに居た人たちは呆れたような表情をして興味を失ったように僕らから視線を外していく。常識ある人たちでよかった。

 あとは暁美(こいつ)だけだ。

 

「ほむらさん」

 

 ぼそっと暁美の耳元で(ささや)く。

 

「な、何かしら……」

 

 上ずった声で暁美は答える。心なし、頬が朱に染まっていた。見た目にそぐわず、こういうところはこの街で知り合った女の子の誰よりも乙女らしい。

 ――だが、そんなことはどうだっていい。

 

「……この凶行の真意、ちゃんと聞かせてくれるんだろうな」

 

 自分でも驚くほど低いドスの利いた声が出てきた。

 今、僕はかなり頭に来ていた。ゲーム機のコンセントを引き抜かれた時の比じゃない。暁美の背中に回した腕が怒りでわなわなと震えている。

 今、こいつは人を殺そうとした。およそ人畜無害そうな女の子を、だ。

 

「え……」

 

 まるで僕の言っている意味が分かっていないかのような暁美の態度にさらに怒りが込み上げてくる。

 お前は自分のやろうとしていたことの意味が分かっていなかったのかと。

 暁美に対して信頼し始めていたからこそ、裏切られたという思いが強かった。

 いや、それだけじゃない。織莉子姉さんのこともあったせいだろう。誰もかれも皆、人を簡単に殺そうとしているように見えて、それが無性に腹が立った。

 どうしてそんな平然と命を奪おうすることができるのか、理解ができなかった。

 

「場所、変えようか」

 

「待って、まだ呉キリカを……」

 

 暁美は右手で握った銃を再び、呉先輩に向けようとする。

 

「ほむらさん……僕を幻滅させないで。お願いだから……」

 

「………………」

 

 僕の頼みを聞いてくれたのか、暁美は無言で銃を下ろして、手に付いた円状の盾に銃を仕舞いこんだ。

 ずっと抱きしめていた身体を離して、暁美から少し距離を置いた。

 振り返り、呉先輩の様子を見ると、瞳に大粒の涙を溜めて僕の方を見ていた。無理もないだろう。僕はもう慣れたが、暁美の凄んだ時の雰囲気と表情は中学生とは思えない迫力がある。そんな暁美に銃まで向けられれば泣きたくもなる。

 

「いや~、ほむらさん。ちょっと『成りきりごっこ』が好きだから、ついついこんな悪戯を……」

 

 もはや、手遅れだとは思ったが、それでもこの状況の言い訳をしようと呉先輩に笑いかけるが、彼女は僕に何も言わずに背を向けて走り出してしまった。

 追いかけようかと迷ったが、暁美から話を聞かなければいけないので断念する。それに彼女も今の状態では冷静ではいられないだろう。後で時間を置いて、電話で謝っておこう。

 せっかく、魔法少女と関係のない交友関係が築けたと思ったんだけどな……。

 気落ちしながらも、暁美の方に向き直ると、いつの間にか格好が元の私服に戻っていた。

 

「じゃあ、僕の家で話そうか……」

 

 空きっ腹を抱えながら、僕は暁美を連れて僕は自宅に向かった。

 それにしても、僕はいつになったらゆっくりできるのだろうか。

 




大学が忙しくて投稿ペースが遅れています。今月は投稿できるかどうかわかりません。
ゴールデンウィークになったら時間が取れるのでそれまで待って下さると嬉しいです。

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