魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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第九話 いつの間にか穴だらけ

戦いが終わり、魔女の結界が解けた。

巴先輩もあの魔法少女の衣装であるファミレスの制服のような服装から、見滝原中の制服へと変わっていた。

 

「これがグリーフシード。魔女の卵よ。運がよければ、時々魔女が持ち歩いてることがあるの」

 

 

巴先輩は、床に落ちている上と下の両端が(とが)った、手のひらに収まるほどの大きさのオブジェを拾って言った。

 

「た、卵……」

 

美樹が、怯えた表情で一歩引いた。あんな化け物が生まれてくる卵と言われれば、誰だってそんな態度を取るだろう。

うん?そのグリーフシードから魔女が生まれるなら、最初の魔女は一体どこから発生したんだ?雌鳥(まじょ)(グリーフシード)を産むことはわかったが、一番最初の雌鳥(まじょ)は自然発生したのか。謎は深まるばかりだ。

 

『大丈夫、その状態では安全だよ。むしろ役に立つ貴重なものだ』

 

僕の思考をよそに支那モンはいつも通り、口も動かさずに喋る。ハンバーガーショップではポテトを食べていたので、口自体は開くはずだろうに。

まあ、そんなことはどうでもいい。気になっていたことを巴先輩に聞こう。

 

「すいません。自分でも分かるくらい空気の読めていない発言なんですが、何であの化け物が女って言われているんですか?雌雄なんて存在しそうにありませんでしたけど」

 

「え?えーと……それはキュゥべえがそう読んでいたから。そうよね、キュゥべえ?」

 

やっぱりというか予想通りというか、巴先輩は知らなかった。むしろ、気にもしていなかったようだ。

何でそんなにこのケダモノに全面的に信頼を寄せられるのか本当に謎だ。

 

『うん。魔女と名付けたのは確かにボクらだよ。これ以上に適切な呼び方は存在しないからね』

 

「そうなの?魔女というより魔物って感じだったけど。まどかはどう思った?」

 

「そうだね。思ってた『魔女』よりも、ずっと不気味で怖かった」

 

美樹や鹿目さんも(おおむ)ね、僕の意見と同じようだ。

ならば、好機だ。こいつは僕が聞くだけなら「何でそんな事を聞きたがるんだい?君には関係ないじゃないか」とか言って追求から逃れるが、魔法少女候補生の彼女達が聞くのなら、答えなくてはいけないはずだ。

 

「それで『魔女』と名付けた経緯は何なの?教えてくれよ、『キュゥべえ君』」

 

あえて僕は支那モンではなく、名前をはっきりと呼んだ。もちろん、嫌味だ。それとより真摯(しんし)にせまり、誤魔化(ごまか)しをさせないためでもある。

 

『あれらはもともと、女の子だったからね。それが成長した結果だから魔女、なんだよ』

 

衝撃の真実。僕を含めた皆が絶句した。

だが、僕はその可能性も考えていたので、やっぱりかという感想しかなかった。

元人間ならば、結界の内部があれほど人工物を意識していても不思議ではない。それよりもこいつがさっき言った『ボクら』という方が引っかかった。

支那モンは複数、存在しているのか。それとも他に協力者がいるのか。どちらにしても恐ろしいな。

 

「…………う、嘘よね?キュゥべえ。冗談にしては悪ふざけが過ぎるわよ……?」

 

巴先輩の声は震えていた。先ほど魔女相手に立ち回っていた彼女とは同一人物には見えない。

まあ、無理もない。ただの化け物だと思って戦っていた相手は、実は人間のなれの果てだなんて平然ではいられないだろう。

 

『本当だよ、マミ。ボクが今まで君に嘘をついた事が一度でもあったかい?』

 

支那モンはそんな巴先輩ににべもなく、淡々と言う。巴先輩は(ほう)けた表情で膝をついた。

今まで一緒に過ごしてきた巴先輩の気遣いや同情の類は一切見受けられない。

しかし、巴先輩にはかわいそうだが、多分支那モンが言ってることは真実だろう。こんな嘘を吐くメリットが支那モンにはない。

僕は、さらに支那モンを問う。

 

「あれが魔女と呼ばれる理由については分かったよ。なら、なぜ普通の女の子が魔女になってしまったんだ?原因とかは分かる?」

 

『ああ、それは……』

 

支那モンは僕の問いに答えようとした次の瞬間、穴だらけになって倒れた。

 

何が起きたのか理解できなかった。

僕は目を離したり、(まばた)きすらもしていない。それにも関わらず、支那モンは穴だらけになり死んだ。

どうしたんだ?一体何が……。

絶句していた鹿目さんと美樹も、呆けていた巴先輩も、誰一人として何が起きたのか理解していないようだった。

 

「夕田政夫」

 

僕らがいる場所の横にある通路から、声と共に暁美ほむらが出てきた。

その手には、前にも見た拳銃を握っている。

 

「私は言ったはずよ。鹿目まどかや美樹さやかと一緒に巴マミから離れなさいと」

 

底冷えするような声で彼女は僕に銃口を突きつける。

 

「もう二度と魔法少女には関わらないと約束しなさい。もちろん、そこの二人もよ」

 

やはりこいつは魔法少女に関して知っている。そして、それは他の誰かに知られてはまずいことだ。

この場合、僕や鹿目さん達に聞かせたくなかったのか、それとも巴先輩の方に知られたくなかったのかによって、これから僕が取っていかなければならないアクションが変わるのだが……。

取り合えず、今は暁美の言葉に従っておこう。両手を上げて、降伏の意思を見せる。

 

「うん。分かったよ。君ら魔法少女には、もう関わらないよ。ね、鹿目さん。美樹さん」

 

こいつが支那モンをどうやって殺したのかは分からない。だが、ここでYESと答えなければ、僕が『どうなるか』は想像に(かた)くない。

 

 




どのくらいが丁度いい長さなのか、考えながら投稿させてもらってます。

やっぱり3000文字はあるべきでしょうか?

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