一括で書けず、すみません。
~ほむら視点~
デートを政夫に要求したものの私は恋愛経験など皆無に等しかった。けれど、誰かに相談しようにも身近な友達に政夫への恋心を知られるのも嫌だった。
それに明らかにマミも政夫に対してある程度好意を持っている事が分かっているというのもある。最近はさやかまでも言動が怪しいので
まどかも何だか、政夫を見る目が少し変わってきた気がする。二人で映画を見に行った時の帰りにした話題の八割が政夫についての事だった。
織莉子も姉のように振舞ってはいるが、この前政夫に見滝原中の制服姿を褒められた時に赤くなって喜んでいた。当然、キリカは論外だ。
杏子だけ唯一はそんな素振りを見せないが、絶対にありえないとは言い切れないので一応、除外する。
こう考えると政夫はとんでもない女
しかしながら、私が好きなのはその女誑しなのだから始末に終えない。腹立たしいが、これが『惚れた弱み』というものなのだろう。
ともあれ、私は相談相手として、魔法少女たちとまどか以外の人間を選ぶ必要があった。
そして、その条件に該当する人物に一人だけ心当たりがあった。
志筑仁美。
彼女にはすでに政夫への恋心を看破されているので、もうその点に関しては気にする必要はない。さらに、恋愛方面において恐らくは私の知り合いの中で最も長けていると思われる。
これらの事情により、私は志筑さんにこの案件を相談する事を決めた。
放課後、いつもならマミのところに魔法少女全員で集まり、魔女退治に
「政夫に、その……デートを申し込んだわ」
恥ずかしくなり途中どもりつつも私は志筑さんに相談も兼ねてそう教えた。
「やりましたね! ほむらさん! とうとう政夫さんに告白する決心がついたのですね」
私以上に嬉しそうにする志筑さんにする圧倒されそうになったが、取りあえず、流石にまだそこまで決心はできていないので控えめに否定した。
「いえ、まだそこまでは……」
すると、志筑さんは笑顔をそのままに身に
「いけません」
「え?」
「それでは政夫さんとの関係は何一つ変わりません」
「あの、志筑さん……?」
溜め息を一つすると、志筑さんは真面目な顔になり、人差し指を立てた。
「いいですか、ほむらさん。恋愛とは戦争なのですわ」
言い表しようのない威圧感が志筑さんから放たれる。そこには女性特有の恋愛にかける強い情熱を感じた。
自然と視線が天を向いている志筑さんの指に引き寄せられる。
「戦、争?」
「そう。戦争ですわ」
重々しくゆっくりとした動作で志筑さんは頷く。
「特に女性にとっては避けられない戦いです。今の殿方は待っているだけでは何もしてくれません。自分の方から積極的に行かないと意中の殿方は決して振り向いてはくれません」
「っ! 確かにそれはあるわね」
政夫は何も言わなければ、向こうからデートに誘ってくるなんて事は絶対になかっただろう。そもそも、彼は私の事をずっと同性愛者と勘違いしていたせいで、恋愛対象としてすら見てくれていなかったと思う。
志筑さんは私の手を強く掴み、真面目な表情を崩して微笑んだ。
「分かってくれましたか!?」
「ええ。それくらいの気持ちでぶつかっていかなければ何も得られないわね」
「なら、早速装備を整えないとなりません」
「装備?」
「デートのためのお洋服を買いに行きましょう! 今日は金曜日ですから……よし。生け花のお稽古まで時間があります。さあ!」
「え。い、今から?」
何故か私以上に張り切っている志筑さんに、引きずられるようにして、私はカフェを出た。
ちなみにその店の会計は志筑さんが一人で払っていた。自分の分は出すと言ったのが、まったく聞き入れてもらえない。こういう頑固なところは、まどかやさやかに通じるものがあるわね……。
ショッピングモールの洋服店のに入る前まで来ると、店内に入る前に私は志筑さんに尋ねた。
「ねえ、志筑さん」
「何ですの? ほむらさん」
「どうして、ここまで私に手伝ってくれるの?」
確かに相談を持ちかけたのは私だけれど、正直言ってここまでしてくれるとは思いもしなかった。
思えば、彼女とは大して交友もなく、最近少し話すようになった程度だ。私にこんなにも世話を焼く理由などどこにもない。
志筑さんは一指し指を
「自分のため、でしょうか?」
「自分のため? 私のデートを手伝う事が?」
「はい」
にっこりと微笑むと、志筑さんは語り出した。
「ほむらさんは知らなかったでしょうけど、私はある殿方の事をお慕いしております」
十中八九、上条恭介の事だ。そう言えば、この時間軸では彼と志筑さんは結局どうなっているのか分からず
他の時間軸と同じなら……いや、こんな事を考えるのは二人に失礼だ。この世界に居る上条恭介も志筑仁美もただ一人だけの人間だ。
別の時間軸の彼らと同じような発言は、彼らの価値を貶めているようなもの。政夫にあれだけ言われたのに、まだ別の時間軸の人間を同一視しようとした自分に嫌気が差す。
「それと私の手伝いがどう関連しているの?」
内心を
「せっかちですのね。順を追って話しますので少し待ってください。――それで私はその殿方に告白をしようとしたのですが、彼にはすでに意中の女性が居ました」
「それって……」
もしかして、私の事だろうか。そう言いかけたが、口には出さなかった。
黙って、話の続きに耳を傾ける。
「その女性というのが、ほむらさん、あなたです。つまりはほむらさんと政夫さんが付き合ってくだされば、私にもチャンスが巡って来るという事です。これが私がほむらさんを応援する理由です……単なる打算的なものですので、あまり気になさらないでくださいませ」
そう言うと、志筑さんは再び前へ向き直り、先導するように洋服店に入って行く。
私も後を追って店内に入った。
今し方の発言は、まったくの嘘という訳ではないだろう。
しかし、あれが彼女の本音ではないという確信があった。きっと、散々嘘吐きな男と一緒に居たせいだと思う。
今のは、志筑さんが考えて思いついた『後付の理由』だ。私に気を遣わせないための優しい理由。
彼女が私に親切にここまでしてくれる本当の理由は――。
「志筑さん」
「どうかなされました?」
「私たちは……友達かしら?」
「当たり前ですわ、ほむらさん」
一瞬、志筑さんはきょとんとした後、嬉しそうに笑った。
きっと、これが本当の理由なのだと私は思う。
********
僕は二日前にお詫びとして暁美に何かしてほしいことはないかと尋ねただけなのに、なぜか土曜日の午前十時に駅前にて私服で暁美を待つはめになっていた。
いや、理由は分かっている。奴が僕とのデートを
分からないのは暁美がデートを望んだ目的だ。
本当に皆目検討が付かない。さっぱり、訳が分からない。暁美は何を考えているのだろうか。
純粋に異性とデートをしてみたかったのか? でも、それだと僕である必然性がまったくない。
ひょっとして、万が一、まずあり得ない、限りなくゼロに近い可能性なのだが、暁美は僕に対して
うん。ちょっと想像してみたが、これはないな。特別に好意を持たれるようなことをした覚えがない。
仮に。本当に仮にだが、暁美が恋愛感情を持っていたとしても、僕は彼女を友達としか見ていない。
むしろ、異性としての見た目で言えば、暁美は苦手なタイプに入る。
僕はあのいかにも美少女然とした女の子がどうにも苦手なのだ。何というか、あまりにも顔立ちが整いすぎていて、そういった感情が少しも
もっと地味で手の届きそうな女の子の方がずっと好みだ。僕が美少女と言っても過言ではない女の子たちに囲まれても、さほど嬉しくないのはそこら辺が理由だったりする。
だから、もしも暁美にそういう気があったとしても、「ごめんなさい。これからもずっと良いお友達でいましょう」と言う他にない訳だ。
まあ、ありもしないことに思考を巡らすのはこの辺にしておくとして――。
「いつまであいつは僕を待たせる気なんだ……」
時計を見ながら、イライラする気持ちを抑えて軽く右足で足踏みをする。
現在時刻、十時十四分。待ち合わせの時刻は九時ちょうど。
そして、約束事で人に待たせることが嫌いだった僕は待ち合わせよりも早い八時には既に駅で待っていた。
計二時間十四分、僕はここで待っていることになる。別に約束の時刻よりも早く来たので一時間待つのは僕の自己責任だ。
しかし、約束の時刻を一時間以上過ぎておいて、連絡の一つもよこさないのはいくら何でも失礼だ。
行けなくなったのなら、電話なりメールなりで連絡しろよ。おかげで帰ることもできない。
僕から二、三度電話をかけたが、どうやら電源を落としているのか通じやしない。
もう、このまま帰ってしまおうかと考え始めた時、後ろから声をかけられた。
「ご、ごめんさない。大分、遅れてしまったわ」
暁美の声だった。
静かに溜めていた僕のフラストレーションが
「遅い! 遅れるなら遅れるで連絡を……」
僕が怒気を
三つ編みにした髪に、太めのフレームの眼鏡。
恥じらい気味に視線を逸らした奥ゆかしさ。
派手すぎず、目立たないながらも可愛らしさのツボを押さえたワンピース。
思わず、僕は数秒間ほど見蕩れていた。
「……あ! す、すいません。知り合いの女の子とあなたの声が似ていたもので……」
正気に戻った僕は頭を大きく下げて、女の子に謝罪する。
とんでもないことをしてしまった。こんなに可愛い女の子とあの暁美を間違えるなんて、一生の不覚だ。
しかし、頭を下げて地面を眺めている僕に女の子は信じられない台詞を口にする。
「私よ。暁美ほむらよ」
――アケミホムラ?
「……あのおっしゃっている意味がよく理解できないのですが……?」
脳内を疑問符で埋め尽くされた僕は顔を上げて、可愛い女の子の顔を見る。
可愛い。想像を絶するほど可愛い。見ているだけで気が狂いそうなほど可愛い。
「だから、政夫。私は暁美ほむらよ」
だが、その桜色の形の良い唇から流れ出る台詞は相変わらず僕の理解を超えていた。
「…………………………………………
「私の名前は暁美ほむら」
僕の精神が、僕の魂がその言葉の意味を理解することを拒んだ。
けれど、僕の脳の言語中枢は無情にもその意味を正しく理解してしまった。
「君は……ほむらさん、なの?」
「さっきからそう言っているでしょう」
僕の前に存在するこの可愛い女の子は暁美だった。
こんなに可愛いのに、暁美だった。こんなに好みなのに、暁美だった。
この異常な事態に僕の精神は崩壊しそうになるも、持ち前の根性でどうにか持ち直す。
「そ、そう。それで、今日は何でそ、その……そんな格好を?」
暁美に震え声でそう聞くと彼女は両手を自分の後ろに回し、もじもじとした動作をする。
「貴方が……こういう格好が好きだって言うから、してみたのだけれど……似合ってないかしら?」
自信なさそうに上目遣いで僕を見上げる。
くらっとした。意識が比喩ではなく飛びかけた。
犯罪的だ。犯罪的な可愛さだ、それもテロリスト級の。
「似合ってない訳ないよ。むしろ、その、ほら、うん。あ、あれだよ」
うまく言葉が紡げず、何を言いたいのか自分でも分からなくなってくる。
「あれ?」
一呼吸置いて、ようやく言いたいことをまとめながら僕は言う。
「か、可愛いってことだよ。すごく」
「そ、そう? なら頑張った
照れつつも、暁美は柔らかく微笑んだ。
「うぐっ!」
僕の心臓の拍動のスピードが物凄い勢いで跳ね上がった。まるで全速力でマラソンをしているようだ。
心臓が痛い。何だ? 何なんだ、これは?
胸を押さえてあたふたしている僕の暁美は心配そうに見つめた。
「大丈夫? 急に胸を押さえてどうしたの?」
「いや、だ、大丈夫。そのちょっとびっくりしただけ」
「それなら良いのだけれど……何かあったら遠慮なく言って。政夫の体調の方が大事だから」
くっ。何で今日に限ってそんなに優しいんだ。
やばい。本当に可愛い。惚れてしまいそうだ。
「じゃ、じゃあ、取りあえずはどこかに行こうか? 駅前でずっとこうしているのも時間が惜しいし」
このままではいけないと思い、僕は会話の主導権を握り、自分のペースに持ち込もうと試みる。
「私はこうやって二人で話している時間も楽しいわよ?」
さも平然そうに暁美は僕の心をかき乱す。
体温が確実に一度ほど上がったのをのぼせそうな頭で感じた。
「でも、遅れてしまったのは私の責任ね。やはりここは移動しましょうか?」
「そう、だね。うん」
完全に手綱を持っていかれた。
当分、巻き返しもできそうにない。
いつの間にここまでの話術を身に付けたのだろうか? これは確実に暁美に入れ知恵した人間が居ると見ていい。誰だ? 誰が暁美にこんなことを……。
暁美と並んで歩きながら意識を内側に入れて思考することで冷静になろうとした。
すると、隣を歩く暁美が僕の名前を呼んだ。
「あの、政夫」
「ん? 何?」
左手をそっと僕の方へ伸ばして、ぽつりと呟く。
「……手を握ってもいいかしら?」
その瞬間、もう僕の右手は思考と解離し、暁美の手のひらを握り締めた。
考えるよりも先に肉体が反応してしまった。
「あ……」
暁美はその速さに僅かに驚いたものの、すぐに指を絡めて握り返してくれた。
「ありがとうね、政夫」
「……………………」
駄目だ。僕もう、今日死ぬかもしれない。
僕の隣に居る女の子が可愛すぎて今にも心臓が破裂しそうだ。
次回 後編
頑張りますけど、更新はお待ちください。
ちなみに私は結構、仁美のキャラ好きだったりします。
わかめは身体に良いのです! 好き嫌いは駄目ですよね!