1話 くざん
「もし、私がいない間になにかあったら、ガープさん……いや、年齢的にクザンの方がいいか。クザンに頼るんだ」
「くざん……?」
「そ。クザン。そのへんにいる海兵に、クザンに繋げって言えば、伝えてくれるから。覚えた?」
「くざん」
「そう。いい子だ。何もないのが、一番なんだけどな」
*****
これほど荒れた島は、数百年見たことはなかった。東の海の小さいながらも穏やか気候。
だが、突然、その島は噴火によって表情を変えた。
前触れは無く、激しいマグマや火山弾は村を焼いた。辛うじて助けに来た海軍が救出できたのは、村の人口の1割程度。
今も噴火は続いていたが、島を囲うように広がる氷によって、マグマはせき止められていた。
「助かりました」
途中で自転車でやってきた男によって。
「にしても、ガキが多いな」
「なんでも、孤児を預かる施設があったとかで」
軍艦に乗っているほとんどが子供だった。
支給された毛布にくるまり泣いていたり、衰弱して眠っていたり、呆然と座り込んでいたり。
「その施設やってたやつは?」
「子供たちを庇って」
「……そうか」
大海賊時代なんて名がつく通り、現在海賊は多い。それに伴い孤児も多くなった。
この子達を預かっていた人のような良い人間も入れば、わざと頼りのない子供を狙う悪い人間もいる。できれば、海軍としてはどこか信用の置けるところに預けたいところだ。
「しかし、クザン中将に来ていただいて助かりました。今だに火山活動が収まりませんし。最近穏やかだった分、一気に来たのか……」
「自然ってのは怖いねぇ」
クザンが息を吐き出しながら、船尾まで歩き、島を見れば、今だに山の上から噴いている赤い滴。
ひどいもんだ。と、頬杖をつくと、ズボンの裾が引かれる感覚。
「ん?」
いたのは、毛布を羽織っている黒髪で緑の眼をもつ少女。
「クザン。クザン」
「あらら……お嬢ちゃん、俺のこと知ってんのか?」
確かにどこかで見覚えのある顔だが、やはり覚えていない。
「クザン。海軍の、クザン」
「あー……海軍にクザンってのは、俺以外にもいるとは思うが……」
「お姉ちゃんがいない時に何かあったら頼れって……」
「お姉ちゃん? 君の?」
頷いたが、少女と年が離れているとしても、年齢的に妹を預かるほど親しい仲の女性に覚えがない。可能性のひとつとして、娼婦も思い浮かべたものの、だったらお姉ちゃんではないだろう。
「んー……クザンのあとに、中将とか少尉とかいってなかったか?」
首を横に振られた。呼び捨てにできるような上の階級、もしくはやはり別人で、そちらのクザンは階級が低いのか。
「カーブ、さん? は、歳、だからって……」
「……ガープさん?」
はっきりしないような表情をしているが、海軍でガープといえば英雄ガープ。他に聞いたことはない。歳は確かに、歳と言われてもおかしくない年齢はしている。言ったことがバレたら、ゲンコツだろうが。
「待って。君のお姉ちゃん、なにもの?」
頼れというのだから、親しいのかと思ったが、英雄ガープが出てくるのは少しおかしい。
もしおかしくないのだとすれば、少女のお姉さんは相当の人間だ。
「……」
しかし、少女は一瞬口をつぐむと、下を向いた。
言いたくないとなれば、なおさらだ。
この平和な海の穏やかな島にこの子を隠していた可能性がある人物。
どう考えても、危険な香り以外しないが、それでも名指ししてきたとなれば、確認するしかない。
「たぶん、そのクザンってのは俺のことだ。だから、なんつーか、秘密にするからさ。お姉ちゃんの名前、教えてくれねぇか?」
「……」
「お姉ちゃんにもあんまり言うなって言われてんだろ?」
そういえば、少女はゆっくりとクザンの耳元に手をやると、その名前を囁いた。