目の前に座るセンゴク。追い出されたクザンも外で待っているようなことはしていないようだ。
他にも近くにいる海兵はいない。
「聞きたいことはご満とあるが……」
「はい」
センゴクが額に手をやりたくなるのもわからなくはない。それだけ大きな爆弾の自覚はある。
「正直に言うと、お前をクザンの副官にするのは反対なんだ」
「私も同じ立場であれば同じことを言います。むしろ、今回の場合、クザンが海軍大将から逸脱した行為といえます。元帥の命であれば、無かったことにすることも可能です」
テディの言葉に、センゴクもため息をついた。
テディの言うとおり、クザンの申し出を却下することもできる。できるが、
「うるせェジジィがいてな」
もうひとり、テディの味方をしてやれという、うるさい中将がいるのだ。
「今回の件は飲むことにしたが……まともな海兵ってわけにはいかないぞ」
「承知しています。出世などは考えていません。ですが、ひとつ、お願いがあります」
「なんだ?」
「すぐに私の情報はCP9へ伝わります。ですから、ところかまわず暴れる海賊がいる場所へ、クザン抜きで派遣をしていただきたい。海賊の捕縛も確実にこなします」
「死ぬ気なら許可せん」
「つまり、死ぬ気でなければ許可すると?」
「そうだ」
感情のない紫色の目が、少しだけ細まった。
「大将になったばかりのクザンがすぐに副官を失えば、あいつの立場にも傷がつく」
「なるほど。そちらには気が回っていませんでした」
冗談なのか本気なのかはわからないが、見かけない海兵を副官にして、短い期間で、しかも自身から離れた場所に出撃し死んだとなれば、クザンの立場や評判は悪くなるだろう。
「ですが、こうなった今、CP9に一度接触しておきたいのは事実です」
「理由はなんだ?」
珍しく一瞬、戸惑うように口が動いた。
「…………ユイのためです」
それはセンゴクもガープから聞いていた。クザンが東の海の火山騒ぎで預かったという少女の名前。
確認しておきたいことのひとつ。
「そのユイってのは」
「おそらく想像通りの人物です」
センゴクもその言葉には眉をひそめるしかなかった。
「そうか……ってことは」
テディは何も答えなかった。それが答えで肯定。
「その子は、知ってるのか?」
「はい。その上で、私を許すと。だから、せめてあの子だけでも救ってあげたいんです」
自嘲気味に笑うテディに、センゴクも大きくため息をついた。
「元帥?」
「テディの言い分はわかった。私からの要求だが、まずクザンの奴は今後、海軍に必要な人材だ。立場が危うくなることは避けてもらう。ふたつ、CPと事を構える時は先に報告すること。三つ、現状海軍本部にいるCPのメンバーを教えてもらう」
センゴクにとっても、政府の味方だとしても海軍の中にスパイのようなものがいるのは気に食わないのだろう。言ってしまえば、かつての仲間への裏切りだが、すでに裏切っている身にとってその程度、問題ではない。
「わかりました」
頷けば、センゴクは少しだけ肩の力を抜くと、椅子に体を預けながら言った。
「それから、テディ。年寄りの戯言だがな」
「子供ってのは思っている以上に成長が早い……か」
隣で眠っているユイに目をやりながら、微笑んだ。
「あれ? ユイちゃん、寝ちまったか」
上半身裸で、肩にタオルをかけながら部屋に入ってきたクザンは、そのまま酒を取り出すと、テディにも飲むかと聞いてきた。
「結構です」
「連れねぇなぁ……」
「能力的に酔いたくないので」
「別に何かあっても俺が守ってやるが……まぁ、テディちゃんの能力、集中力必要そうだもんな」
酒の代わりにジュースを取り出して渡す。その時、ふと見えた、胸元のペンダント。紫色の細い石に紐がつけられているだけの簡単なものだ。
「それは?」
「お守りです」
「ユイちゃんがくれた?」
「……えぇ」
「なんでわかった? って反応だな? こう見えても、案外、俺、すごいんだぜ。海軍に入りたての頃は、出世頭で次世代の海軍を担うってちやほやされててなぁ……って、ちょっとは驚けよ」
まったく驚かないテディに、クザンも自画自賛するのをやめてしまう。やはり、こういうのは少しは反応が欲しい。
「あなたのことは知っています。CPの方でも有名でしたし、海軍であろうとCPは入り込んでいますから」
それは、上層部であれば誰もが知っている。というより、察しがつく。便宜上、協力関係だが、お互い隠し事だってある。
クザンは一口酒を飲むと、眠るユイに目を落とす。
「将来が有望そうだな」
ぷにぷにと頬をつつけば、テディの方へ近づき、ピタリとくっついた。
「……ふふっ」
思わず吹き出したテディに、クザンは驚いて目を見開いたが、すぐに大げさに肩を落とした。
「これがアレか……娘に嫌われる父親ってやつか……結構傷つくな」
だが、その口は笑っていた。
***
「ぎゃーっははは! 考えたな! 海軍大将に取り入るなんてな!」
「笑い事じゃねぇぞ!」
ソファで笑いこける三つ編みの男、CP9のジャブラ。それを怒鳴りつけたのは、CP9長官であるスパンダムだ。
CP9にも、新たな大将の情報と共に副官の情報も入ってきた。そこには、見覚えのある名前。
「どうりで最近尻尾が掴めたわけだ。あのテディが、尻尾掴ませるなんて珍しいと思ったぜ」
「それで大将の副官だったじゃ、意味がねェんだよ!」
「ま、まッ、安心なされぇい! 大将の副官っていうなら、行動も容易く想像できるってもんでしょう」
「ま、まぁ……そうだな」
スパンダムは、クマドリの言葉に落ち着きを取り戻すと、ニヤリと笑った。