テディがクザンの副官になってから1週間と数日。
驚くべきことに、クザンが溜めに溜めていた書類は、全て処理が終わっていた。もちろん、大将なだけに毎日のように大量の書類が届くのだが、前のように他の部署から催促がくるようなことは無くなっていた。
「テディ中尉」
「はい」
廊下を歩いていれば、声をかけられることもだいぶ増えた。
「2日後の出撃要請のことなんだが、近くの海域で海王類が活発に活動していると聞いたんだが」
「あぁ……調査報告が出ていました。繁殖期のため、近隣の島の漁場近くに現れることが多いそうです。すでに島に勧告済みですので、特に追加の任務はないとのことです」
「そうか」
「テディさん! ちょうどよかった。確認お願いします」
「はい」
走ってきた若い海兵から書類を受け取れば、中身に目を通す。特に問題はなさそうだ。
「前にクザン大将の副官してたやつが驚いてたぞ。あの量の仕事を片付けるなんて!ってな」
「すごいんですよ! ようやく仕事も落ち着いてきて、ね!」
「えぇ、そうですね」
「中尉は、本部にも慣れてきたか? 支部と違って、とにかくどれも規模はデカいし、数も多い! 俺なんて会議室覚えるのに半年かかったな」
「多いですもんね」
本部は会議も多く行われるため、大きいものから、小さいものまでとにかく数が多い。支部からやってきた海兵の難関として有名だった。
「まだ迷いそうになりますよ」
「だよな! 事務は無理だが、本部の案内なら任せてくれ!」
「では、今度迷った時に」
「おう!」
「そういえば、前の支部はどんなところだったんですか?」
「ここよりもずっと小規模なところでしたよ。書類は問題ありませんので、このままクザン大将に渡しておきます」
「あ、はい。お願いします」
「では、失礼します」
テディは微笑みながら軽く頭を下げると、執務室へと踵を返した。
その背中へ、労いの言葉をかけようとした男は、その先に見えたクザンに慌てて上げた手を敬礼に切り替えた。
「さっきまで笑ってたくせに」
「コミュニケーションは大事ですよ」
「……テディちゃんのは、少し違ぇ気がするけどな」
諜報員なだけあって、表情を作るのはできる。だが、感情は全く読み取れない。
ユイといる時とは大違いだ。
「にしても、確かに量減ったよな」
執務室に積み上げられている書類の量が、見るからに違う。
「少し時間は掛かりましたが、本部の情報流れと管轄は理解しましたので、少しは楽になりますよ」
「マジか……テディちゃん、化け物かよ……」
多少心得があったとはいえ、一週間で本部の管轄を理解し切るなど、クザンも驚くしかない。
「あんまりやりすぎると疑われるぞ」
見たこともない海兵が突然、大将の副官をして、その能力があまりに出来すぎるなど、話題にならなかったほうがおかしい。意味も無く探られるのはテディにとっても不利益だろうし、本部にいる将校クラスなら、裏に何かいるのではないかと疑ってかかる可能性もある。
CPも世界政府の機関ではあるが、なにかと手柄の取り合いや衝突も少なくない。波風を立てたくないなのだから、内部の火種をわざわざ作るようなことはしたくないだろう。
「もちろん多少は隠しています。それに」
「それに?」
「どうやら、私はあまりにも事務仕事を溜めるクザン中将もとい大将のために、元帥が事務処理能力の高い海兵をどこかの支部から引っ張ってきたのではないか。と噂されていますから。適当に合わせています」
「へぇ……」
そういえば、何度かテディの噂を聞いたことがある。事務処理が速いといったことがほとんどで、会計などの処理が多いところが密かに狙っているだとか。
たまにガープとの組手のこととか。
「この書類、今日中にお願いします。他は急ぎではないのでいつ上がっても問題ありません」
「はいはい」
クザンが書類に目を落とせば、テディも別に積まれた書類に目を落とす。
『女であるふたりに聞きたいことがある……! 女はどんな男に惚れるんだ!?』
『『……』』
『カリファ』
『一般的に、賢い、金、権力、腕力、優しさ、高身長といったものをどれだけ多く持ち合わせているか。というのが惚れる確率を上げる方法です。が、それら全てに、イケメンである。ということが必要不可欠です』
『だそうだ。諦めろ』
『どういう意味だァ!? テディ! テメェ!!!』
ふと頭によぎった光景に、テディは小さくため息をつくと、クザンの方を見た。事務仕事が嫌いだとはいえ、さすがに大将になるだけあり、必要となればしっかり行う。
近くで見ていれば、なおさら信用できる人間だ。
「……!」
書類にサインをいれ顔を上げれば、書類をチェックしているテディ。
だが、その目は柔らかいもので、仕事中にはありえないことにしばらく呆けて見つめてしまう。
(ユイちゃんのことでも考えてんのか……? それとも……)
クザンは肘を付きながら、テディに気づかれるまで少しの間、眺めていた。