大海賊時代と呼ばれるだけあり、偉大なる航路に挑戦する海賊は多く、母数が増えればそれだけ生き残る海賊の数も多くなる。
偉大なる航路に挑戦する海賊の半数は自然に負け、残りの中でも海賊同士で潰し合いが起こるため、すべての海賊を相手にしなければならない。というわけではない。
だが、同時に、海軍が相手にするのは、そのような過酷な中を突破してきた手強い海賊となる。
「テディ中尉?」
「すみません。急いでいますので」
足早に歩いていくテディに、声をかけた海兵も何かあったかと、首をかしげたのだった。
執務室で大あくびをしていたクザンは、でんでん虫の音に手を伸ばし、あくびをしたまま受話器を取る。大抵の場合、問題ないのだが、今回ばかりは聞こえてきた声に受話器を危うく落としかけることになった。
『テディはいるか?』
海軍元帥であるセンゴクだ。
あくびを悟られないように、静かに大きく開けていた口を閉じたと同時に開いたドア。テディだ。
テディはクザンの手にあるでんでん虫を見ると、足早に近づいてくる。
「元帥ですか?」
『あぁ。その様子だと聞いているな?』
「えぇ。ちょうど連絡しようかと思っていました。許可をいただけますね」
「ちょっ……なんの話?」
『許可する。モモンガ中将が既に向かっている。協力して”植種”を捕縛しろ。生死は問わない』
「了解」
目を閉じたでんでん虫にテディが前屈みになっていた姿勢を戻せば、クザンがじっと見つめていた。
「説明してもらえるか?」
「新世界から逃げてきた”植種のシード”が暴れているため、モモンガ中将が派遣されています。私も応援としてこれから向かいます」
「そういうことなら、俺が行ってもいいだろ。テディちゃん、後ろ乗りなよ」
先程、センゴクは軍艦を出すと言わなかった。まるでテディひとりで行くかのように。
事実、テディひとりで海を渡ることは可能だし、距離によっては軍艦よりも速いことだってあるだろう。
「必要ありません。新世界から逃げてきた海賊なら、海軍大将が出るほどではないでしょう。中将が派遣されていますし、戦力に問題ありません」
「テディちゃん。今、本部から離れて、しかも俺から離れるって意味わかってる?」
いくらCPが紛れ込んでいるとはいえ、ここは海軍本部。おいそれと暗殺も誘拐もできないだろう。
それこそ、本部を離れる必要がある時も大将であるクザンが近くにいるとなれば、それだけで手は出せない。
「もちろん。CP9と会ってきます」
はっきりと言い放ったテディに、言葉が詰まった。
「信用できませんか」
「――――」
突き刺さる紫の視線。
「……あなたが危惧していることは、元帥に止められていますので安心してください」
「あ、あぁ……」
安心したのも束の間、
「確認と、少々脅迫を」
別のことが気になった。しかし、もう行かなければならず、テディは執務室を出ていった。
ひとり残されたクザンは、椅子に体を預けると大きく息をついた。
『信用できませんか』
それは黒い服を着たまだ小さな少女に言われた言葉。
感情は、読み取れなかった。あの時も、今も。
「あぁ……クソ、モラルとか知識しかねぇもんなぁ……」
あの時、クザンが言った言葉の意味も理由も、きっと知っている。だが、理解していない。
だからこそ、あんな言葉を言えたのだ。
「……で、”植種”だったか」
テディの敵ではないとは思うが、一応確認しておくかと、手を伸ばした。