テディベアの傍らに   作:こっここーまん

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14話 CP9

 目の眩むような無数の蝶は、吹き荒れる強い風に乗り、荒れ狂う。

 蝶の隙間から見えた黒いそれは、テディの腹に両腕を突き立てていた。

 

「――ッ!」

 

 認識してから刀を抜くのは速かった。

 しかし、収まってきた蝶の嵐から見えてきたのは、徐々に形を失っていくテディの姿。その体は徐々に蝶に姿を変え、黒いそれの背中に集まりながら、襲ってきた敵の構えとよく似た、両手の拳を突き出すテディの姿が形作られる。

 

「六王銃」

 

 静かな言葉と共に、黒いそれは倒れた。よく見れば、黒い服を着た狼のような男。おそらく悪魔の実の能力者だ。

 テディがその男の背中から降りるよりも早く、その背中に迫る何かに声を上げようとした瞬間、殺気。

 

「!」

「チャパッ!?」

 

 背後の気配に、振り返りながら刀を振れば、気絶している男と同じ服を着た口のチャックが特徴的な男。

 

「貴様、シードの一味か」

「チャパパパ。さすがは海軍中将だ。俺に気づくとは」

「質問に答えろ」

 

 薄ら笑いを浮かべている男に、武装色の覇気を纏わせて刀を近づければ、少しだけ慌てたように口を開く。

 

「海賊の仲間ではない」

「なら、何故私たちを襲撃した?」

「チャパパパ。任務だからだ。テディの暗殺のな」

 

 後ろから聞こえてきた倒れる音に、刀は動かさずに目をやれば、長い髪がうねる大男が棒を地面に突き立てながら立っていた。それに対するテディは、特に負傷している様子もない。

 

「随分と逃げ腰だな。クマドリ」

「テディに向かうってんならぁ~これくれぇ~するってもんよ」

「……」

 

 既に気絶しているジャブラとは違い、クマドリは回避に専念していた。

 攻撃力と機動力が最も高いジャブラが、死角から一撃で仕留めるつもりだったが、失敗。クマドリたちがフォローに入る前に、気絶させられてしまった。

 仕方なく、クマドリは暗殺よりも回避の方を優先していた。それはテディにとっても都合が悪かった。少なくとも、挑発して向かわせてこようとする程度には。

 

「生命帰還を使えるやつぁ~しぶてぇってのぁ~よ、よぉ~~くっ! わかってんだろぉ~い!」

 

 そして、クマドリにとっても不都合なことがあった。フクロウがモモンガに捕まっている状況だ。これでは、フクロウは動けない。故に、ジャブラが気絶から回復するのが早いか、テディの攻撃に耐え切れなくなるのが先か。

 

「そうだな」

 

 テディが手を伸ばす。その手が解けるように蝶へと変わっていく。

 

「よく、知ってるよ」

「鉄塊!!」

 

 周りと飛ぶ蝶が羽ばたくと、その風は刃となってクマドリを襲う。いくら、固くしているとはいえ、絶え間なく続く攻撃に耐え切れず、ついに倒れた。

 

「貴様らはいったい……」

「CP9」

「!」

 

 さすがに中将であるモモンガは知っていた。世界政府諜報機関の表向きには公開されていない機関。政府にとって都合の悪い人間であれば、一般人であろうと暗殺するという、初めて聞いたときには耳を疑った機関。

 その存在は海軍であっても、中将以上でなければ実際関わることはないし、海兵のほとんどがCP9の存在を知らない。

 知っていることいえば、異様に若く、六式を使いこなす人間が構成している組織だということ。

 

「相変わらず口が軽いな。フクロウ。そのチャックはなんのためにあるんだ」

 

 こちらを見るテディに、フクロウはチャックを閉めて、何も答えなかった。

 

「巻き込んでしまいましたね。申し訳ありません」

「どういうことか説明してもらいたい。テディ中尉。いや、本当に中尉なのか?」

「元CP9だ」

 

 いつの間にかまたチャックを開けていたフクロウに目をやれば、また素早く閉じた。

 それだけで、フクロウの言葉が嘘ではないことは想像できる。テディは小さく息をついた。

 

「それが言うとおり、私はCP9を抜けたため暗殺対象であり、その暗殺に中将を巻き込みそうになった。ということです。できれば、このことは内密に」

「クザン大将は!? このことを知っているのか!?」

「知っています」

 

 モモンガが眉をひそめていれば、テディは片腕でクマドリの懐を探ると、でんでん虫を取り出した。

 特徴的なコール音に、モモンガも聞きたいことを飲み込んだ。

 

『……やったか?』

「お久しぶりです。スパンダム長官」

『!!! テメェは……!』

「随分と派手なことをしましたね」

 

 向こうから歯ぎしりをする音が聞こえる。

 

「海軍大将の副官を狙うなんて、貴方にそのような度胸があったことに驚きです」

『なにが驚きだ。人形のテメェが……わざわざ電話まで寄越しやがって』

「大した用事ではありません。ただ、煩わしいんですよ。迷惑です。なので……

 黙っていただけないかと」

『ぁ゛……? うわぁあぁあっ!? テメ、なっ!? いつから!?』

 

 椅子から転げ落ちたスパンダムの視線の先にいたのは、一匹の蝶。

 それはテディの一部であって、羽ばたきは六式のひとつである”嵐脚”となる。それを知っているスパンダムにとって、その蝶が部屋に、自分の目の前にいることはナイフを突きつけられていることと同じだった。

 

「初めからです。逃走した、その時から。貴方方の動きは常に探っていた」

 

 CP9だけは鉢合わせないよう動いていた。だが、大将(クザン)という信用できる人間がいるなら。

 

「どうしますか? 交渉しかできない長官殿」

『て、テメェ……自分のやってること、分かってんだろうなぁ!?』

「この状況でも憎まれ口とは、随分と強くなられた」

『や、やめろ!!』

「貴方が常に私を狙うように、貴方は常に私に狙われていることをお忘れなきように」

『チッ……裏切ったショカンのヤローを一家残らず抹殺した奴が、今度はテメェが裏切りとはな! いいか!? 逃げ切れると思うんじゃねぇぞ! テメェも師匠と同じ末路を辿るんだよォッ!』

 

 捨て台詞を残して切れたでんでん虫。

 

「……」

 

 テディは目を瞬かせながら呆然とそれを見つめると、フクロウのチャックをこじ開けた。

 

「ショカン暗殺の報告書はどうした?」

 

 珍しく焦る声に、モモンガも驚くが、フクロウは特徴的な笑いを洩らすだけ。

 

「俺は口の固い男だ」

「本当に開かないようにしてやろうか」

「チャパパパ、テディとルッチの戦いは激しすぎて、俺たちも復元に手間取ったぞ」

 

 テディはゆっくりと手を離すと、フクロウは素早くファスナーを閉じた。

 

「中尉……?」

「……すみません。巻き込んでしまい」

「それは構わない。それより……大丈夫か?」

 

 明らかに動揺していた。もちろん、表面上落ち着いてはいるが、先程のスパンダムとの会話の後から、今まで感じなかった感情が微かに感じられていた。

 

「大丈夫です。それから、シードですが、村の先で気絶させましたので、捕縛をお願いします。罠も発動しないはずです」

「いつの間に……」

 

 会話の途中で、テディの腕に戻ってくる蝶。会話の間に、シードを倒しに行っていたのだろう。

 モモンガは待機させていた部下に連絡を取ると、テディの方へ向き直る。すでに、CP9の3人は消えていた。

 

「先に戻ります」

「ひとり増えたところで、食料には問題ないぞ」

「お気遣い感謝します。ですが、遠慮させていただきます」

 

 すっかり先程の動揺は消えていた。読めない感情。

 モモンガはそれ以上何も聞かずに、テディが去るのを見送った。




やっと能力を出せた…!
以下、テディの悪魔の実の解説です。


ムシムシの実(モデル:タテハチョウ)
 動物系の能力者。

 普通に使えば、1匹の蝶に変身するが、テディの場合、生命帰還を応用して大量の蝶に変身する。蝶1匹1匹が体の一部のため、潰されればその部分は欠損した状態となる。
 生命帰還で制御できる限りは、蝶は別々の行動を行う。そのため、本人の調子によっては、蝶の扱える数が減る。それが理由で酒も飲まない。
 細分化するため、サイズは小さくなり、小さな場所でも潜入可能となり、どんなに頑丈な部屋に閉じこもっていても、空気穴から潜り込めるため、重宝していた。

 他の動物系の空を飛べる能力者に比べて、飛行速度は圧倒的に落ちるが、使用者本人が剃や月歩などを使いこなせるため、蝶が月歩するし、嵐脚もする。

 ちなみに、能力を手に入れた当初は、CP9から「弱そう」「動きがゴキブリ」「選んだ長官のセンスがない」など、散々な言われようだった。
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