テディベアの傍らに   作:こっここーまん

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2章
17話 たしぎ


 マリンフォードに住む子供たちは、全員が海兵を親に持つからか、遊びといえば”海軍ごっこ”と呼ばれる、チャンバラと鬼ごっこを組み合わせたような遊びがよく行われていた。

 内容は単純で、海賊と海軍に分かれ、戦い、海賊側が勝つと逃げ、海軍が勝つと確保となる。海賊側が全員捕まると海軍に捕まると攻守交代となるため、海賊が勝ちはない。そのため、なかなか終わらないことも多い。

 例えば、海賊側に強い子がいるとか。

 

「覚悟ォォ!!」

「たっ!」

 

 海軍の少年が降り下ろす木刀をかわすと、素早く海賊の少女が的確に手首へ木刀を振り下ろした。

 

「うわっ!!」

「よっ……ほっ!」

 

 木刀を落とした隙に、するりと背よりも高い壁を上る。

 

「ここまでおいでー!」

 

 海軍ごっこでは、一応、腕をつかまれれば確保ということになっているが、なかなか捕まえられない子もいるわけで、ユイは捕まえられない子のひとりだった。

 

「くっそぉぉおお! 女のくせに!」

「コラッ!」

 

 突然入ってきた怒鳴り声に、ユイと少年は驚いたようにその声の方を見れば、メガネをかけた本物の海兵が立っていた。

 

「え?」

「女だからってバカにしない! あなたよりも彼女の方が強かったってだけでしょ!」

「ぇ、あ、ご、ごめんなさい……」

 

 その剣幕に少年もつい謝れば、メガネの女は素直な少年に笑顔で頷くと、次はユイの方へ目を向ける。

 

「あなたも! そんな場所に登ったら危ないでしょ。遊ぶのはいいけど、危ないことはしない!」

「ご、ごめんなさい」

 

 そういって、抱えて下ろされた。前にも似たようなことがあったような気がする。

 女海兵は素直なふたりに笑みをこぼしていると、別の場所で攻防を繰り広げていた子供たちが不思議そうにこちらの様子を伺っていることに気がつくと、慌てて手を横に振り、転んだ。

 

「だ、大丈夫!?」

「怒ったり転んだり、なんなんだよ……アンタ」

「ご、ごめんなさい! 遊びを邪魔するつもりはなかったんです! ただ少しやりすぎかなって……とにかく、みんな仲良く安全に遊んでくださいね!」

 

 それだけ言うと、女海兵はズレたメガネをかけなおし、去っていった。

 

***

 

 友達と別れて町を歩いていると、ふと見かけた先程の女海兵。

 海辺に座って、俯いている。

 

「海兵さん」

「はい? って、あ、さっきの……」

「どうしたんですか? どこか痛いですか?」

「い、いえ! 至って健康です!」

 

 強がるように笑う彼女は、あの無表情をつけたようなテディの感情を誰よりも理解できるユイにとって、わかり易すぎた。

 隣に屈み、のぞき込めば、目を泳がせついに下を向く。

 

「仕事で……その、女ってだけで、バカにされて」

「それって、さっきの?」

「あ、違います! 私が言われたんです。それで、さっきもつい……ごめんなさい。遊んでたのに、気分悪くさせてしまって……」

 

 海軍は実力主義ではあるが、男社会でもある。かつて通っていた道場よりは『女だから』と言った言葉は出てこないし、大参謀と呼ばれている中将も女性で、将校にも女性は多くいる。

 しかし、それでも女というだけで、蔑まれることがある。

 つい先程も「女なら東の海はちょうどいいかもしれない」と、悪意のない言葉が発され、ずっと胸に引っかかっていた。

 

「別に、東の海が悪いわけじゃないんですよ。平和の象徴で、私も好きです。でも……」

「私も好きだよ! 東の海!」

「行ったことあるんですか?」

 

 ここには海軍本部に勤務する海兵の家族も住んでいる。この歳であれば、おそらく誰かの娘だろう。

 しかし、いくら本部の人間とはいえ、休暇を取って偉大なる航路を抜け、東の海に行くのは大変だ。

 

「うん。東の海からこっちにきたんです」

「そうだったんですね。私、今は東の海で勤務しているんですよ。もしかしたら、ご両親のこと知ってるかも」

 

 東の海の勤務で、本部に移動になったなら相当な地位に名声があるはず。別の駐屯地でも噂を聞いたことがあるかもしれないと思ったが、ユイの顔はなんとも微妙なものだった。

 

「あ、そ、そうですよね! 私も子供の時は両親の仕事、ちゃんと知りませんでしたし!」

 

 海兵というくらいしか知らない場合もある。

 

「こんなところにいたのか」

 

 声に振り返れば、紫色の髪と目の若い女。

 

「お姉ちゃん? あれ? 仕事は?」

「休憩中。あと脱走した奴の捜索」

「手伝う?」

「急ぎの仕事はないからいいよ」

 

 会話からして、おそらく海兵だ。しかも、支給された服を着ていないところを見る限り、将校クラス。

 

「あ、たしぎ二等兵です!」

「テディ中尉です」

 

 慌てて立ち上がり敬礼をするたしぎに、テディも軽く返す。

 手を下ろしたたしぎは、背筋を伸ばしながら、ユイとテディを見比べ、首をかしげた。

 

「あ、あの……失礼ですが、ご姉妹……ですか?」

 

 言ってはなんだが、まるで似ていない。髪の色や目の色が全く違う。

 

「いえ、私が預かっているんです」

「それって……」

 

 わざわざ本部勤務の海兵に子供を預ける親はそういない。海軍や世界政府ならば話は別だが、マリンフォードは少しの間預けるというには交通の便は悪すぎる。

 つまり、彼女の両親は。

 

「す、すみません!」

「え!? だ、大丈夫ですよ!? 今はお姉ちゃんもずっと一緒だし!」

 

 頭を下げるたしぎに、ユイも混乱したようにテディの腕を掴むと、先程までの会話を伝えた。

 

「そ、それでね! 女だからってバカにされたんだって」

「海軍は実力主義なので気にしなくてもいいと思います。それに、貴方の場合、経験が足りないでしょうから、最初から偉大なる航路勤務はおすすめしません」

「は、はい」

「経験を積むなら、東の海のローグタウン辺りですかね?とにかく、海賊との遭遇率は高い。検挙率はなんとも言えませんが」

 

 それは東の海の支部でも有名だ。平和な東の海では、偉大なる航路に入るの直前の町としてローグタウンは桁違いに海賊との戦闘は多い。だが、本部から見れば桁違いに少ない。その割に検挙率は悪い。

 もはや、あまりの低さに「ローグタウンの方がマシだ」と罵られる文言にも使われることもある。

 

「隙は多いですが、動きは悪くないので、ローグタウンなら十分通じると思いますよ」

「ほ、本当ですか!?」

「実際に戦闘を見たわけではないので、確実とは言えませんが」

 

 たしぎが嬉しそうに口端を上げているよりも、テディが気になったのは少しだけ顔を伏せているユイの方だった。

 

「ユイ?」

「みんな、元気かな?」

「ひとつじゃ抱えきれなくて別れたから、全員の安否が確認できるかはわからないが……確認してみるよ」

「ぇ、もしかして……あの噴火の」

 

 東の海で起きた大事件と言えば、数ヶ月前に起きた噴火だ。火山活動は収まったが、今だに戻れる見込みは立たず、住人はいくつかの島に別れて暮らしている。

 そのうちの数名が今だに、連絡がつかないと言っていたはずだ。このご時世、海賊に捕まったのでないかと心配する声も多く、たしぎもできるだけ情報を集めていた。

 

「うん。家がなくなっちゃって……それで、こっちに、暮らしてて……」

 

 ユイがテディを見れば、微笑まれた。

 

「そうだったんですね! ちょっと待ってください! 確か、行方不明者の名簿がここに……」

 

 たしぎが取り出した名簿には、いくつかの名前に線が引かれていた。生存が確認できた人だ。テディものぞき込めば、ユイの名前があった。

 

「……」

「あ! これ、私!」

「よかった! 近くの島で確認を取ってたみたいなんですけど、結構漏れてたみたいで」

 

 おそらく、クザンがそのままチャリで連れ帰ったのだろう。そして、連絡を忘れた。

 

「すみません。連絡を入れるのを忘れていました」

「大丈夫です! 私が伝えておきます」

「ありがとうございます。それより、時間、大丈夫ですか?」

「ぇ……? きゃぁ! 時間!!」

 

 慌てながらもしっかりと頭を下げてから走っていくたしぎに、ユイですら心配になるが、そっとテディの腕に手を伸ばした。

 

「?」

「みんなに、会いたいって、やっぱり、ダメ、だよね」

 

 ユイもテディが逃げていることは知っていた。だから、前の施設の友達と会いたいとは言わなかったし、マリンフォードの友達と遊ぶことも少しだけ控え、ガープの元へ行くことが多かった。

 しかし、今は言ってもいい気がした。

 テディは首を横に振ると、ユイの前に座る。

 

「いいよ。今度、会いに行こう」

「いいの? 本当に!?」

「あぁ」

 

 抱きついてきたユイを抱きとめながら、テディは長期休暇が取れそうな日程を考えていた。





一応、クザンとしては、ユイやテディのことを考えて行方について連絡をいれるのを先延ばしにしていました。
が! テディが来てからはすっかり忘れてたし、めんどくさいという理由で連絡を入れてません。
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