密売グループの捜索が開始してから3日。
ガープやボガードからアジト発見の報告はない。
「たしぎ、まだ本部の中尉の手伝いしてるのか?」
「はい。色々、勉強になることを教えてもらえるので。それに、少し心配なところもあって」
「心配?」
「物事に没頭するタイプみたいで、食事も取られないことがあるんですよ」
「お前はあの中尉の秘書かなにかか?」
「ち、違います!」
「ま、ほどほどにがんばれよ」
先輩に肩を叩かれ、ため息をつきながら普段は使われない会議室のドアを開ける。
テーブルの上には、改ざんされた報告書の他に、出兵した兵の名前の帳簿や航路など、とにかく膨大すぎるファイルの山。
「テディ中尉。休憩にしましょう」
この3日、たしぎはテディの情報処理を手伝っていた。その際に、改ざんの跡を探す方法や犯人探しの仕方を教わっていた。
ただ、テディのあまりにも没頭し、食事や水分補給を忘れるクセに、たしぎは必ず休憩時間を設けるようにしていた。
「なかなか見つかりませんね。早く捕まえて、ユイちゃんのこと迎えに行きたいですよね」
休憩の間に、いろいろなことを話した。ユイのことはそのひとつ。
「それについてはそれほど……ユイも久々に会った友達ともっと一緒にいたいでしょうし」
「そっか……そう考えると難しいですね……」
軍艦をそのためだけに停泊させるわけにもいかない。迎えに行けば、その場でお別れになる。しかも、次はいつ会えるかわからない。
「そういえば、中尉は本部の前はどこにいたんですか? 東の海ですか?」
「偉大なる航路の小さな駐屯地です」
本当に少しだけ、微かにだが瞳が揺れた。
「?」
「あ、いえ……その人たちのこと、好きだったんですね」
「……さぁ、どうだろう。腐れ縁、みたいなものですし……」
好きとか、嫌いとか、そんなことを考えてもみなかった。必要とあらば切り捨てるし、誰もが明日生きているかわからない。
「そうですか? なんだか、ユイちゃんのこと話している時と似た目をしてましたよ」
楽しげに笑うたしぎに、テディは何も答えなかった。
たしぎがカップを片すため、部屋を出ていけば、テディはでんでん虫へ手を伸ばした。
カップを洗い終えると、自分の机に新しい仕事がないことを確認してから、テディの元に戻ろうと向かっていれば、何か切羽詰った様子で人気のない場所へ向かう先輩の後ろ姿。
「?」
何かあったのかと追いかければ、でんでん虫に向かって何かを話している。
「あのガープが向かってるんだ……! とにかく逃げろ! パパベリン」
「ッ!!」
それは密売グループのリーダーの名前。
「誰だ!? た、たしぎ? そうか……聞いちまったのか」
つい先程まで行なっていた内通者探しの名簿で、確かに先輩の名前は除外されていなかったが、まさか先輩だとは思っていなかった。
しかし、先程の会話はあまりにも決定的だった。
「どうして……何故、海賊に手を貸したんですか!?」
「手を貸したんじゃねェよ」
刀を抜いた先輩に、たしぎも刀を抜いた。
「悪ィがここで死んでくれ。あの無能な中尉に告げ口されちゃ、困るからな」
「ーーッ」
刀が触れ合う音。何度も手合わせをした。そのどの手合わせよりも、重く速い攻撃。
手加減、されていたのだろう。
「ぁぁあああッ!!」
説得なんて考えが甘かった。今、倒さなければ、自分が死ぬ。
切られた箇所から血が溢れ、痛みと恐怖で目が霞む。
勝てるはずない。
一度だって、勝ったことがないのだから。殺し合いで、勝てるわけがなかった。
『隙が多いけど、動きは悪くない』
頭によぎった特に感情のこもってはいない事実だけの言葉。
だが、刀を握る手に力が入る。
切られるのは隙が多いから。なら、隙をなくせば、あえて隙を見せれば、
「死ねッッ!」
必ず切り込んでくる。
「なーーッ!!!」
「~~ッ! ぅぁぁああぁああッッ!!」
脇腹から溢れる血に目もくれず、たしぎは振り上げた刀を振り下ろした。
***
密売グループはガープにより拘束、これから護送となる。
「お力になれず申し訳ありませんでした。ローグタウンに異動する日程が延期したと聞きました」
「い、いえ! 気にしないでください! 延期というか、このケガが治るまでこっちで休めということですから」
「ですが、私が気がついていれば、ケガをされなかったかもしれない」
「そんなことはないです! これは、私がまだ弱いから……テディ中尉の言うとおり、もっと経験を積まないと」
笑うたしぎにテディも表情を緩めれば、出航準備の整った軍艦に向かう。
「ユイちゃんによろしくお願いします!」
少しだけ振り返った目は、相変わらず優しいもので、たしぎも安心したように敬礼で見送った。
甲板に上がれば、ガープが小声で話しかけてきた。
「お前、もっと前からわかってただろ。内通者も場所も」
「将校でもない人間が盗聴用の黒でんでん虫を持っていれば、すぐにわかりますよ」
場所もたしぎのおかげですぐに割り出せていた。だが、すぐに伝えなかった。
「あの小娘のためか」
「動きがあれば報告するつもりでしたよ。事実、そうしました」
「ぶわっはっはっ! そういうことにしておいてやろう! どうせ全員捕まえたしな!」
多少の時系列の違いなど、賊を捕まえてさえいれば誰も気に留めない。
ガープが笑いながら去っていけば、テディはひとり海を眺めた。
『休憩にしましょう。テディ』
『最低限の水分とエネルギーの摂取よ』
それはかつて膨大な情報を整理していた時に、同じように手を貸してくれた仲間。
(……案外、似てるかも)
考えれば考えるほど、共通点が出てくることに、テディは小さく表情を崩した。
海軍の中でテディの事情把握度がだいぶ違いますが、これでようやく全タイプ揃いました。
普通の海兵(たしぎなど)
ただの本部の中尉かクザンの副官という認識。
主にテディとユイのあることないことの噂を立てる人たち。
あまり戦闘している姿を見ない(むしろクザンの書類処理の印象が強い)ため、戦闘能力はあまりないものと思っている。
一部を除いた中将(モモンガなど)
テディがCP9の頃から中将であれば、テディのことを知っている。そのため、扱いに一番困っている。
部下の噂にたまに頭を抱えそうになるが、元CP9なので何故大将の副官にいるのか、世界政府の指示なのか、微妙に知っているために悩みの種が多い。
ただ、なんとなくCP9から抜けたことやクザンが匿っていることを察している者も多い。
大将
CP9を抜け、CPに追われていることも把握してる。理由にユイが関わっていることは察している。
各大将で多少違いはあるものの、共通して世界政府のめんどうごとに自分からわざわざ関わりに行く気はない。
元帥、ガープ、つる
ほぼ全ての事情を知っている、もしくは察しがついている。
一応、CP9を抜ける際に世話になっていることが、主な理由ではある。
が、抜ける際にルッチと戦いCP9の使用している建物を半壊させたこともあり、世話にならなくても100%バレてた。(おつるさんは半壊の方で事情を察している)