海に続く一本の氷の道。
「クザンさん、どこにいくんですか?」
「この先にある”ウーサー”だ」
この先と言われても、一面海。たまに魚が跳ねたり、遠くに船が見えるくらい。
「ウーサー……」
「知ってる?」
首を横に振る。偉大なる航路には、多くの島がある。今でも新しく発見された島があるくらいだ。
あまりにも多すぎて、名前のない島も未だに存在し、世界政府は一時的に番号を振っているが、名前があるということはそれなりに大きいか、少なくとも人はいる島だろう。
「でも、仕事はいいんですか?」
「大丈夫じゃなかったら、お姉ちゃんに止められてるよ」
「あ、そっか……」
ユイに声をかけた時から視界に入った蝶には、ちゃんと断ってある。
一応振り返るものの、蝶はいない。ユイの頭や肩に乗っているわけでもなさそうだ。
「……随分と信用されてんな」
いいことだとクザンが頷いていると、後ろから驚いた声と共に、肩に乗せられる手。
「ちょっ……ユイちゃん、危ねぇ……って」
荷台で素早く立ち上がったユイに慌ててバランスを取ろうとするが、揺れていない。
何度もユイが遊ぶ様子も見てきたが、相当運動神経がいい。というか、センスがある。ガープもちゃんと育てれば良い海兵になると言うほどだ。
「アレですか?」
テディが聞いたらどうなるか。
「お、そうそう。アレだ。見えてきたな」
やはり、止めるだろうか。
ウーサーは大きな島で、情報網もしっかりしているらしく海軍大将であるクザンのことを驚いたように見つめる人もいた。
「それで、本当に何をしにきたんですか?」
ユイが一緒にいても問題ないのだから、それほど重要な用事ではないことはわかるが、結局クザンはまだ理由を答えていなかった。
「あー……アレだよ。プレゼント探し」
「へ?」
意外な答えにユイも首をかしげた。
その反応に、クザンもなんとも言えず眉を下げ笑った。
「テディちゃんの誕生日が今日になってたからさ。一応、さ」
目を丸くするユイにクザンも困ったように笑うしかない。
「ま、本当の誕生日書いてるとは思ってねぇが、やっぱりか」
なんとなくテディが海軍に提出したプロフィールを確認していたら、誕生日が今日だった。おそらく、適当に決めたのだろう。
でなければ、ユイがこんな驚いた顔をするはずがない。
「お姉ちゃんの誕生日!?」
「あ、いや、たぶん違うぞ? 一応、書類上の誕生日は、今日」
自分で言っておいてややこしいと思うが、ユイも目を白黒させている。
「ユイちゃんはテディちゃんの誕生日知ってる?」
首を横に振られた。
「じゃあ、誕生日プレゼント選ぶんですよね!?」
輝いている目に、クザンも頷くことしかできなかった。
アクセサリーに服、小物と、とにかく選ぶのはユイに任せて後ろについて歩いていれば、近づいてくる気配。
「クザン大将」
「ん?」
海兵だ。さすがに海軍大将が島を散策していれば、何かあったのではないかとやってきたらしい。
「ただの私用だから、気にしなさんな」
海兵は一度店の中にいるユイに目をやる。
「お子さん、ですか?」
「そんなとこだ」
海賊、賞金首などの問題があったわけではないと知ると、海兵も安心したように駐屯所へ戻っていった。クザンもようやく店の中に入れば、店主の老人がユイとプレゼントを探しているところだったようだ。
「君のお姉さんへの贈り物なら、これはどうかな?」
「ぬいぐるみ?」
クマのぬいぐるみだ。
初めてユイに”お姉ちゃん”と言われた時、クザンも同じ勘違いをしたためよくわかるが、もしテディの年齢を知っていれば、勧めてくることはあまりないだろう。
「”テディベア”というぬいぐるみです」
「テディ、ベア?」
意外な名前にユイとクザンが目を瞬かせていると、店主は朗らかに笑いながら説明してくれた。
「クマのぬいぐるみはぬいぐるみなんですがね、この国の王様が狩りに出かけた際に、傷ついたこぐまを撃たなかったという話から作られたぬいぐるみなんです」
「……」
「狩りに出てたのにか」
こぐまひとりでいることは、まずないだろう。となれば、そのこぐまの親は、その王様に撃ち殺されたのだろう。
「ははは。そうですな。子だけ残してしまった。その後、保護されただとか、別の猟師に撃たれたとか、傷を癒せず死んでしまっただとか、どうなったのかわからないそうですよ」
「へぇ……」
じっとテディベアを見つめるユイに、クザンも答えを待った。
***
玄関を開けた途端、押し付けられた柔らかいぬいぐるみ。
「クマ?」
「テディベア! お誕生日おめでとう!」
ユイとぬいぐるみを交互に視線をやると、次にほぼ一日、仕事をサボっていたクザンに目を向ける。
その表情を見る限り、どうやら察したらしい。
「ユイちゃんが選んだんだよな」
「うん! お姉ちゃんと同じ名前で、優しい王様がいたんだって」
ユイが店主から聞いた話をそのままテディに語れば、少しだけ瞳が揺れ動いた。
テディベアを抱きかかえながら眠ってしまったユイに、布団をかけると、クザンに目をやる。
「いやがらせですか?」
「どっちの意味だ?」
「両方」
少しだけ眉をひそめているテディをおかしそうに笑った。
「プレゼントのことなら、ちょっとな。あのテディちゃんが誕生日なんて祝われたら、どういう反応するのか気になってな」
確かに誕生日などCPで祝われることはない。むしろ、誕生日だって本当かどうかもわからない。
「まぁ、それは優しい王様とテディちゃんが似てるからって選んだんだぜ。ユイちゃんが」
「……先程の話では、親は殺されていますよ。その優しい王様とやらに」
「だろうなぁ」
子供だから気づいていないのか、それとも……
「でも、優しいって思ったんだろ」
眉を下げユイを見つめるテディをクザンはじっと見つめた。