「もうそんな時期か……」
部下の言葉を聞き、クザンは頭をかいた。
毎年行われる、ウォーターセブンの市長兼ガレーラカンパニー社長との会談。
会談とはいうものの、ほとんど時間は掛からない。ただの確認だ。
「さすがに大将が行くというわけにもいかないですから」
造船を島全体の生業としているウォーターセブンは、船の支払いをするのであれば海軍だろうが、海賊だろうが船を売る。
その技術は確かなものであり、海軍も世界政府も多くの船の依頼をしている。
だが、海賊王の船を作った経緯もあるため、年に一度、四皇など億超を中心に賞金首からの依頼を確認しているのだ。
「別に俺は構わねぇんだけどなぁ……」
一応、次の取引の話だがここ数年変わる様子もなければ、今年も変更は特にない。
海軍としても、それだけのためにただでさえ足りない人員を割きたくはないため、ひとりで海を渡れるクザンが会談に行っていたが、さすがに大将ともなれば本部から簡単に離れるわけにはいかない。
「前にサボった時、センゴク元帥に怒られてたじゃないですか……」
さすがに遠くに行きすぎだと怒られた。仕事に関しては、恐ろしいテディの管理のおかげで、前のように説教はされなかったが。
「ウォーターセブンは、ウーサー程離れてないでしょーよ」
「まぁ……確かに。とにかく、大将なんですからご自分でいかずに、誰か派遣したらどうですか?」
「派遣かぁ……」
最悪、向こうからの商談を決めなければならないが、海列車に関わることであればそれなりに海域に詳しくなければならない。
ちょうどいい奴はいるだろうかと、クザンが頭を悩ませれば、提案された名前。
「テディ中尉はいかがですか?」
「テディちゃん? あー……テディちゃんなら大丈夫だな」
絶対に。
テディがその話を聞いたのは、廊下だった。ついでに、ガープも一緒にいた。
「それで、良ければ、ユイちゃん連れていってみたらどうですか?」
「……はい?」
予想外の言葉に首をかしげると、海兵は困ったように笑う。
「ほら、前に大将とユイちゃんがウーサーに言った後、相当楽しかったのか、私の息子によく話していて。大将も中尉もお忙しいですから、なかなかマリンフォードの外に行くってこともできませんし。私も昔は良く息子に羨ましがられて……私は一緒にいけませんが、妻と近くの島に行くととても喜ぶもので」
わりとユイは理由を付けて外に出ている気がするが、おそらくそういう意味ではないのだろう。
「さすがに公私混同は……」
「別に良いじゃろ。あの青二才が行くときはいつも一日は帰ってこんぞ」
「しかし――」
「たまには、ふたりきりというのも大切じゃろ。となると、海列車か……」
海軍は申請さえしておけば入れる。もちろん、ユイも強引にねじ込むのだろう。ガープが。
そのために、早速向かおうとするガープを止める間は無く、伝えに来た海兵も嬉しそうに敬礼をすると去っていった。
「またガープのやつ、なんかやってんのかい?」
「つる中将!」
ちょうどいいと、ガープを止めたいのだと想いを込めて先程までの経緯を説明すれば、
「いいじゃないか。ちょっとくらい遊んできな」
味方はしてくれないようだ。
「なんだい……? なんかあるのかい?」
公私混同をしすぎることは良くないが、本部勤務の海兵なら仕事と家族サービスの両立の難しさは分かっている。それに休暇の取れなさも。
仕事は仕事と割り切り、その帰りに少し遊ぶくらいならば、急を要する案件さえ無ければ今のうちだと行かせてしまうことも多い。特に近場の軍艦に乗らないような場所で、ユイのような幼い子供であればなおさら。
しかし、テディの表情は優れない。
「……実は」
テディは少しだけ眉をひそめながら、つるにだけ聞こえる声で答えた。
「ウォーターセブンにはCP9が潜入していまして……」
思っていた以上の大事に、つるも上がっていた口端が下がる。
「その様子じゃ、潜入先は……」
頷かれた。
「そりゃまた随分……あれだね」
CP9は長官であるスパンダムを脅しているため、簡単に手を出してこないだろうが、それでもわざわざ刺激することは避けたい。
「……でもだよ。テディ」
「はい」
「報告を聞く限りだけどね、CP9のメンバーそのものはそんなに危険なのかい?」
つるの言葉に、驚いたように瞬きを繰り返すと、目を逸らした。
「あの報告だけで、そこまで察せるとは……さすがは大参謀ですね」
「ただの年の功だよ。それに、あいつらがいろいろやらかすのはいつものことさね」
困ったように笑うテディに、つるも微笑む。
「それで? CP9は信用はできるのかい?」
その質問の答えはすぐに出た。
YES。任務となれば、彼らは非情に徹し、任務を遂行する。
「なら、質問を変えるよ。アンタの旧友は信用できるかい?」
頭を抱える他なかった。
答えは、出た。残念なことに、すぐに出てしまうのだ。
「……信用、できるから、困るんですよ」
その言葉に、つるは満足そうに笑みを深めると、テディの背中を叩いた。
「そうだろうね。アンタは昔から、優しくていい子だったもんね。いいんだよ。それで」
本来、どこかで知るはずだった信じたいもの同士の葛藤。悩んで、悩んで、ようやく本当に大事なものがわかる。
だが、この少女はそれを切り捨てて、ようやく今、その葛藤に直面した。
「自分の心を信じな」
つるはそう言い残すと、去っていった。