テディベアの傍らに   作:こっここーまん

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26話 旧友

「この部屋でお待ちください」

 

 アイスバーグの秘書であるカリファと共に応接室に入る。

 さすがに世界政府ということもあってか、待遇は良いようだ。

 

「どうして戻ってきたの」

 

 小さく抑えられた声。

 

「それに、これは挑発? なにか理由があるなら答えてもらいたいわね」

「これに関しては事故だ。画策はない」

「なら、思った以上に使えない男ね。青キジは」

 

 呆れたように腕を組みため息をついたカリファは、テディを一度見ると、小さくこぼした。

 

「もっと食えない男だと思ってたわ」

「なら、その認識は持っておいたほうがいい」

「……そう。わかったわ」

 

 素直に頷くカリファに、テディも少しだけ驚いたが、窓辺に歩いていくとある場所を見下ろした。

 カリファも隣に並び、視線をたどれば、小さな子供とカクが一緒に歩いていた。

 

「……」

 

 その光景に眉をひそめるが、ふたりの表情からして、険悪というわけではなさそうだ。

 よく見れば、子供の肩には紫色の蝶が乗っている。カクも時々、その蝶の様子を伺っているようだった。

 そっとテディの横顔を伺えば、カリファには懐かしい表情。

 

「……やっぱり」

「?」

「きっとそうだと思ってたけど、やっぱりそうだったのね」

 

 とても懐かしい記憶。

 まだCP9ではなく、CPへ入るために訓練していた頃のこと。

 

 テディは相変わらず、表情豊かとは言い難かったが、慣れてしまえば案外表情豊かだった。それが、8歳でCP9へ抜擢されてから、わからなくなってしまった。

 

「ルッチの行動、許したの?」

「任務そのものは完遂された。問題はない」

 

 海賊だけではなく、捕まった兵士すら皆殺しにした事件。その現場にいたのは、ルッチとテディだけ。カリファはいなかったが、確認はしておきたかった。

 

「テディは止めたかったんじゃないの?」

「任務に私情は必要ない。あれはルッチに課せられた任務だ。私は失敗した際の保険。作戦についてはルッチに一任されていた」

「……そう」

 

 テディはターゲット以外は暗殺しない。それには高い技術が必要だが、全てクリアしていた。

 プロとしての意識だけではない。犠牲は少ないほうがいいという優しさ。きっと、自覚はしていないだろうが。

 その未熟な感性故に、テディの心は揺るがない。ただひたすらに自覚しない感情に理由を付けて、技術を身に付けた。

 

 もし、氷のような心を溶かしてくれる人がいたなら、

 

「カリファ?」

 

 その温かいひだまりと共にいてほしかった。

 

「あの男のおかげ、なのかしらね」

 

 昔のようなテディに戻ったのは。

 

「…………カリファ」

 

 冷たいナイフのような声色。少しだけ気を張り、視線を返す。

 

「あの子についての情報はどこまで知られてる?」

「……ノーコメント」

「秘書の仕事に目処は?」

「ノーコメント」

「嫌気がさしたら言ってくれ。用意もあるから」

「……」

 

 眉をひそめるどころか、テディを睨めば、何度か瞬きを繰り返された。

 

「あの男、師匠に似てるかと思ったけど全く似てないわ」

 

 大きくため息をつくと、もう一度カクたちへ目をやった。

 自覚がないにも程がある。しかし、カリファにも理解できないことではない。

 現状、CP9でテディを殺せるとすれば、ルッチだけだ。そのルッチは現在任務中のため、スパンダムもテディに仕掛けるようなことはない。

 つまり、ここの任務が終わればルッチがテディ暗殺任務へと駆り出されるだろう。そして、テディ暗殺が完遂されれば、世界政府も情報漏洩の心配もなくなる。それ以上の詮索は、ない。

 

 なにか言うべきだろう。友人として。

 カリファが口を開こうとした時、部屋に近づく気配。ふたりは示し合わせたように、口を閉じた。

 

「ンマー今回はクザン中将……じゃなかったか。大将じゃないんだな」

 

 アイスバーグは、部屋に入ると少しだけ驚いたように言った。

 

「はい。テディ中尉です」

「アイスバーグだ。さっさと片付けちまうか」

「名簿はこちらになります」

 

 素早く差し出された海賊船の一覧。

 ソファに座り、特に代わり映えのない商談を進めていった。

 

「世界政府の言い分はわかったが、こっちも信条を変えるつもりはねぇ」

「そうですか。では、そのように伝えておきます。海列車については、今後の予定は?」

「こっちからはねぇが、政府からの要請は? 前のシャボンディ諸島付近とか」

「シャボンディ諸島は多くの海賊や人攫いが屯している島のため、海列車による逃走、被害拡大の可能性を考慮し、線路の増築はやめるように。とのことです」

「一般の連中も使うだろ? それに、諸島とはいえ植物だ。いつ何が起こるかわからないぞ」

「本部も近いため、何かあればすぐに対処します。むしろ、政府としては凪の帯付近を検討しています」

「無理だ。あの海王類の溜まり場は安全が確保できない」

 

 商談も確認も、相変わらずの平行線。

 政府御用達とはいうが、媚を売るだけではない。あくまで、技術的に可能であり、ガレーラカンパニーやW7に利益があることが条件である、ちゃんとした取引。

 少しの会話だが、ルッチかカリファたちが数年拘束されている理由が分かった。本気で調べ尽くすには、手の掛かる男だ。

 一通りの商談を済ませた時だ、爆発音。驚いたように外を見るテディに、アイスバーグもカリファもいつものことのように外を見た。

 

「ンマー大丈夫だ。どっかのバカが金を払わねぇとか言っただけだろ」

 

 しかし、アイスバーグの言葉を裏切るように駆け込んできた船大工は、息を切らせながら言う。

 

「海賊が整備中の訓練船に立てこもってます!」

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