ユイをしっかりと抱くと、倒れてくる帆から離れ、爆弾を仕掛けたであろう犯人から死角になる場所に素早く移動する。
「……ここなら大丈夫じゃろ」
様子を伺いながら、ユイを下ろせば、少しは驚いていたようだが、取り乱すことはない。
「怖かったじゃろ。すまんのぉ」
頭を撫でれば、ユイは首を横に振り笑った。
「カクさん、お姉ちゃんみたいでかっこよかったです」
「…………そうかぁ。お姉ちゃんみたいかぁ……それは、うれしいのぉ」
堪えきれないように頬を緩ませるカクを、不思議そうに見つめたユイだが、わめき散らす犯人の言葉にカクもすぐに表情を引き締めた。
「いいか!? 俺の言うことを聞かなかった場合、まずはこの造船所。次に、ここにいる海兵の卵共をぶっコロス。とっとと海兵のひとりでも連れてこい!!!」
「物騒なことを言っとるの……ユイ、ここは危険じゃ。離れるぞ」
もう一度、ユイを抱え走った。
アイスバーグもカリファも部下から寄せられる情報を聞くと、テディに目をやる。
すでにでんでん虫で、クザンに繋がっている。
『シードの釈放をしなけりゃ、ガレーラを爆発させたあと、訓練生の連中も殺す、と。W7の奴がいって早く捕まえたいところだな』
「カリファ。あいつらに爆弾の確認と解体を――」
「すでに連絡済みです」
「早っ!!」
「Tボーン大佐も、すでにこちらに向かっており、あと6分で到着します」
素早すぎる仕事に、いつものようにアイスバーグが驚いていると、見えてきた船大工たちの集まり。
アイスバーグを確認するやいなや駆け寄ってくる。
「テディ中尉。こちらです」
アイスバーグをおいて、カリファとテディが現場に向かえば、篭城しているという船の方からユイを抱えて歩いてくるカク。
「あ、お姉ちゃん!」
「ユイ。無事だったか」
「疑っとったのか」
眉をひそめるカクだったが、カリファに睨まれ、すぐに表情を戻す。
「敵は3人。中心はプラントじゃ。シードと盃を交わして、新世界へ手引きしたのもあいつじゃ」
「そうか」
「じゃあ、わしはこの子を安全な場所に連れていっておく。ケガはさせんから安心しろ」
それだけいうと、カクはまた歩きだした。
「カクさん。今の、あの人言ってましたっけ?」
「言っとったぞ? 気付かなかったか?」
「?」
思い出すように首をかしげるが、結局思い出せなかった。
残されたカリファは、小さく息をつくと、
「テディ”中尉”」
テディに向かって困ったように微笑んだ。
「…………」
微かに揺れる瞳と呼吸。そして、柔らかく悲しげに微笑んだ。
それが答え。
「クザン大将。詳細は後に。すぐにプラントを捕縛します。応援は必要ありません」
プラントは新世界でも名の通った海賊だ。
いくら強いとはいえ、大佐では苦戦する可能性がある。クザンも先程の会話を聞いて、本部から応援を出そうとしたが、その手を止める。
『そりゃ構わねぇが……どうした?』
テディが戦闘能力を極力隠していることは知っているし、今回も書類上の取引。戦闘は任せるのかと思ったが、今回は動くらしい。
「訓練生が死にます」
それだけいうと、テディはでんでん虫を切った。
******
悲鳴にうめき声、それが海賊のものであれば良いが、今回のターゲットではない人物たち。
「そいつらはターゲットじゃない。兵力を無駄に削ぐのは国を危険に晒す可能性がある」
「ハッ! 民を守るどころか、危険にさらしたこの役たたず共がいてなんになる? こいつらも同罪だ」
「……」
ルッチはなんの感情もなく死体を見つめるテディに、舌打ちをすると、悲鳴を上げていた若い兵にトドメを指す。
「任務は完遂する。問題はあるか?」
「問題ない。だが、これほどの被害、長官に理由は聞かれる」
「正義のためだ」
ルッチはターゲットを殺し、任務を完遂させた。
当時、CP9の長官であったスパンダインは、ルッチの行動に海兵同様、恐れ戦き、それを咎める人間はいなかった。
「処理がめんどくせェ」
「長官に任せればいいだろ。それがあいつらの仕事だ」
「原因作ったやつが何言ってんだ」
疲れたと全身で表すように肩を落とし、ため息をついたCP9のリーダーこと、師匠であるショカンはソファに腰掛けるルッチの頭に丸めた書類を落とした。
「なにすんだ」
「長官に投げるにしても、リーダーってのには監督責任ってのがつくんだよ。リーダーへの迷惑ってのもちっとは考えろ。仕事したくねェんだよ」
「私情じゃねーか」
「ったりめーだろ! テディの奴、全部俺に押し付けたんだぞ!?」
今回はルッチの監視が目的だからと、命令に従い、ルッチの行動に意見はしなかった。それに問題があるなら、命じたショカンに責任があると、全て責任をショカンに被せていた。
ルッチは裏切られたショカンを鼻で笑うと、立ち上がる。
「ルッチ」
「まだ何かあんのか?」
まだあるのかと怠そうに顔を上げれば、笑っていない緑色の瞳がルッチを見下ろしていた。
「わかってるだろうが、テディは強くない。
だが――――」
うめき声はない。ただ近づいてくる粘着質な水音と重たいものが倒れた音。
状況から何が起きているかは容易に想像がついた。
訓練生のひとりは、涙を目に貯めながら、目の前に音も無く現れた影を見上げる。顔はわからない。先程の海賊ではないが、殺気のない殺気が、自分を殺すことだけを告げていた。
「ぁ……や、だ……おねがい、します」
「……」
涙と命乞いが溢れ出すが、その影は笑わず取り合うこともせず、ただただ自分を処理をしようとこちらに手を伸ばし――――――
強い衝撃と音と共に意識が途切れた。