首に迫った蹴り。
元から当てるつもりはないだろうが、確実に急所を狙ったその蹴りは防がなければ、殺されていた。
「なんのつもりだ」
相手などわかっている。
「無駄に殺すな」
淡々と答えられる前とは違う言葉。
「捕まったこいつらに価値はない。それに、俺たちにも任務がある。邪魔をするなら――死ね」
振り返りざまに指銃で心臓を狙うが、予測していたように軽々と避け、懐に潜り込まれる。
脇腹に打ち込まれそうになる肘を避ければ、腕をつかまれた。
「ッ」
掴まれた左腕の肩に素早く叩き込まれた拳。
小さな破裂音。肩が外れた。
「ここで死ぬつもりはない、ということか」
「悪いが今は死ねない」
「……」
はっきりとした答えに、ため息をつくしかない。
ここで手間取れば、海軍本部から将校が来て、ガレーラは大騒ぎになる。本来の任務のためにも、騒ぎが大きくなる前に片付けたい。
目の前の女は、それもわかった上で来たのだろう。
「ここで戦ってもお前には不利益しかないだろ。ここでやめれば、ガレーラの船大工のメンツは保てたせる」
「……くだらねぇ」
先程の衝撃だけで気絶したようなザコを、守る価値などないというのに。
「海兵は人手不足なんだ。早々に済ませよう」
「……仕方ねぇ」
肩をはめながらテディの後に続く。
プラントは火薬庫にいた。
「女、ひとり……だと?」
でんでん虫の通話は数分前に途切れていた。そして、船に乗っている生きている気配も。
海兵が交渉せずに乗り込んできたのかと、仕掛けた爆弾が爆発するまで時間を稼ごうとしたのだが、やってきた海兵は弱そうな若い女、ひとり。
「……」
しかし、女の服は海兵のものではない。それが意味するのは将校ということ。
「そこで止まれ。他のやつもだ! 爆発させられたくはねェだろォ?」
「他のやつ? 残念だけど、私ひとりだよ」
「信じると思うか?」
「まっどっちでもいいけど。だってあのザコだったシードの兄弟分なんて、どうせ大したことないでしょ? 海軍もそんなザコのために時間も人員も割きたくないの」
持っていた刀を遊ばせながら笑う女に、プラントも眉をひそめた。言動は軽薄だが、決定的な隙があるわけではない。
海兵でも海賊でも、この手の人間は相場が決まっている。少し実力のある
「おいおい、嬢ちゃん……ちょっと強ェかもしれねェが、新世界で戦う連中の恐ろしさってやつを知らねェな?」
「シードだって新世界の海賊だよ」
女の目が少し細まり、遊ばせていた刀の動きも止まった。
「シードを捕まえたのはテメェだな?」
「YES」
まるで楽しむかのように笑みを携えた女は、刀を構える。
「新世界の海賊を捕まえてようやく箔がついたんだ。助けに来た兄弟を芋づる式なんてラッキーだね」
「助けに、なぁ……ハズレだ」
「ハズレ?」
「俺はノコノコ逃げ出したシードの野郎を殺しに来んだからなァ!!」
言葉と同時に踏み込み、動揺して反応の遅れた女の心臓に剣を突き立て――――
「!?」
消えた。
廊下にいたはずの女の姿が消えた。部屋にも、廊下もいない。
「どこにきえ……た……」
言葉と共に首が落ち、転がった。
転がって動かないプラントの頭と胴体を抱えると、火薬庫に入る。中には仕掛けを終えたテディが立ち上がっているところだった。
ルッチは一番燃えそうな場所へ頭と胴体を転がす。
「どうして青キジを殺さなかった」
「あれを私が殺せると思うか? お前でも無理だ」
「……」
あからさまに眉をひそめたルッチにテディは、少しだけ目を丸くしたが、すぐに息を吐き出した。
「ありがとう。ルッチには、まだ頼まれてもらうけど」
「任務ならこなす」
思ったとおりの言葉。ふたりは一度目を合わせると、縄に火をつけた。
*****
訓練船は逃げられないことを悟ったプラントが、火薬庫で自爆し、訓練船を包囲していたTボーン大佐率いる海兵が、訓練兵を燃える船から救出。
犯人は全員死亡、訓練兵にも死傷者がでた。
「大佐。あとは任せても構いませんか?」
「了解しました。即時対応、感謝いたします」
「いえ。大佐の迅速な包囲と彼らの仲違いのおかげです。最後は……生きたまま捕まえることはできませんでしたし」
「生きている彼らがいるのですから良いではないですか」
「そうですね」
たまたまガレーラにいた大将青キジの副官が、単独で交渉、乗り込み、早期解決された。
あとのことは、Tボーンに任せて、本来の仕事に戻るようだ。
目で追っていけば、カクと一緒にいた小さな女と何か話している。その目は、柔らかくて。
『テディは強くない。だが、大事なものを知ったら強い』
知ってる。
あいつの弱さは、心が矛盾してるからだ。
俺が殺しに行って、もし負けるようなことがあれば、それはあいつが本気で死んではならないと思った時。
「……」
「なんじゃ、機嫌悪いのぉ」
どうやらあの子供はテディに返したらしいカクが、こちらを呆れたように見ていた。
「ロリコン」
肩に乗せたハットリの腹話術で一言返せば、何か言いたそうに口を開けたが、頭を抑え顔を横に振ると、後ろを指した。
「海軍が事件前に何かなかったか話を聞きたいらしい」
めんどくさいと思っていれば、耳に入ってきたパウリーの声。
「ルッチのやつと喧嘩してたから直前のことはわけんねェよ」
目を向ければ、こちらを指すパウリーに海兵もこちらを見ていた。どうやら話はすぐに済みそうだ。
微妙にチャラいテディちゃんたのしい。
CP9とあまり関わってはいけないキャラの都合上、あまり本編で会わせられないし、会ったらシリアスだけど、正直CP9とのほのぼの日常話書きたい……!
なんだかんだで、ルッチも含めてCP9が故郷にいざこざを持ち込ませないって言ってる辺り、仲間意識はあると思うんです。少なくとも任務外とか同世代に関しては。(新入りが倒されてた辺り、ある程度はシビアだと……)