テディベアの傍らに   作:こっここーまん

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29話 揺らぎ

「悪ぃ……」

 

 帰って早々頭を下げている海軍大将。

 しかも、海軍元帥の部屋で。

 

「怪我とかしてないか? ユイちゃんも」

「平気です」

 

 ユイをガープのところに預けてから、執務室に戻ればクザンはおらず、部下から元帥の部屋だと聞かされ、来てみれば予想通りだ。

 

「報告書は部屋に置いてあります。あとで目を通してください」

 

 センゴクたちが聞きたいのは、本当にあったことだろう。

 特にこのメンバーに隠す理由はないため、正直にあった出来事を報告すれば、クザンの顔がひどいものへと変わっていく。

 

「マジで大丈夫だったのか? それ」

「彼らも任務中ですから」

「任務ねぇ……CP9が揃いも揃ってガレーラに潜入してるってのは、心当たりあるかい? センゴク」

「……T・ワーカーズが関係してるとは思うが」

 

 かつて海賊王の船を作ったとして処刑された船大工、T・ワーカーズ。

 彼は海列車も作ったため、政府が海賊王の船を作った罪を帳消しにしようとしたが、とある理由よりCPがそれを阻止した。

 海軍も実行部隊として、T・ワーカーズの強引な処刑について疑問をもった人間も多いのだろう。

 

「詳しいことは何も」

「そうか……古代兵器の関係と思っているんだが」

 

 テディの表情は変わらない。

 これでわかるなら苦労しないか。と、センゴクも諦め、報告の続きを促した。

 

「クザン」

 

 先に戻ったテディを追いかけるように、クザンも執務室に戻ろうとするがつるに呼び止められる。

 

「CP9がいるの確認しなかったことの説教なら、もう勘弁してほしいんですけど……」

「それはいいよ。私も止めなかったからね」

「だったらチクらないでくださいよ」

「ことが起きなきゃ言わなかったよ」

 

 確かにテディが突然動くと言い出した時は、何があったのか不安だったが、つるがCP9がいることを教えてくれたおかげで、すぐに合点がいった。

 代わりにセンゴクには確認不足だと、説教されることになったが。

 

「珍しくテディ、疲れてるみたいだから、早く帰してやんな」

「……え゛っ!? 嘘!?」

 

 まったくそんな様子はなかった。

 

「アンタねぇ……前よりずっとわかりやすいんだから、わかってやりな」

「いやいやいやいや!! それはねェ! あれでわかりやすいは絶対ありえねェ!!」

 

 一応、つるに言われたため、執務室に戻ってから仕事せずに見ていたが、確かに少しだけブレがある。

 本当に微かにだが、人形のような彼女に感情が漏れているような。

 仕事はもちろん余裕がある。少し早く帰ったところで問題はない。

 

「よし」

「なにが『よし』なんですか」

 

 立ち上がれば、早退しようとしていることは察したらしく、呆れ責めるような視線。

 それを覆うように、抱きしめ、頭を撫でれば、確かに感じた筋肉の強ばりと息を呑む音。

 

「テディちゃん?」

 

 ちょっとからかいを混ぜた労いのつもりだったが、この反応は驚きというよりも――畏怖。

 

「……大丈ぅ゛ッッ」

 

 優しく抱きしめようとした瞬間、人間の急所である鳩尾に叩き込まれた遠慮なしの拳。

 ご丁寧に自然系能力者すらも捕らえる武装色の覇気までしっかりまとっていて、意識が遠のいていった。

 

***

 

「よぉ、クザン」

 

 声をかけてきた男は、CP9のリーダーのショカン。わざわざCP9がくるなど、普通の中将からしたらこの任務になにかあるのかと疑うが、クザンにはもうひとつ気がかりがあった。

 

「なんすか?」

「警戒すんなって。別にアレとは別件だ」

 

 オハラでニコ・ロビンを逃がした。それに気がついていないわけはないが、今回はその件ではないらしい。

 

「新人が入ってな。たぶん、この先何度か会うだろうから挨拶をな」

「挨拶ゥ?」

 

 CP9が挨拶なんておかしな話だ。どんな人物かと、ショカンに呼ばれやってきた人を見た瞬間、目を疑った。

 

「……ガキじゃねぇか」

 

 まだ小さな子供。どこか前に逃がした少女に似てるのに、決定的に何かが違う。

 

「実力は保証する」

「そういう意味じゃねぇだろ」

「信用なりませんか?」

 

 なんの感情もなく確認してくる少女に、奥歯が軋む。

 

「当たり前だ」

 

 こんな子供に殺しをさせようなどと思うはずがない。

 

「そうですか。安心してください。今回の任務では、こちらが失敗したとしても貴方方には影響はありません」

 

 淡々と告げられる言葉。

 数ヶ月前に会った少女は、泣いて、叫んでいたというのに、全てが欠落してしまったような目の前の少女。

 

 正直、見つけられたのは運が良かったとしか言えない。

 指令通りに無駄なく斬殺され、見せつけるように死体を配置する少女は、クザンが現れた時こそ少し戸惑った様子だったが、邪魔しないとわかってからは淡々と作業をこなしていた。

 

「なんとも思わねぇのか。お前さんは」

「命令です。何か間違いが?」

「命令とかじゃねぇ。嫌だとか、疑問だとかねぇのかって言ってんだ」

「ありません」

 

 淡々と答える少女。

 

「なら、楽しいか?」

「いいえ」

 

 なんだろう。この感覚は。

 

「任務に感情は必要ありません」

 

 そうだ。人形だ。

 思考も、感情も持たない、人形。

 

「……」

「以上でしたら、私は帰還します」

「何も持たなきゃ、ラクか?」

「……質問の趣旨がわかりません」

 

 覚悟も恐怖も、なにもない。

 あるのは、任務の実行、それだけ。

 

「やっぱ、信じらねぇよ。ガキなんて」

「そうですか」

「泣き顔が見れたら、そん時は信じてやるよ。テディ()()()

 

 そして、逃げるその手を掴んでやる。絶対に。





普通にクザンに抱きつかれたら、アイスタイムな予感でビビる。

というわけで、次回からCP9時代の話になります。

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