テディベアの傍らに   作:つくらん

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だいぶ遅れました…
CP9時代入ります。


3章
30話 それは昔の話


 エヌエスロビーの廊下を引きずられる男女。

 

「ったく……ブルーノがいねぇとめんどくせぇな。いつだぁ? 帰ってくるの」

「知るか。外堀から埋めていくなんてしてるからだろ」

「古代兵器の取り扱いはデリケートなんだよ。というか、お目付け役は必要だな」

 

 この間までは、ブルーノが問題児であるルッチとテディのお目付け役をしていた。

 単純な道力では、ルッチとテディにはすでに勝てなくなっているが、そこは能力と経験で対処できていたし、なにより任務であれば、このふたりは大人しくなる。

 主に、任務外のことだった。

 

「…………まともな奴がいねぇ」

 

 ひとつ。ルッチと戦闘にならない。もしくは抑えられる。

 ふたつ。ルッチの「こいつ使えない」に引っかからない。

 みっつ。テディの雑なところを補填できる。

 

 これが最低条件だ。

 ルッチもテディも少しは大人になったのだから、お互いが補填し合うことも踏まえたところで残る問題は、

 

「ルッチの戦闘癖の方が問題だろ」

「お前の無自覚な雑さだよ」

 

 ”任務”なら完璧にこなす。だが、任務外になると関係ない。の一言で終わらせることも多い。

 これはルッチも同じだ。

 

「クマドリにでも任せればいいだろ」

「長官、たまには使えるな」

「たまにはつったか? 今」

「気のせいじゃないですかね? クマドリか」

 

 まだ騒いでいるスパンダインを華麗に無視し、クマドリの任務の予定を考える。

 

「ルッチのお目付け役をテディが、テディのお目付け役をクマドリがすればいいな。よし」

「なんで俺がお守りされる必要があるんだ」

「お守りじゃねぇよ。監視だ。監視」

「おい! 無視してんじゃねぇぞ!」

 

 心底嫌そうな顔でルッチはテディの方を見るが、テディは特に気にした様子はない。

 

「よし。テディは文句なしだな」

「生命帰還。習得しておきたかった。クマドリならちょうどいい」

「……」

「抜け駆けするんじゃねぇ」

「なら、ルッチも習う?」

 

 頷いているルッチに、話がまとまったならいいかと、でんでん虫でクマドリを呼び出した。

 

 ショカンはCP9のリーダー格であるため、長期任務を行うことは少ない。

 正確にいえば、ルッチによる味方殺しを最小限にするためだが。

 

「珍しく時間が掛かったんですね。師匠。ですが、CP6の船に潜り込むなんて、非常識です」

 

 甲板でこちらを睨むのは、カリファ。かつて、六式を教えたことがある。

 CP6では、その容姿からハニートラップを仕掛けて、情報を盗み出す。そのためか、カリファの情報処理能力は群を抜いていた。

 

「……カリファ。鉄塊と指銃はできるようになったか?」

「無視ですか。はぁ……まだ完璧とは言えません。特に鉄塊に関しては」

「そうか……なら、稽古つけてやる」

「? はぁ、ありがとうございます」

 

 ショカンからの稽古など、CPに配属されるまでの数回しかしたことないが、実力は確かに上がる。

 だが、突然稽古をつけると言われるのは、カリファでなくても戸惑う。

 

「なに。取って食おうって訳じゃない。六式を身に付けて、CP9に入って欲しいんだよ」

 

 その言葉に、驚いたように目を見開いた。

 CP9はCPの中でも、0の次に特殊だ。CP0のように、何か一点秀でたものではなく、CP9はまず実力だ。

 六式が使えなければ、話にならない。任務で仲間に足でまといと認定されれば、殺される危険もある。

 そんな場所に、ハニートラップ要因のカリファを呼ぶ理由など、正直ない。

 

「……テディのこと?」

 

 しかし、察するのは容易だった。

 

「察しがよくて助かる。お前、テディと仲良かっただろ」

「良くはないです。私はただ――」

「面倒を見ていただけか? むしろ、その面倒を見てもらいたい」

「どういうことです?」

 

 テディは人形のように正確に任務をこなす。実力だって十分にある。自分が昔のように面倒を見る要素はないはずだ。

 

「テディがこの先やっていくのに、あいつを管理する人間が必要だ。カリファ。お前みたいな奴がな」

「師匠がしてください」

「今はしてるだろ……問題児ふたりの面倒」

「クマドリがしてると聞きましたが」

 

 ショカンが数秒か動きを止めたが、何事もなかったように話を進める。

 

「とにかく、必要になるのは俺が死んだ後だ」

「死ぬ予定でも?」

「ない。が、俺の後釜は、十中八九テディだ。あの人形っぷりは、ルッチよりも政府に気に入られるだろ」

 

 理解できないわけではない。あくまで任務通りに全てをこなすテディは、正義の足枷になるなら切り捨てるルッチよりも政府には好まれるだろう。

 

「だから、カリファ、頼めるな」

「……わかりました」

 

 ため息を共に頷いたカリファの頬は、ほんの少しだけ緩んでいて、ショカンも素直じゃないその様子に、困ったように笑った。

 

 





今後の更新は、だいぶ不定期に遅くなると思います。
気長にお待ちください。

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