ショカンが死んだ。
カリファがCP9に入ってから、1年も経たなかった。
「……わかった」
伝えた時、テディは確かに動揺していたのに、すぐに任務の時のような静かな目に戻った。
それこそ、隣にいたスパンダインの息子であるスパンダムの方が大げさな反応をしていた。
「あの化け物が死んだァ!? 嘘だろ!? アイツは白ひげにだって対抗できるかもしれねぇって……その情報は嘘じゃねぇだろうな? 逃げ出したとか可能性は?」
「低いと思います」
「根拠は!?」
伝えられた死因は、事故死。
海難事故だ。海軍本部の近くを航行していた船に乗っていた。スパンダムもそれには心当たりがあるらしく、静かに聞いていた。
その船を嵐が襲い、どのタイミングかは不明だが、海王類らしき動物による損傷も見受けられるとのこと。乗客は、船員含め全員死亡、もしくは行方不明だそうだが、見込みは薄いと言われている。
救難信号を聞きつけた海軍が船を見つけたのは、嵐が収まった後だった。どうにか海に投げ出された人も探したが、魚に食われるなど損傷も多く、身元の判明には時間が掛かった。
「ショカンだと断定したのは、ガープ中将だそうです。センゴク大将も確認しているそうです」
ショカンの顔や所属をはっきり知っているのは、海軍本部の上層部。ガープやセンゴクはもちろん知っている。
むしろ、あのふたりとは仲が良かったはずだ。
「となると、嘘じゃ、ねぇな……死体はどうなった? あいつの体は色々、問題があるだろ。それこそ、モリアの手に渡ったらどうなることか……そもそも情報だって――」
「その点に関しては、センゴク大将が身寄りがないと早々に処理し、埋葬したそうです」
「さ、さすがだな……借りができちまったが、まぁいい」
テディに一度目を向けるが、特に変わった様子はない。
「ショカンがしていた任務はどうしますか?」
各個人に当てられた任務は、詳しくは知らない。今回も、ショカンがその船に乗っていた理由を知っているのはスパンダムひとり。
「あ? あぁ、そうだな。その死亡者リスト」
「どうぞ」
カリファの渡した海難事故のリストを見れば、そのままその紙を机に投げる。
「問題ねぇ」
どうやらターゲットも死んでいたらしい。
「俺は上へ報告してくる。ちょうど貰い物もあるしな」
「貰い物?」
「あぁ。ルッチも呼んどけ」
スパンダムが出ていくと、カリファは小さく息をついたあと、テディの方を見た。
「お茶をいれましょう。少し落ち着くわ」
「……うん」
「ルッチは私が呼んでおくから、テディはここで休んでて」
「私が呼びに――」
「いいから」
ソファに座らせられるものの、まだ立ち上がろうとするテディに、カリファが持っていた持っていた資料を渡す。
「代わりにこれを整理してもらえる? 次にCP9に引き入れる候補よ。全員会ったことあるわよね? テディの意見を聞きたかったの」
「了解」
ようやく座ったテディに、カリファも安心してお茶を入れると、ルッチを呼びに行った。
***
目の前に置かれたふたつの箱。
「予定では、ひとつでは……?」
「なに……ひとつでも構わないのだがね。今の報告を聞いて、海軍に回そうと思っていたひとつをそっちにやろうと思ったのだが、いらなかったかね?」
「いえ! 心遣い感謝します! あのふたりがいくら強いとはいえ、
「そのとおりだ。特にテディ、彼女は使える。予定では、ルッチだけだったが、彼女にも使いたまえ」
「はっ!」
敬礼をしたスパンダムは、目の前に置かれたふたつの箱を手にとった。 目の前に置かれたふたつの果物のようなそれ。
果物というには、妙な渦巻き色の模様が描かれ、色もおかしな色をしている。
船乗りの中では有名なもので、”悪魔の実”だ。
「片方は図鑑に乗っていた。動物系ネコネコの実。モデル豹だ。もう片方はわからねぇ」
それを並べられた前に立つふたりはじっとそれを見下ろした後、紫色の髪を持った女が先に悪魔の実に手を伸ばした。
「ちょっとは躊躇しろよ!!」
後ろで叫ぶジャブラに、叫ばずとも表情をひきつらせている面々。
「カナヅチになるんだぞ!? テディ、泳ぎも得意じゃねぇか。師匠も能力なしでも十分だっつってただろ!」
「チャパパ。ジャブラ、テディがこれ以上強くなるのが嫌なのか?」
「テディが断れば、次に悪魔の実が渡されるのは、あなただものね」
「そ、そういうんじゃねぇよ!」
「それにしても、テディ、そちらでいいの?」
カリファが心配しているのは、別のことだった。
テディが手にしたのは、正体不明の方の悪魔の実だ。
「こちらでいい。ルッチは、動物系がいいだろ?」
「あぁ」
「これがもし、自然系や超人系であっても私は構わない。なら、これが一番いい選択だ」
「同感だ」
自然系は最強と言われるが、白兵戦において最強は動物系と持論を持っているルッチは、選べる余地があるならば、動物系がいいだろう。
豹なんて良い能力だ。拒否する理由もない。
「本当に淡々とこなすな。まぁいい。てめぇら任せる」
ふたりは、特にそれ以上の会話をするわけでもなく、その実を食べた。
口をつけた途端、ヒドイ顔をする二人だが、全て口の中に押し込んだ。
「ひでぇ味だ……」
「……」
無言で口を抑えているテディを見る限り、本当にまずいらしい。
「テディ。お茶よ」
「ありがとう」
素早く反応したカリファが口直しのお茶を差し出せば、一気になくなった。
ルッチも同様に一瞬でなくなった。
「大丈夫?」
「ひどい味だ。一口でいいなら、吐き捨てたい」
「ならそうすればよかっただろ!」
「悪魔の実を食えって命令だ」
呆れるジャブラの目に、テディが吐き出さなかったため、負けず嫌い発揮してテディと同じように全て食べきったルッチへ同情するような視線が送られた。
「それで、体に変化は?」
自分の体よりも大きな蝶の姿に、その場にいた全員が引いたのは、これから数時間後であった。