こいつと意見が一致しないことは多い。
「今度はなんじゃ……」
「前と同じよ」
カリファがため息をついて書類をまとめれば、呆れたような視線をこちらに向けるカク。
「そろそろ補充要員いなくなるんじゃないか?」
「大丈夫よ。今回はCP5だから」
「使えねぇクズがいたところで、足でまといだ」
前はCP9の新入り。その前は、海軍。
正義を守ることはできないと判断して、排除した。
こいつとは、その辺、意見が一致したことがない。
「任務に支障をきたすなら構わないが」
「そいつのせいで悪が蔓延れば、それは”支障”だろ」
「……」
「甘いんだよ。お前は」
昔から変わらない。
「とりあえず、報告書はまとめておいたわ。それから、CP5が補充要員として上げてる人物の資料も入れておいた。確認してちょうだい」
カリファに渡された書類の束に視線を落とすテディ。
全て目を通し終わる少し前、部屋のドアが開いた。
「ヨヨィッ! ブルーノからの報告ッダァ~~イッッ」
クマドリの言葉に、全員の視線が集まる。ブルーノは一人、W7で古代兵器プルトンの設計図を持っている可能性があるアイスバーグを調べている。
「可能性はアッ高ェ~ってこと~よっ! しかしまァ~~隠してんのは、自室か仕事部屋か。とにかく、人を寄越せってェ~ことだ」
ベテランで能力者のブルーノが要請してくるのだ。相当信憑性は高く、難しい相手なのだろう。
アイスバーグといえば、ガレーラカンパニーの社長だ。男なら船大工として潜る込むのは容易。
「あぁ……あの海列車の。ワシが行こうか? 船大工見習いとして、ちょうどいいじゃろ」
年齢的にも、カクなら見習いとして容易に潜り込めるだろう。少し器用で才能があるように見せれば、社長にだって近づきやすい。
「なんじゃ……不満か?」
カリファの視線に、カクが口をへの字に曲げる。
CP9の中で、カクは最年少であり、新人。対して、今回の任務は政府が最重要事項のひとつとして上げている、古代兵器の関係。
暗に新人を送り込みたくないということなのだろうか。
「違うわよ。場合によっては、貴方に残って欲しかっただけ。クマドリ」
カリファが鋭い視線を向ければ、クマドリはしたり顔で答えた。
「ボッキュッボンッ」
「は……?」
カクが眉を潜めれば、テディはルッチに目をやり、ルッチはため息をついた。
「すまん。全くついていけん。誰か説明してくれんか?」
主にテディ。このメンバーで一番説明してくれそうだ。
「アイスバーグがW7の市長に立候補するって話だ。当選は確実。問題は、市長就任による秘書の募集」
「あぁ……それで好み」
ここにはちょうど、凹凸のあるスタイル抜群の女と、スレンダーな女。
見た目としては、男の好みのほぼ両極端に位置するふたり。
要は、どちらがアイスバーグの秘書となり探るか。という話だったようだ。
「私が行くなら、テディの事はカクに任せるわね」
もうひとり、もしもの時のための戦闘要因がルッチだ。
スパンダムが言うには、CP9の本拠地が手薄になってはいけない。ということで、主戦力であるテディかルッチ、どちらかが残ることになっていた。
「それにしても、ずいぶん気が立っとったな。ルッチの奴」
任務だからと大人しくしていたが、随分気が立っていた。
「古代兵器はデリケートな問題だから、それこそ年単位でかかるだろうし。なにより」
戦う船大工とはいえ、今までのような戦いは、まず起きないだろう。
「……あぁ」
妙な説得力に、カクも納得してしまった。
***
ルッチたちが、W7に向かってから3ヶ月余り。
カリファは予定通りアイスバーグ市長の秘書となり、調べを進めていた。それこそ、難航しているようだが。
「最近、あのスーパーボインのエロい姉ちゃんいねぇな」
「失せろ」
自転車に乗って、司法の塔を見上げる男に、この3ヶ月で言い慣れた言葉を返せば、呆れたように見上げられた。
「お前さんも飽きねぇな」
「そのまま返すぞ。テディに何回ちょっかい出す気じゃ」
海軍本部には、テディだけで行くことも少なくないが、たまに同行すれば絶対に絡まれているし、本部から戻ってきた時に冷たい雰囲気を放っていれば、大体この男のせいだ。
「だいたい、俺だって一人で海渡れるからって中将なのに雑用させられて。ちょっとくらい癒やしがあってもいいじゃないの」
「テディが癒やし……もっと別のものをおすすめするぞ」
クザンと会った時のテディの表情は、正直にいえば鋭いナイフのようで、いつ刺されるかと自然と体が警戒してしまうほどだ。
「わかってねぇなぁ……アレで、もうひとつ、蹴りのひとつでもしてきたら、俺としてはあんし――」
クザンの言葉は、けたたましい水音で掻き消え、海面に立っていた姿も、波に飲まれて消えた。
「なら、これで十分だな。クザン」
いつの間にか、後ろに現れたテディは、凍った水面を見下ろしながら言い放った。
「テディ、相手は一応大将候補じゃろ……? 良いのか?」
小声で聞くが、相変わらずの無表情。
「だから、傷はつけていない」
海には沈めようとしたが。
「あらら……テディちゃん、冗談通じたのね」
新たに凍らせた海面から見上げるクザンは、一度自転車の被害を確認するが、特に損傷はない。
クザンは、一度息をつくと、自転車を起こした。
「仕方ない。今回はこれで戻るとするか」