テディベアの傍らに   作:こっここーまん

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36話 何も知らないのは

 執務室に戻ろうとすれば、貫くような冷たさ。

 

「……」

 

 気にせず執務室に戻ろうとすれば、ついに目の前に身を乗り出された。

 

「アレで俺が納得したと思ってんのか?」

「納得していないであろうから無視したのですよ」

 

 そもそもあの場で、クザンが納得するような答えはできない。

 確かに、あの場で”スパンダインを殴ってユイを助けに行く”という選択をすれば、この男は喜んで同意してくれそうだが。

 

「時間がありません。どいてください」

「時間がねェって……テディちゃん」

 

 掴もうとする腕を受け流し、少しだけ重心がずれてできた隙間に体を滑り込ませる。

 

「少しは話を聞け。テ――」

「私をガキだと言うなら、ガキのワガママだと思って無視してください」

「!」

 

 固まったクザンを置いて、執務室に戻れば、倒れている大尉。

 生きている。

 外傷も打撲こそあるものの骨は問題なさそうだ。

 ソファに寝かせ、書き置きだけ残しておく。

 

「……」

 

 テーブルに残っているまだ温かい飲みかけのお茶。

 ふと触れたお守りの石。

 

「……仕方ないこと、だ」

 

 

***

 

 グランドラインのあるひとつの島の付近の軍艦の上で、白い服の男は目の前の少女を眺めながらため息をついた。

 本来、家に忍び込み確保する予定だった少女は、何故か家から逃げ出し本部に避難した。

 その上、海軍大尉の護衛までついていた。とはいえ、不意打ちで大尉を倒してしまえば、少女は大尉を傷つけないという条件で身柄を差し出してきた。

 スパンダインの話では、作戦開始後、この少女はクザン大将に引き渡すことになっている。

 

「海兵守って捕まるなんてバカだな、お前。せっかく逃げたってのに」

 

 男に出された任務は、ユイの護衛と説得。

 テディから出された条件はただ”ユイをクザンに渡すこと”だけだ。それ以外はなにもない。

 つまり、ユイが()()()()()()()()()()()()()()()()を吹き込んだとしても、構わないということだ。

 

「海兵が死ぬのが嫌なのか?」

「当たり前です」

「そうか……じゃあ、テディもか?」

「当たり前です!」

「本当に?」

「本当です」

 

 睨みつけてくるユイに男は、小さく笑みをこぼした。

 知っていた。

 この娘が心優しく、見ず知らずの海兵でも庇うなんてこと。ひとりで東の海に行く時に、世話をしてくれたテディを大切に思っていることも。

 知っている。

 

 

「テディが()()()()()()()()()()()()()()か?」

 

 

 知っている。

 大切な両親を殺したのが、今まで世話を焼いてくれた人間だと知って、驚いて、絶望して、最後に呪い、恨み、ナイフを今まで大切だった人間に突き立てることを。

 

「……」

 

 ユイは口をつぐみ、少しだけ息をのんだが、ついに口を開いた。

 

「そんなこと――」

 

 否定。最初はみな、そうだ。

 

()()()()()()!!」

 

 正反対の言葉に、頭が真っ白になった。

 何度も、ユイの言葉が頭に木霊する。

 

「し、知ってる……だと?」

 

 嘘だろ。

 

「知ってて、一緒に……!? いや、お前……」

 

 どういう神経してるんだ。調査段階では、この娘は確かにテディが好きだったはずだ。

 もしCPを騙したなら、相当な演技だ。いや、無理だ。それはありえない。

 本当に、こいつは両親を殺したと知った上で、テディを好きでいたと!?

 

「よっこいしょ……」

 

 聞こえるはずのない声に、体を反転させると、甲板の柵を超えたクザン大将がいた。

 

「なっ……!? 約束の時間にはまだ早いぞ!」

「細けェことはいーじゃねーの。受け渡しが開始後でも、会うことは禁止じゃねぇだろ」

「クザンさん……」

「元気そうだな。ケガも無さそうだし……よしよし」

 

 ユイの前に屈んだクザンは、ケガがないことを確認すると、頭を撫でた。

 

「そんなの屁理屈だ!」

「お前さんに言われたくはないけどな。まぁ……なんだ。アレだ。アレ。今回の作戦、俺が関わっちゃいけねぇって話でなぁ。ヒマなんだよ」

 

 半分嘘で半分本当だろう。作戦の概説は聞いているが、この男ひとりで止められてしまう可能性だってある。

 

「暇潰しってわけじゃねーけど、ユイ。そろそろ話してくれねぇか? テディちゃんとのこと」

「……」

 

 じっと見下ろすクザンの目に、ユイは一度目を伏せると、ゆっくりと開いた。

 

「お姉ちゃんと初めて会ったのは、故郷の港でした」

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