テディベアの傍らに   作:こっここーまん

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37話 フルーツ屋

 偉大なる航路のとある島。

 港に行くと、普段は見かけない船がいた。

 

「?」

 

 決して大きくはないものの、近場の島になら渡れるほどの大きさの船。

 こういった船に乗ってくるのは、大抵商人だ。

 近くの島から売れそうなものを持ってきて売る、島と島での流通に欠かせない存在。

 

「こんにちは」

 

 船をのぞき込んでみれば、そこにいたのは大きな体の男の人と女の人。

 

「いらっしゃい。お嬢さん。落ちないように気を付けて」

 

 男の人は、女の人に目をやり、少女も船の中をのぞき込むと、たくさんの木箱の中に詰め込まれた果物。

 

「フルーツだ!」

「あぁ、ひとつ食べてみるか?」

「いいの?」

「いいとも」

 

 帽子をかぶった女は、ひとつ果物を手に取ると、手馴れたように一部分を切り出し、少女に差し出す。

 

「おいしい! お姉ちゃんたちは、フルーツ屋さん?」

「主にはね。他にも、近隣の島から運べるものがあれば運んでるよ」

 

 食べ終えた少女に、またひとつ切り出すと、目を輝かせた。

 

「いいの?」

「あぁ。フルーツは足が速い。これも腐りかけでね。一番おいしいけど、次の島までは持たないからね」

 

 パクリと口に入れる。

 

「ここの島の子?」

「うん。ユイだよ」

「ユイか。ユイの家は、フルーツはよく食べる?」

「生はあまり食べないかな。でもね、ママがパイは、すっごくおいしいからよく食べるよ! 今度持ってきてあげる!」

「それは嬉しいな」

「あ! 後で、連れてくるね」

 

 しかし、女は少し迷った後、困ったように笑う。

 

「それは嬉しいが、実を言うと、ここは店じゃないんだ」

「え?」

「港で店を開くとほかの人の邪魔になるだろう? だから、本当の店は向こうにあるんだ」

 

 すると、ユイは慌てて頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい!」

「気にしないで。ただ、ここにあるのは、別の島用だったり、売れないものだったりするから、買うなら向こうの店に行ったほうがいいってだけ」

 

 詳しい店の場所を教えると、ユイも少しだけ恥ずかしそうに頷く。

 

「じゃあ、お姉ちゃんたちは船番なの?」

「あぁ。結構暇なもんでな。退屈してたんだ」

「そうなの?」

 

 女に目をやると、微笑み頷かれた。

 

「売上は売上として、またここにきてくれたら嬉しいな」

「! うん! じゃあ、今度はパイを作ってくるね!」

 

 そう言って、ユイが手を振って去ると、男は顎に手をやった。

 

「初日から引っかかるとはな。幸先がいい」

「……」

 

 女は何も言わずに、濡れたナイフを拭う。

 男もその様子を眺めるものの、全く感情が読めず、見るのをやめた。

 

***

 

 家のドアを開けると、テーブルの上にカゴにいっぱいのフルーツが置いてあった。

 

「あ!」

「おかえり」

「これ、今日来てた」

「えぇ。そうよ。ユイも見つけてたのね」

「うん。ママに教えようと思ってて」

「ありがと。じゃあ、今から作ろっか」

「うん!」

 

 焦がさないように、チェリーと砂糖を入れた鍋を混ぜながら、先程のことを話す。

 

「あら、そうなの? じゃあ、いっぱい作ろうね。パパが食べきれないくらいに」

「うん」

 

 甘い香りが広がってくると、火から降ろし、生地を作っていた母の元へ行く。

 

「渡すなら、小さく包もうか」

 

 渡された生地を伸ばし、ひとつひとつにジャムを包んでいく。

 母は自宅用を手際よく作り上げると、ユイの様子を見ながら、窯を温める。

 

「できた!」

 

 そう言って、差し出されたパイは、ハートの形をしていた。

 

「随分、かわいくなったわね」

「かわいくした!」

 

 パイの焼き上がりを待っていると、開いたドア。

 

「ただいまーチェリーパイか?」

 

 香りに誘われるように、台所をのぞき込めば、ユイが窯の中をのぞき込んでいた。

 その隣には、大きなパイが既に焼きあがっている。

 

「家の分は焼きあがってるわよ」

「またどこかにおすそ分けか? いっそ、本当に店にするか? 人気がありすぎて嫉妬しそうだ」

「はいはい。どこかの誰かさんがいっぱい食べるから、お店に並ぶ分はありません」

 

 冗談交じりに笑う妻から渡されたパイを手に、ユイの隣で同じように窯をのぞき込めば、見えにくいものの妙な形のパイ。

 

「…………」

 

 おそらく言ってはいけないことを想像したが、すぐに笑う。

 

「ハートかぁ……俺が食べていい?」

「ダメ!」

「いやだって、娘のハートって」

「はいはい。パパは大人しく、パイを切っておいてください。もう少しで焼けるから」

 

 妻にテーブルの方へと押されていった。

 

***

 

「……ケ――いや、冗談だ! うまそうだ! いただくよ」

 

 翌日、店に彼女たちがいないことを確認してから、ユイは船に来ていた。

 ハート型のパイを見て、男が何か言いかけたが、すぐにパイを口に放り込んだ。

 

「うん。うまい!」

 

 あっという間に食べきると、女の方へと目を向けた。

 

「……」

 

 女も一口食べて頷いた。

 

「おいしいよ。ありがとう」

「! よかった!」

 

 安心したのか、ユイも女の隣に座り、自分の分のパイを口に入れた。

 

「そういえば、お店の人に聞いたんだけど、お姉ちゃんたち、明日出航しちゃうの?」

「あぁ。また隣の島にいくんだ」

「そっか……」

「またくるよ」

 

 柔らかく微笑み、頭を撫でれば、ユイは嬉しそうに笑う。

 

「じゃあ、今度来たら、もっと美味しいパイ作るね!」

「それは楽しみだ。じゃあ、お礼に今度来る時は、ユイが好きなフルーツを持ってこよう。何がいい?」

「うーん……チェリーが好きかな。あ、パパとママは桃が好きなんだけど、なかなか手に入らないんだって」

「桃か……この辺だと、わりと珍しいな。もしかして、パパとママは別の島から移住してきたの?」

「うん。旅行先で会って、一目惚れなんだって」

 

 たまたま偉大なる航路のひとつの島で出会った彼を探すのは、それはもう苦労したのだと、よく母に聞かされていた。

 それを父に聞かれるたび、惚気のなんとも気恥しい空気に、ユイですら困ってしまうほどだ。

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