テディベアの傍らに   作:こっここーまん

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だいぶ遅くなりました。すみません。


39話 気づき

 いつもどおり、船が島についてすぐ、ユイはやってきた。

 船の中で、腐りかけと称した果物を渡しながら、話をする。

 七割はなんの関係の無い会話。一割は、嘘を本当のように見せる会話。残りの二割が本当に聞き出すための会話。

 しかし、気を付けなければいけないのは、ショカンをここに連れてくるような会話には絶対にしてはいけないということ。

 

「アレってなに?」

 

 ユイが指さしたのは、天井から掛けられたオブジェ。

 

「あぁ……お守りだよ。大きな船の船首に、航海の安全を願って取り付けられてるだろ。それの代わりだよ」

「じゃあ、これと同じなんだね」

 

 首元に掛けられた緑色の石を見せるユイ。

 ほぼ必ずユイは、そのネックレスを首にかけていた。どうやらお守りらしい。

 

「ママがくれたお守りなんだ! 大事な人にあげるお守りなんだって」

 

 付けていない時は、確かショカンが島にいない時だ。その時は、渡しているのかもしれない。

 なら、明日、ユイが持っていなければ、確実にショカンが島にいないということになる。

 

「今度、お姉ちゃんにも作ってあげる!」

「……え? 私に?」

「うん! お姉ちゃんのこと、大好きだもん!」

 

 嘘でもなんでもない言葉に、少しだけ戸惑った。

 

「あぁ、うん。ありがとう。ユイ」

 

 なんてことのない言葉。そんな陳腐な言葉、何度も聞いた。何度だって言った。

 これはただの任務。いつもの言葉と表情を返した。

 

***

 

「アップルパイでいいの? ユイ、チェリーパイの方が好きでしょ?」

「いいの! お姉ちゃん、アップルパイの方が好きみたいだから」

 

 少しだけ慣れた手つきでアップルパイを作る。

 

「あ、そうだ。ママ、このお守りって私でも作れる?」

「作れるわよ。好きな人でもできた?」

「違う。でも、パパが船に乗る時に貸してるから、お姉ちゃんにも作ってあげたいの」

「あぁ……そういうこと。いいわよ。じゃあ、あとで作り方教えてあげる。石は何色――」

「ただいまー」

 

 すっかり慣れたアップルジャムの香りに、ショカンも顎に手をやる。

 

「最近、アップルパイ多いな……ユイの好きな奴の好物か? それっぽい男子はいなかったはずだが」

「残念だけど、男の子じゃないのよねーきれいなお姉さんよね」

「憧れのお姉さんか。なら良し。パパも安心だ」

「もし、ユイに好きな人が出来ても、パパがいたら大変そうねぇ……ママが抑えておいてあげるから、駆け落ちでも何でもしなさい。連絡だけは頂戴ね」

「ママってば……」

 

 妻の冗談に聞こえないような発言に、ショカンも困ったように頬を引き攣らせた。

 

「あ、パパ。明日、船に乗るんだよね」

「あぁ」

「はい。お守り! また貸してあげる!」

 

 自分の緑色の石のお守りを取れば、ショカンもユイの前に屈んだ。

 そして、首にかけられるお守り。ショカンが船に乗る時は、必ず貸していた。

 

「パパが無事に帰って来られますように」

 

 こうして無事を祈るのも恒例だ。

 

「ありがとうな。ユイ」

 

 優しい娘の頭を撫でて立ち上がれば、ちょうどいい焼き色になった香りが漂ってきた。

 昔の癖か、自分たち用のピーチパイを切り分けながら、台所で差し入れ用のパイをカゴにいれているユイたちの会話に、聞き耳を立ててしまう。

 

「お守りはね、その人の色の石を使うといいって言われてるのよ」

 

 憧れの人に渡すのか。と、いつかくるとわかっていたものの、自分以外に娘からお守りを渡され、祈られるのかと寂しく思っていれば、次に聞こえてきた言葉に、包丁の刃が止まった。

 

「じゃあ、紫! お姉ちゃん、すごくきれいな紫色の目なんだ!」

 

 紫色の目。すぐに浮かんだひとりの少女。

 しかし、その少女を見た記憶はない。だが、紫色の目の人間をこの島で商人を含めても見た記憶は、ない。

 

「そうね。紫がいいわね。あぁ、でも、紫の石はすぐにはできないわね……作り方だけ教えてあげるから、石はちょっと待っててね」

 

 だが、ユイの語る回数から見て、何度もこの島に訪れている。そして、妻もそれを知って、見たことがあるようだ。

 

「うん。わかった」

 

 だが、自分だけが見覚えがない。

 まるで、自分を避けているかのよう。

 

「なぁ、ユイ。そのお姉ちゃん、なんて人だ? 船乗りなんだろ?」

「うん。果物屋さんだよ。人見知りで、いつも船番してるんだって。でも、よく寂しそうな顔してて……あ、でもね! ママのパイ持っていくと、嬉しそうな顔するよ」

「ユイ、よくわかるわよね。私は、寂しそうには見えなかったけど」

「してるよ!」

 

 少しだけ頬を膨らませるユイに、ショカンも口角を上げた。

 

「なぁ、ユイ。俺にも、そのユイの憧れのお姉さんのこと、教えてくれよ」

 

 笑顔で聞けば、ユイは少しだけ表情を強ばらせる。

 

「パパ、お姉ちゃんに変なことするつもり?」

「違う! 断じて違う。ちょっとは、まぁ、娘を預けていいか考えるが……

 でも、気になるんだ。その、お姉ちゃんとやら」

 

 

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