テディベアの傍らに   作:こっここーまん

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46話 願うしかないな

「はァ? クザン大将がそこにいるゥ? どういうことだ? テメェ」

「知りません」

 

 スパンダインが睨んでくるのは正しい。

 実際、私が頼んで向かってもらった。正直、断られるかと思っていたが、

 

『たまには、まぁ、ガキのワガママに付き合うのもありだろ』

 

 なんて、意外にもあっさりと承諾し、青チャリに跨った。

 

『でもよ、ワガママっていうなら、命は賭けるなよ』

 

 そう言い残すと、クザンは青チャリのペダルを漕いで行った。

 

「……まぁいい。作戦についてだが、これを使う」

 

 渡されたのは、”ダイナ岩”。

 古代兵器にも匹敵する爆弾。

 

「ポイント付近には、海底火山地帯がある。調査の結果、そのマグマのおかげで温められた大空洞も存在するらしい」

「ノックアップストリームですか」

 

 空島へ行くためのルートのひとつ。ノックアップストリーム。

 普通の船では、遭遇すれば沈没は免れない。もし、遭遇しなくても、空への海流は一時的にその付近の海流を乱す。

 まともな航海士なら、起こりそうな地形と気候が揃えば、避けるのが一般的だ。

 だが、そんな稀で危険で自然現象を、娯楽のように、自分の見たいタイミングで見るような、そんな横暴、したがるのは極一部。

 頭を抱えた上層部も多かっただろう。センゴクもそのひとりのはずだ。

 

「話が早くて助かる。お前がやるのは、指定のポイントにこのダイナ岩をセットして、起動後させることだ。ダイナ岩の起動には、空気が不可欠。シャボンで必ずコーティングする必要がある。いいな?」

 

 それは、つまり死ねということだ。

 シャボンでそんな高速移動はできない上、周りは海。

 例え、ダイナ岩の衝撃に体そのものが耐えられたところで、シャボンは耐え切れず割れ、海水に飲まれ、能力者の私は、そのまま沈み、水圧で潰れる。

 

 ポイントに単独でシャボンでたどり着けば、海底火山以外、何もない場所。

 でんでん虫ひとつ渡されず、見聞色で潜水艇のいた辺りを探るもののの、すっかり見当たらない。

 政府を裏切って、最後はムチャクチャな天竜人の命令の為に使い潰す。よくあることだ。

 むしろ、取引に応じているだけマシだろう。

 

 海軍元帥と大将、中将の前で取引を交わした。これで大きな理由もなしに、ユイを殺せば、スパンダインの信用は無くなる。戦闘力でCP0に入った訳ではない人間にとって、それは痛手になる。

 だから、殺せない。

 

 クザンもバカじゃない。今回、私が死んだ後もユイを誰か信用のおける人間に預けるだろう。

 そうすれば、ユイはひどい目に合わない。

 まともな人生は、私が奪った。あの子の大切だった父も母も。友人だって。

 一緒にいると言ってくれた、あの子のものを奪って。

 

「……ユイのためって言いながら、全部奪ってるのは、私だよ。クザン」

 

 殺せないと、手を止めたあの時から。

 生きて欲しいと願っているのに、生きること以外は全て私が奪って。

 でも、これでユイは解放される。

 私にできる、あの子を逃げすための作戦が、ようやく完遂できる。

 

 師匠の死で完遂したはずの作戦は、偽装だったとバレた。

 そして、諸共殺されて。

 だから、今度は、本当の死で完遂する。

 

 これは、ワガママだ。

 だけど、これは私が私に課した任務。

 

『死は怖くねぇ。それが戦いなら本望だし、任務ってんなら自分一人の問題じゃねぇ。たまたま、自分の立ち位置がそこだったってだけだ』

 

 そう。だから、ここで私は終わる必要がある。

 

『ユイも、クザンもセンゴクだって、死ぬなって言ってるのに、か』

 

「これしかわからないんだよ。師匠の残した、この方法しか……」

 

『なら――』

 

 爆発音と衝撃と共に、シャボンが割れ、大きな水流に意識も一瞬で飲まれた。

 

***

 

 海上では、大きな空に向かう海流が起きていた。

 それに飛び上がって喜ぶ船に、恐怖で怯え見上げる船、様々な船がいる中、ユイはその海流を見続けていた。

 あの時と同じように。

 

「現物見るのは始めただが、はぁ……こりゃ、確認するまでもないだろ」

 

 これで生きていたら、化け物か、相当運がいいやつだ。

 

 海流の収まった海は、先ほどとは打って変わり、それは穏やかなものだ。

 

「ま、約束だからな。そいつは返すよ。とっとと連れて帰れ」

 

 クザンもユイを抱え上げると、海上に残していた青チャリに乗せ、船から離れた。

 

「クザンさん!!」

 

 数回も漕がない内に、後ろから背中を引かれる。

 強さや揺れからしても、また自転車の後ろで立ち上がったのだろう。

 さすがは、ショカンの子供かと体制を立て直す。

 

「お姉ちゃんのこと、探しに行かなきゃ! 私ひとりでも――」

「落ち着きなさいな。俺もユイちゃんのこと任されてる身だからな、一緒に……いや、いいか。

 大丈夫。俺もユイと同じ気持ちだ」

 

 すでに、近くの島を目指している。

 ノックアップストリームに巻き込まれたのだ。見つけられても、酷い有様かもしれない。

 それこそ、子供には見せられないような。

 だが、それを聞くというのは、野暮だ。

 ユイの目は、それもしっかり覚悟している目だ。

 

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