「はァ? クザン大将がそこにいるゥ? どういうことだ? テメェ」
「知りません」
スパンダインが睨んでくるのは正しい。
実際、私が頼んで向かってもらった。正直、断られるかと思っていたが、
『たまには、まぁ、ガキのワガママに付き合うのもありだろ』
なんて、意外にもあっさりと承諾し、青チャリに跨った。
『でもよ、ワガママっていうなら、命は賭けるなよ』
そう言い残すと、クザンは青チャリのペダルを漕いで行った。
「……まぁいい。作戦についてだが、これを使う」
渡されたのは、”ダイナ岩”。
古代兵器にも匹敵する爆弾。
「ポイント付近には、海底火山地帯がある。調査の結果、そのマグマのおかげで温められた大空洞も存在するらしい」
「ノックアップストリームですか」
空島へ行くためのルートのひとつ。ノックアップストリーム。
普通の船では、遭遇すれば沈没は免れない。もし、遭遇しなくても、空への海流は一時的にその付近の海流を乱す。
まともな航海士なら、起こりそうな地形と気候が揃えば、避けるのが一般的だ。
だが、そんな稀で危険で自然現象を、娯楽のように、自分の見たいタイミングで見るような、そんな横暴、したがるのは極一部。
頭を抱えた上層部も多かっただろう。センゴクもそのひとりのはずだ。
「話が早くて助かる。お前がやるのは、指定のポイントにこのダイナ岩をセットして、起動後させることだ。ダイナ岩の起動には、空気が不可欠。シャボンで必ずコーティングする必要がある。いいな?」
それは、つまり死ねということだ。
シャボンでそんな高速移動はできない上、周りは海。
例え、ダイナ岩の衝撃に体そのものが耐えられたところで、シャボンは耐え切れず割れ、海水に飲まれ、能力者の私は、そのまま沈み、水圧で潰れる。
ポイントに単独でシャボンでたどり着けば、海底火山以外、何もない場所。
でんでん虫ひとつ渡されず、見聞色で潜水艇のいた辺りを探るもののの、すっかり見当たらない。
政府を裏切って、最後はムチャクチャな天竜人の命令の為に使い潰す。よくあることだ。
むしろ、取引に応じているだけマシだろう。
海軍元帥と大将、中将の前で取引を交わした。これで大きな理由もなしに、ユイを殺せば、スパンダインの信用は無くなる。戦闘力でCP0に入った訳ではない人間にとって、それは痛手になる。
だから、殺せない。
クザンもバカじゃない。今回、私が死んだ後もユイを誰か信用のおける人間に預けるだろう。
そうすれば、ユイはひどい目に合わない。
まともな人生は、私が奪った。あの子の大切だった父も母も。友人だって。
一緒にいると言ってくれた、あの子のものを奪って。
「……ユイのためって言いながら、全部奪ってるのは、私だよ。クザン」
殺せないと、手を止めたあの時から。
生きて欲しいと願っているのに、生きること以外は全て私が奪って。
でも、これでユイは解放される。
私にできる、あの子を逃げすための作戦が、ようやく完遂できる。
師匠の死で完遂したはずの作戦は、偽装だったとバレた。
そして、諸共殺されて。
だから、今度は、本当の死で完遂する。
これは、ワガママだ。
だけど、これは私が私に課した任務。
『死は怖くねぇ。それが戦いなら本望だし、任務ってんなら自分一人の問題じゃねぇ。たまたま、自分の立ち位置がそこだったってだけだ』
そう。だから、ここで私は終わる必要がある。
『ユイも、クザンもセンゴクだって、死ぬなって言ってるのに、か』
「これしかわからないんだよ。師匠の残した、この方法しか……」
『なら――』
爆発音と衝撃と共に、シャボンが割れ、大きな水流に意識も一瞬で飲まれた。
***
海上では、大きな空に向かう海流が起きていた。
それに飛び上がって喜ぶ船に、恐怖で怯え見上げる船、様々な船がいる中、ユイはその海流を見続けていた。
あの時と同じように。
「現物見るのは始めただが、はぁ……こりゃ、確認するまでもないだろ」
これで生きていたら、化け物か、相当運がいいやつだ。
海流の収まった海は、先ほどとは打って変わり、それは穏やかなものだ。
「ま、約束だからな。そいつは返すよ。とっとと連れて帰れ」
クザンもユイを抱え上げると、海上に残していた青チャリに乗せ、船から離れた。
「クザンさん!!」
数回も漕がない内に、後ろから背中を引かれる。
強さや揺れからしても、また自転車の後ろで立ち上がったのだろう。
さすがは、ショカンの子供かと体制を立て直す。
「お姉ちゃんのこと、探しに行かなきゃ! 私ひとりでも――」
「落ち着きなさいな。俺もユイちゃんのこと任されてる身だからな、一緒に……いや、いいか。
大丈夫。俺もユイと同じ気持ちだ」
すでに、近くの島を目指している。
ノックアップストリームに巻き込まれたのだ。見つけられても、酷い有様かもしれない。
それこそ、子供には見せられないような。
だが、それを聞くというのは、野暮だ。
ユイの目は、それもしっかり覚悟している目だ。