テディと会ってからすでに数日。クザンの家から外に出ることも増え、マリンフォードに住む人たちともそれなりに顔見知りになってきた。クザンの隠し子といったおかしな噂は流れているものの、クザンも特に訂正しないため、噂が噂を呼んでいた。
「ん……」
小高くなった塀によじ登れば、海軍本部が見えた。
ガープにヒマなら遊びに来いと言われ、同じくらいの子供と都合が合わない時には遊びに行っていたが、今日はどうしようかと悩んでいれば、
「おぉ~い。そんなところに登っちゃ危ないよぉ?」
下から声をかけられ振り返れば、帽子をかぶった海兵。正義の羽織りをかけているから、それなりに偉い人。
身長が高いため、そのまま脇を抱えられて下ろされてしまう。
「危ないことはほどほどにするんだよぉ」
あれくらいで落ちはしないが、素直に頷いておけば、海兵からでんでん虫の音。
海兵にも聞こえたのか、腕につけられた黒いでんでん虫に声をかけている。だが、音はポケットから聞こえていた。
「あれぇ? おかしいなぁ……」
「そっち、盗聴……こっち! ポケット、鳴ってます!」
「おぉ~こっちか。ありがとうねぇ」
ようやく気がついたのか、海兵はポケットからでんでん虫を取り出すと、ようやく会話が進んだようだ。
内容は、戻ってきて欲しいという内容。
「急ぎじゃないんなら、ゆっくり歩いて帰るよ」
『まぁ、光の速度で帰ってこなくても大丈夫です……』
乾いた笑いと共に切れたでんでん虫をしまうと、海兵は一度ユイに手を振ると、去っていった。
「うわっすげぇ……黄猿じゃん!」
「黄猿?」
近所に住む同じくらいの少年だ。
「海軍大将のひとりだよ」
「え……あの人、大将なの?」
海軍の最高戦力である大将のひとり。ユイも噂では聞いたことがある。常に3人が大将の座にいるが、今は2人しかおらず、最後のひとりを選出している最中だという。
まさか、そんなすごい人物だとは思わず、ユイもなんとなく背中をずっと追ってしまった。
***
「おかえりなさい。ボルサリーノさん」
「ただいま~またでんでん虫、間違えちゃったよ」
「でしょうね……」
もはや、でんでん虫にすぐに出るとは思っていない。
「でも、今日は優しい子がいてね。すぐに、ポケットから音が鳴ってるって教えてくれたんだよ」
「それで、今日は少し早かったわけだ……というか、いい加減、黒でんでん虫は盗聴用って覚えてください!」
「ごめんごめん」
ボルサリーノは臨時に舞い込んできた書類を手に取ると、首をかしげた。
「そういや、あの子、盗聴用って言ってたような……」
何故、あのような小さな子供が盗聴用でんでん虫など知っていたのか。
少し疑問には思ったものの、ここに住んでいるということは、親は海兵だろう。なら、教えていたのかもしれないと、書類に意識を戻したのだった。