すっかり暗くなった部屋の中、明かりは特に付いてはいなかった。寝ているのかと、静かにドアを開ければ、そこにいたのは紫色の髪を持つ女。その膝には、眠っているユイ。
「テディちゃん……」
「お邪魔しています」
「マジで侵入したのか」
「本部よりずっとラクですよ」
「本部でも簡単に侵入するでしょうが」
近づいてみれば、ユイの手はしっかりとテディの服を掴んでいて、離す気配がない。
「捕まったわけね」
会うつもりはなかったと。
視線を向ければ、ユイに優しげに向けるのをやめ、こちらを見た。
「あなたの話をたくさん聞きました。やはり、あなたを選んでよかった」
「あー……一応、言っておくが、ガープさんに歳の話、バレてるからテキトーに理由考えといたほうがいいぞ」
教えておけば、テディは少しだけ目を見開き、目を逸らした。
「覚えてたのか……」
「でも、なんで俺だったんだ? テディちゃんと会ったのなんて任務と、数回くらいだろ」
「全て任務中です。理由……信用が置けた。ただそれだけです」
「信用?」
「任務に忠実。だが、ニコ・ロビンは殺さなかった」
「!」
もちろん、バレていないとは思っていない。特にCP9はロビンを追っている主な機関でもある。あの少女がどのようにオハラから脱出したのか、運がよかっただけなのか、もちろん調べ上げただろう。
そして、今でも追い続けている。
「なら、俺もCP9からは嫌われてるわけかねぇ?」
「嫌われてはいませんよ。書類上、ニコ・ロビンは、クザン中将とサウロ中将の戦闘の余派に押し流されたため、隣の島へ辿り着くのが早まり、無事渡れたものと推測されましたから」
「それって……」
「ショカンに感謝するべきでしょうね」
当時のCP9のリーダー格であり、歴代で最も強いと言われた男。現在はすでに死んでいる。テディの世代の師匠にあたる人物。
何度か話す機会はあったが、任務ともなれば冷徹。だが、話の分かる男だった。クザンも小さく口元を緩めると、テディに目をやる。
「それで、テディちゃん。前にも言ったけど、”海軍”に戻ってこないか?」
見定めるような目。
クザンもはっきりとその言葉を口にする。
「正確にいえば、俺の副官として、だ。前の副官は少佐になってな。今は副官いない状態だったんだが、大将に昇格するのに、副官がいねぇってのは問題だってセンゴクさんに言われててな。どうだ? 悪い話じゃないだろ」
「……」
「なんだよ。そんな顔して。予想通りだろ?」
前に言った時から、おそらくテディも察しはついていたのだろう。眉をひそめている。
そして、一度目を閉じて息を吐き出してから、ゆっくりと開いた目。
「その意味が理解できないわけではないだろ」
髪と同じ、紫の目はひどく冷えきっていて、先程までの感情など消え失せていた。
「理解しねぇで、元CP9にこんなこと言えるほど命知らずじゃねぇよ」
「なら、その命は捨てたのか」
「それはお前さんの方だろ。テディちゃん」
表情は変わらない。ただじっとこちらを見つめる。
「ひとりで逃げるなら簡単だろう。だが、その子を無事に連れていくなら、まずムリだ。だから、絶対にテディちゃんは何かしらの代償を支払うことになる」
「そうだ。CP9だったからこそ、お前以上にわかっている。あいつらは私を逃がしはしない」
世界政府にとって不利益な情報を多々持っている人間を、野放しにしておくなど危険だ。適当な罪状と共に首に賞金がかけられるのも時間の問題だろう。
「俺が守る」
そのための副官だ。
「命と引き換えなんてガキの下策より、よっぽどマシな結果にしてやる」
安い挑発だ。買う必要なんてない。
ひどく落ち着いた心、
「だから、もう一度だけ俺を信用してくれ」
懇願にも近いそれは、テディの言葉を押さえ込むには十分だった。
補足
CP9時代は、任務内容が食い違っていたり、裏で手を回していたりなど色々な都合から、海軍を信用は1ミリたりともしていません。
そもそも任務が任務のため『信用=利用価値』感覚なので、信用なんて1ミリたりともしないテディが、「信用できた」などと言い出すので、クザンからすると割りと動揺していたりします。