テディベアの傍らに   作:こっここーまん

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9話 甘い香りと

「まぁ~たサボりかい? クザン」

 

 吹き抜けの廊下から下の様子を見ているクザンに声をかければ、めんどくさそうな顔を向けられた。

 

「今は怖ぇ副官がいるから、サボれねぇんすよ」

 

 そういえば、クザンが大将になる条件に、次の副官を付けろと言われていた。どうやら見つかったらしい。

 

「そいつはいいねぇ~君のところで滞ることも多いからね。いったい、誰だい?」

 

 大将の副官ともなれば、機密事項を扱うことも多い。それなりの階級と経験、実力が必要だ。

 すると、クザンは下に目をやった。下では、ふたりの海兵が組手のようなものをしている。ふたりともよく知っている人物だ。

 

「ガープさんにテディちゃん? どうしたの? あれ……」

 

 組手というか、ガープが一方的に殴ろうとしているをテディが避けているようだ。

 

「なんつーか……ガープさん、歳だな。みたいなこと言って」

「そいつはぁ……」

 

 ガープもまだまだ現役だ。若者のテディが歳ですね。なんて言ったら、ゲンコツのひとつは確実だ。

 結果があの状況なのだろう。

 

「それにしても、やっぱり強いねぇ」

 

 ふたりして覇気も六式のひとつも使わず、テディは能力すら使わず、反撃もせずに避け続けている。

 しかも、本部が壊れないようになのか、ガープに踏み込みをさせないようにか、ガープと距離を離すことなく、小さな円をかくように避け続けている。

 そもそも、あのガープのゲンコツを全て捌いているという時点で、海兵からすれば驚きだ。

 

「とはいえ、そろそろ止めないとまずいとは思うんだよなぁ……」

 

 野次馬のこともだが、そろそろセンゴクが聞きつけて怒鳴り込んできそうだ。

 だが、この場にいる中で、あの闘志を燃やし始めているガープのことを止められるのはいない。

 

「君が割り込んできなよ~~止まりはするんじゃない?」

「俺がゲンコツ食らうけどな!」

 

 それくらい我慢しなよ。といえば、なおさら嫌そうな顔。

 

「やめないかいッ!」

 

 下から聞こえてきた一喝は、つるのようだ。ガープを止められる数人のひとり。

 ガープが去ると残ったテディとつる、そして黒髪の少女。

 

「あの子……」

 

 前に見たことがある。

 

「前にクザンの家から出てきた子か~」

「ユイちゃんと会ったことあったんすか?」

「1回だけだよ~子供かい?」

「違いますけど、預かってて……ヤベっ」

 

 クザンの慌てた声に下へ目を向ければ、こちらをじっと見つめているテディ。相変わらず、感情の読めない子だ。

 すると、ユイもクザンたちに気がついたようだ。手を振れば、すぐに振り返してきた。ふと目に入ったテディのユイを見つめる柔らかい目。

 

「……テディちゃん、変わった?」

 

 何度会っても、人形のようだとしか思えなかった少女が、確かに今、笑っていた。

 

「少しだけ」

「ふぅ~ん……それで、君の副官って」

「テディちゃん」

「…………命知らずだねぇ~」

 

 クザンは何も言わずに、口端を持ち上げただけ。

 

***

 

 サクサクと口の中で香ばしいバターの香りと甘いリンゴの香りが広がる。

 

「おぉ~これはおいしいねぇ~」

「よかった!」

 

 すっかりと意気投合しているユイとボルサリーノに、クザンはなんとも言えない表情を浮かべていた。

 

「じいさんと孫……」

「怒られますよ」

「怒られてた奴に言われたくない」

「だからこその忠告です」

「別にわっしはそれくらいで怒らないよ~」

 

 また一口パイを口に運ぶと、テディの方を見た。元CP9であり、その頃から大将であったボルサリーノは何度も会話をしたことがある。だいぶ、印象は違うが。

 

「それにしても、テディちゃん、階級どうしたの?」

「一応、書類上は中尉にするそうです」

 

 センゴクも頭を悩ませてのことだ。実力でいえば、中将もしくは大将クラスだが、単純な実力というわけにもいかない。

 

「今後、おそらく迷惑をかけます。申し訳ありません」

「いいよぉ~気にしなくて。政府に迷惑かけられるなんて、いつものことだしさぁ」

「あなたが言うと、重みが違いますね……」

 

 よく天竜人の対応を行なっているだけはある。多少のいざこざなら全く動じない。

 

「まぁ、なにかあったら言ってよぉ。クザンってすぐに女に手を出すって噂だからね」

「え!?」

 

 ユイが勢いよくテディの方へ顔を向けるが、本人は淡々とパイを飲み込むと、

 

「大丈夫。くだらないことしてきたら蹴り飛ばすよ」

 

 淡々と事実だけを告げた。

 

「ひどくない!? 俺、一応上司だよね!?」

「クザンさん、お姉ちゃんに変なことしちゃダメですよ!?」

「しない! しません!! ごめんなさい!」

「謝ったってことは、事実があるってことかな~~?」

「違ぇよ!! 信じたらどうすんだ! つーか、手出せるわけないでしょ! 死ぬから!」

 

 まだ疑っている様子のユイに、悪ノリしているボルサリーノ、我関せずとコーヒーを口に運ぶテディ。

 味方はいないようだ。

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