「まぁ~たサボりかい? クザン」
吹き抜けの廊下から下の様子を見ているクザンに声をかければ、めんどくさそうな顔を向けられた。
「今は怖ぇ副官がいるから、サボれねぇんすよ」
そういえば、クザンが大将になる条件に、次の副官を付けろと言われていた。どうやら見つかったらしい。
「そいつはいいねぇ~君のところで滞ることも多いからね。いったい、誰だい?」
大将の副官ともなれば、機密事項を扱うことも多い。それなりの階級と経験、実力が必要だ。
すると、クザンは下に目をやった。下では、ふたりの海兵が組手のようなものをしている。ふたりともよく知っている人物だ。
「ガープさんにテディちゃん? どうしたの? あれ……」
組手というか、ガープが一方的に殴ろうとしているをテディが避けているようだ。
「なんつーか……ガープさん、歳だな。みたいなこと言って」
「そいつはぁ……」
ガープもまだまだ現役だ。若者のテディが歳ですね。なんて言ったら、ゲンコツのひとつは確実だ。
結果があの状況なのだろう。
「それにしても、やっぱり強いねぇ」
ふたりして覇気も六式のひとつも使わず、テディは能力すら使わず、反撃もせずに避け続けている。
しかも、本部が壊れないようになのか、ガープに踏み込みをさせないようにか、ガープと距離を離すことなく、小さな円をかくように避け続けている。
そもそも、あのガープのゲンコツを全て捌いているという時点で、海兵からすれば驚きだ。
「とはいえ、そろそろ止めないとまずいとは思うんだよなぁ……」
野次馬のこともだが、そろそろセンゴクが聞きつけて怒鳴り込んできそうだ。
だが、この場にいる中で、あの闘志を燃やし始めているガープのことを止められるのはいない。
「君が割り込んできなよ~~止まりはするんじゃない?」
「俺がゲンコツ食らうけどな!」
それくらい我慢しなよ。といえば、なおさら嫌そうな顔。
「やめないかいッ!」
下から聞こえてきた一喝は、つるのようだ。ガープを止められる数人のひとり。
ガープが去ると残ったテディとつる、そして黒髪の少女。
「あの子……」
前に見たことがある。
「前にクザンの家から出てきた子か~」
「ユイちゃんと会ったことあったんすか?」
「1回だけだよ~子供かい?」
「違いますけど、預かってて……ヤベっ」
クザンの慌てた声に下へ目を向ければ、こちらをじっと見つめているテディ。相変わらず、感情の読めない子だ。
すると、ユイもクザンたちに気がついたようだ。手を振れば、すぐに振り返してきた。ふと目に入ったテディのユイを見つめる柔らかい目。
「……テディちゃん、変わった?」
何度会っても、人形のようだとしか思えなかった少女が、確かに今、笑っていた。
「少しだけ」
「ふぅ~ん……それで、君の副官って」
「テディちゃん」
「…………命知らずだねぇ~」
クザンは何も言わずに、口端を持ち上げただけ。
***
サクサクと口の中で香ばしいバターの香りと甘いリンゴの香りが広がる。
「おぉ~これはおいしいねぇ~」
「よかった!」
すっかりと意気投合しているユイとボルサリーノに、クザンはなんとも言えない表情を浮かべていた。
「じいさんと孫……」
「怒られますよ」
「怒られてた奴に言われたくない」
「だからこその忠告です」
「別にわっしはそれくらいで怒らないよ~」
また一口パイを口に運ぶと、テディの方を見た。元CP9であり、その頃から大将であったボルサリーノは何度も会話をしたことがある。だいぶ、印象は違うが。
「それにしても、テディちゃん、階級どうしたの?」
「一応、書類上は中尉にするそうです」
センゴクも頭を悩ませてのことだ。実力でいえば、中将もしくは大将クラスだが、単純な実力というわけにもいかない。
「今後、おそらく迷惑をかけます。申し訳ありません」
「いいよぉ~気にしなくて。政府に迷惑かけられるなんて、いつものことだしさぁ」
「あなたが言うと、重みが違いますね……」
よく天竜人の対応を行なっているだけはある。多少のいざこざなら全く動じない。
「まぁ、なにかあったら言ってよぉ。クザンってすぐに女に手を出すって噂だからね」
「え!?」
ユイが勢いよくテディの方へ顔を向けるが、本人は淡々とパイを飲み込むと、
「大丈夫。くだらないことしてきたら蹴り飛ばすよ」
淡々と事実だけを告げた。
「ひどくない!? 俺、一応上司だよね!?」
「クザンさん、お姉ちゃんに変なことしちゃダメですよ!?」
「しない! しません!! ごめんなさい!」
「謝ったってことは、事実があるってことかな~~?」
「違ぇよ!! 信じたらどうすんだ! つーか、手出せるわけないでしょ! 死ぬから!」
まだ疑っている様子のユイに、悪ノリしているボルサリーノ、我関せずとコーヒーを口に運ぶテディ。
味方はいないようだ。